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第27話 陽キャ男のもう一つの顔

 難民キャンプで結衣とジークは聞き込み調査を始めていた。

 結衣はさっそく子供たちに囲まれている。


「お姉ちゃん、お菓子ちょうだい!」


「ごめんね、今日は持ってないの」


 結衣は申し訳なさそうに首を振る。


「でもまた来るから、その時に持ってくるね」


「本当? 約束だよ!」


 子供たちの無邪気な笑顔に、結衣の心が痛んだ。

 こんな状況でも、子供たちは強く生きている。

 一方、ジークは大人たちに、人攫いの詳しい状況を尋ねていた。


「失踪は、いつから始まったんだ?」


「ここ一ヶ月くらいかな。最初は俺たちも気づかなかったんだ。キャンプの暮らしに耐えられない者は多いからな。自分から抜け出す奴らもいる」


「だが、明らかな失踪者が増えてきたんだな」


「ああ。特に若者や子供がいなくなる。普通にキャンプで暮らしていたのが、ある夜、物音ひとつせず消えるんだ」


 ジークは眉をひそめる。


「衛兵には訴えたのか?」


「何度もな。でもヤツらは取り合ってくれない。俺たちは王都の市民じゃないからな」


 男性の目に諦めが浮かぶ。

 ジークは拳を握りしめた。

 そこへ、見覚えのある声が聞こえてきた。


「おや、見慣れない顔が来てるじゃないか」


 振り向くと、昨夜の酒場で知り合った陽気な男・カインが立っていた。

 だが昨夜の派手な服装とは違い、粗末な生成りのシャツと濃茶のズボンという動きやすい軽装に身を包んでいる。


「え、カイン?」


 結衣が驚いた声を上げる。


「やあ、結衣さん。こんなところで会うとはね」


 カインは穏やかに微笑んだ。

 ジークが警戒の目を向ける。


「お前、なぜここに?」


「俺? ここは週に何度か来てるんだよ。ボランティアでね」


 カインの周りに難民たちが集まってきた。


「カイン! 今日も来てくれたのか!」


「薬は持ってきてくれたか? 妻が熱を出して……」


「前に持ってきてくれた毛布、助かったよ。ありがとう!」


 次々と声をかけてくる難民たち。

 カインは皆の名前を覚えているようで、一人一人に応じていく。


「え、ちょっと待って……」


 結衣は混乱していた。


「カインって、昨夜のチャラ男だよね……?」


「人は見た目じゃないってことか?」


 ジークは腕を組み、カインを観察している。


「カインさん、この人たちと知り合いかい?」


 難民の一人が尋ねる。


「ああ、昨日知り合った旅の人たちだよ。悪い奴らじゃないことは俺が保証するから、安心していい」


「そうか! それなら心強い!」


 カインは結衣たちに向き直った。


「で、君たちはどうしてここにいるんだい?」


「難民キャンプで人攫いが起きてるって聞いて、放っておけなくて……それよりカインこそ何者なの?」


 結衣が真剣な目で尋ねる。

 カインは少し表情を曇らせた。


「俺はただの流れの剣士さ。北方を旅して……そして魔王軍の圧政を見てきた」


「北?」


 ジークの視線が鋭さを増す。


「ああ。村々が焼かれ、若者や子供が連れ去られる。反抗すれば見せしめに処刑される。そんな光景を見てきたんだ」


 カインの目に静かな怒りが浮かぶ。


「だから、ここに逃げてきた人たちを見捨てることはできないね」


 結衣とジークは顔を見合わせた。

 昨夜の陽気な酒場の男とはまるで別人だ。


「でも、どうして昨夜は……」


「酒場ではああいう態度の方が目立たないんだよ。そして王都に見ない顔がくれば必ずチェックする。君たちも例外ではなかったし、危険性はなさそうだと判断した。ただそれだけのことさ」


「……まあ、妥当だな」


 ジークの警戒心が少し和らいだ。

 カインは小声で続ける。


「それに王都の中にも、魔王軍の協力者がいるはずだ。そうでないと人攫いのような大掛かりな犯罪はできないからね。その調査も兼ねて、酒場で情報収集してるってわけ」


 ジークはカインの言葉に耳を傾けた。


「失踪した者たちの情報は?」


「集めているところだ。実際に跡を追ったこともある。だがキャンプから出た後に見失い、いつの間にか王都から消えた」


 ジークは首を傾げる。


「王都の門は夜には閉まる筈だろ、見張りの衛兵は何も見てないのか?」


「衛兵によれば、夜に人の出入りはなかったということだ。明け方までどこかに隠しておき、何らかの形で開門後に連れ出されている可能性が高い」


「……だから、協力者がいる。王都の人間が一枚噛んでるってことか」


「そうだね。これはかなり大規模な組織犯罪だと、俺は睨んでる」


 カインはジークに向き直った。


「君は王都の事情にも詳しいと見た。頭の回転も早いし観察眼も良い。荒事にも慣れてそうだ。俺としては事件解決にぜひ君の力を借りたいんだが、どうだろう?」


 ジークはカインからフッと目を逸らす。


「……オレはボランティアじゃねぇ」


 カインは残念そうに笑った。


「そうか、悪かった。さっきの言葉は忘れてほし……」


 だが、その言葉をジークが遮る。


「けどアイツならきっと『絶対許せない! 私が捕まえてやる!』とか言って、二つ返事で引き受けちまうんだろうな」


 カインは驚いたようにジークを見つめた後、やがて苦笑しながら手を差し出した。

 ジークはニヤリと笑い、その手を握り返した。

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