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第24話 魔王のヒントはどこに?

 王都アルヴァニスの朝は、ふかふかのベッドから始まる。

 結衣はシーツに顔を埋めて、しばらく夢と現実の間をふわふわと漂っていた。


(……ああ、もう一生ここで寝てたい)


(結衣、そろそろ起きないと朝ごはんなくなるよ!)


(うっ……それは困る!)


 蒼の声に渋々ベッドから這い出す結衣。

 食堂に降りると、ジークとミリアはすでにテーブルについていた。


「遅いぞ」


「おはようございます、結衣さん」


「おはよー……あ、美味しそうなパン!」


 テーブルには焼きたてのパン、バター、果物、スープ。

 王都クオリティの朝ごはんは、やっぱり最高だ。

 ミリアはハーブティーを飲み、ジークは無言でパンをかじる。

 結衣は「うまっ!」と感動の声をあげた。


「王都のパンって、なんでこんなに美味しいの……?」


「粉が違うんだろ」


「そうなんですか? ジークさんは物知りですね」


「いや、適当に言ってみただけだ。知らん」


 ジークの返事に、結衣とミリアは苦笑した。

 ミリアが結衣に声を掛ける。


「結衣さん、今日はどうしますか?」


「決まってるでしょ! 行くよ、図書館!」


 結衣は昨日からワクワクが止まらない。

 ロックバードの村で聞いた「魔王の情報が書かれた古文書がある」という王都の図書館。

 その真偽を確かめに行くのだ。


「オレは本なんて読んだことないけどな」


 ジークがパンをかじりながらぼそりと呟く。


「私も日本語なら読めるんだけどねー」


 結衣も苦笑い。

 ミリアが名乗り出た。


「あの、私が読みます。少しなら字が読めますから」


「嬉しい! 頼りはミリアだけだよ、今回もよろしくね!」


「そんな……お役に立てたらいいのですが」


 少し頬を赤らめるミリアの背中を、結衣がどーんと叩く。

 

「大丈夫! カドラスの転売ヤーの時だってミリアのおかげで証拠が掴めたんだから、もっと自分に自信もって!」


「お前、なんでもかんでもミリアに頼りすぎだろ」


 三つ目のパンに手を伸ばしながら、ジークが結衣に小言を言う。

 

「でも、ジークも本は読めないんでしょ? 人のこと言えないじゃん」


「まったく……本当に神経の図太い女だな」


「このくらいポジティブでなきゃ、異世界でやってけないからね!」


「そういやお前には皮肉も効かないんだったな、この能天気女」


 楽しい朝食の時間は過ぎていく。


---

 

 宿を出発した三人は王都の中央通りを歩き、荘厳な石造りの図書館へ向かった。

 入口の前で、結衣は思わず息を呑む。


「ヤバっ……本当にお屋敷みたい」


「王都の王立図書館は、王家秘蔵の書もあるって話だからな。値段の付けられないお宝がゴロゴロしてるようなもんだ」


「おふたりとも、図書館では静かにしないと、怒られますよ」


 結衣とジークのおしゃべりを、ミリアが小声で注意する。

 中に入ると、天井まで届く本棚がずらりと並んでいた。

 高い窓から差し込む光が、埃をきらきらと照らしている。


「うわぁ……本がいっぱい……」


「これ、どこから探せばいいんだ?」


「とりあえず『王家』とか『歴史』とか、そういった棚を見てみましょうか」


 ミリアが案内図を見ながら、奥の方へ進む。

 しばらくして、三人は分厚い本を何冊か机に積み上げた。


「じゃあ、私が読みますね」


 ミリアが本を開く。

 一生懸命、指で字をなぞりながら読み進める。


「……えっと、『建国の歴史』……『王家の系譜』……うーん、魔王の話は……見当たらないですね」


「やっぱり、難しい?」


「はい、古い文章が多くて……でも、もう少し頑張ります!」


 ミリアは額に汗をにじませながらページをめくる。


「……なあ、これ全部読むのか?」


 ジークは隣でぼんやりと本の山を眺めていた。

 結衣は肩の上の蒼に小声で話しかける。


(蒼、アンタは本読めないの?)


(もちろん読めるよ! だって神様だからね!)


 あっけらかんと答える蒼。

 あっけにとられる結衣。

 

(……アンタって奴は! だったらちゃんと仕事しなさいよ!)


(でも今日はミリアが頑張ってるし、僕は静かにしてるね!)


(何言ってんのよ! アンタも手伝うのよ!)


 しかし蒼がしぶしぶ確認しても、魔王に関する情報は、結局何も見つからなかった。


「ごめんなさい。これといった情報が見つからなくて……」


 ミリアがしょんぼりと肩を落とす。

 ジークと結衣は、ミリアに声をかけた。


「なんでそこで謝るんだ。ミリアが一番よくやってるだろ」


「そうそう! 私とジークは本に触っただけで頭痛くなりそうだったしね!」


「お前は一言余計だがな」


「なんにもしてない人に言われたくありませんー」


 ミリアを慰めるつもりが、いつの間にか子供の言い合いになっている。

 そんなふたりの様子を見て、ミリアもクスクスと笑い出した。

 やがて日が傾き始める頃、三人は揃って図書館を後にした。


---


「それにしても収穫ゼロかぁ、魔王にまでたどりつけるのかなぁ……むしろ魔王なんて本当に存在するのかしらん?」


 結衣は大きくため息をつく。


「結衣さん、また明日も来ましょう。私、頑張りますから」


「ミリア……! あなたってばなんて優しい()なの……!」


 ミリアはふふっと笑う。


「実は私もなんだか少し悔しくって……魔王の情報、絶対に見つけましょうね!」


「ありがとうミリア! このお礼は後で絶対にするから!」


 ミリアの優しさに感動する結衣。

 そこにジークが口を挟んだ。


「とりあえず腹も減ったし、そこらの酒場で一杯やるか」


「えっ。ジーク、お酒飲めるの? 私はハタチ超えてるから大丈夫だけど、ジークはてっきり未成年だとばかり……」


「あ? 誰がガキだって?」


 蒼が小声で結衣に教える。


(この世界に未成年飲酒の概念はないよ! あと十六歳を過ぎたら、男も女も一人前の大人とみなされるんだ!)


(そうなの!? 異世界カルチャーショックだわー)


 ミリアは結衣の驚き顔を見て、クスクスと笑った。


「私はお酒を飲めませんから、ハーブティーを頂きますね」


 王都で初めての夜は、まだ始まったばかりだ。

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