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第17話 星空の下の距離感

 夜もふけたころ、外の空気を吸いに結衣は村の広場に出た。

 ふたつの月が煌々と輝く。

 風が気持ち良い。


「あれ?」


 鍛錬だろうか。

 広場の中央で、ジークがダガーを振るっている。

 鋭く空気を切る音が響く。


「ジークもちゃんと努力してるんだね。意外」


 結衣が声をかけた。

 ジークは動きを止め、振り返った。


「こっちは日々モンスターを相手にしてるんだ、当たり前だろ」


「そっか……私も小石だけじゃなくてちゃんとした武器を使えるようになりたいな。だってカッコいいじゃん?」


「小石が使えりゃ十分だ。ていうかその前にお前はまず体力をつけろ。走り込みでもしとけ」


 ジークが冷静に指摘する。


「走り込みかぁ……でもやっぱり、ジークみたいにダガーを使えるようになりたい!」


 結衣がワガママを言う。

 ジークはやれやれといった顔で結衣の背後に立った。


「ダガーを使いこなすには、まず手首のスナップからだ」


 ジークの手が結衣の手を包み、ダガーを持つ動きを教える。

 耳元にジークの息遣いを感じる。


「こう」


(えっ……なんか近くない?)


 結衣の鼓動が早くなる。

 ジークに導かれるまま、結衣はぎこちなくその動きを真似た。


「……こ、こんな感じ?」


「まあ、悪くないんじゃねぇの」


 ジークが呟いた。

 そして自分の鍛錬に戻る。


(さっき、近かったけど、なんだかちょっと安心感もあったな……)


 結衣はぼんやりとジークの様子を眺めた。


「ねえ。ジークって、これまでひとりで戦ってきたの?」


 結衣は尋ねた。


「なんだ突然?……でも、そうだな。頼れるのは自分だけだ。これまでずっとそうだった。人間てのはすぐに見捨てる生き物だからな」


 ジークの声は淡々としている。


「でもさ……今はきっと違うよね。私たちのことはちゃんと信用してくれてるでしょ?」


「そりゃ、お前らの腕が信用に足るようになればの話だろ」


 鼻で笑うジーク。

 だがその口調は、いつもよりどこか柔らかだ。

 結衣はなんだか嬉しくなった。


「言ったね? 絶対ジークに私の実力を認めさせてやるんだから!」


「そうかよ。せいぜい頼りにしてるぜ」


 結衣が笑顔で言うと、ジークが軽く返した。

 星空の下、ふたりの間には小さな心の交流が生まれていた。


---


 結衣が部屋に戻ると、蒼がベッドの上を飛び回りながら待ち構えていた。


(おかえり! さっきジークと良い雰囲気だったね!)


(ちょっ……! アンタ見てたわね! この覗き鳥!)


 結衣の顔が赤くなる。


(ちょっとだけ! でも手を取られてドキドキしてたでしょ?)


(うるさい! そんなんじゃないから!!)


 結衣がクッションを投げる。

 蒼は笑いながら宙を舞った。


(僕には当たらないよー!)


(キー! ムカつく! もう寝る!)


 結衣が布団に潜り込むと、蒼はからかうように歌い始めた。


(誰かさんと誰かさんがイイ感じ〜♪)


(うるさい黙れバカ鳥! 明日はモンスター退治なんだから!)


(はいはい、おやすみー)


 蒼はくすくす笑いながら窓から飛び出ていった。


「あのクソ鳥、いつか唐揚げにしてやる」


 結衣は決意を固めながら眠りについた。


---


 翌朝、三人は村人たちに見送られながら出発した。


「気をつけて行ってらっしゃい!」


「よろしくお頼み申します!」


 結衣は村人たちに手を振った。


「大丈夫です! 任せておいてください!」


「……おい、あまり調子に乗るな」


 ジークが小声で釘を刺す。


「大丈夫だって! 私たち最強チームだもん! でしょ?」


 結衣が胸を張る。


「お前な、相手をナメてかかると本当に大怪我するぞ」


「まあまあジークさん、仲良く行きましょう」


 ミリアがふたりの間に入ってなだめる。


「でもジークさんの言う通りです。ロックバードは危険なモンスターですよ」


「分かったよミリア、ちゃんと気を付けるから」


 ミリアは結衣に注意を促すことも忘れなかった。

 

(昨日の練習の成果を見せる時だね!)


(蒼は黙ってて)


 小声で蒼と言い合う結衣を、ジークがジロリと睨む。


「これからモンスター退治って時にブツブツ独り言かよ。お前は本当に緊張感ねーな」


「そ、そうだよね……ごめん、あはは」


 結衣は慌てて前を向いた。

 朝日を背に受けながら、三人はロックバードの巣があるという丘への道を歩き始めた。

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