第16話 小さな村で人助け
王都アルヴァニスへの道中、三人の視界に飛び込んできたのは、こじんまりとした村だった。
「ねえ、村があるよ! 行ってみない?」
結衣が指さした。
「休憩がてら寄っていくか」
「そうですね、薬草を必要としている方がいらっしゃるかも知れません」
ジークとミリアも同意する。
三人は村へと足を向けた。
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村の入り口では、疲れた表情の女性が出迎えてくれた。
女性は三人を見て声をかけた。
「旅の方ですか?」
「はい、私たち王都へ向かう旅の途中なんです。少し休ませて頂けないでしょうか?」
結衣が答える。
「せっかくお立ち寄り頂いたのに申し訳ないんですが、今は旅の方をおもてなしできる状況ではないんです……」
三人は顔を見合わせる。
結衣が尋ねた。
「あの、何かあったんですか?」
女性は深いため息をついた。
「実は、村の子どもたちがみな高熱で苦しんでおりまして……」
「そんな……お医者さんは?」
結衣が尋ねる。
「この村には医者がいないんです。近くの町まで使いを出しましたが……」
ミリアが一歩前に出た。
「私、薬草の知識があります。お力になれるかも知れません」
女性の顔が希望に輝いた。
「本当ですか!? どうかお助けください、よろしくお願いします!」
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村の集会所は、一時的な病床となっていた。
十人ほどの子どもたちが、赤い顔で横たわっている。
「かなりの高熱ですね」
ミリアが額に手を当てながら言った。
結衣が尋ねる。
「私にも何か手伝えることある?」
「はい、私が薬草を煎じます。結衣さんは子供たちに飲ませるのを手伝ってください」
ミリアは鞄から薬草を取り出し、手際よく準備を始める。
結衣はその様子をじっと見つめていた。
(ねえ蒼、ミリアって本当にすごいよね。こうして人助けまでできちゃうなんて)
結衣が小声でつぶやく。
蒼が肩越しにひょっこり現れる。
(そうだね! 結衣は手伝わないとただの見物人だけど)
(うっ……それもそうか)
ミリアが鍋で薬草を煎じ始めると、部屋中にほのかな香りが広がった。
「結衣さん、このお茶を子どもたちに飲ませてあげてください」
「わかった!」
結衣は慎重にカップに薬草茶を注ぎ、子どもたち一人一人に飲ませ始めた。
「ほら、飲むと楽になるよ」
結衣は子供たちに優しく声をかけながら、スプーンで少しずつ口元へ運ぶ。
最初は苦そうな顔をした子供たちも、やがて少しずつ落ち着きを取り戻していく。
数時間後には、熱で赤かった顔色も徐々に和らぎ始めた。
「ああ! 本当にありがとうございます!」
親たちが次々と感謝の言葉を述べる。
「いえ……これが私の仕事ですので。それにお子さんたちを助けられて本当に良かったです」
ミリアは控えめな微笑みで答えた。
結衣も笑顔で頷く。
「どうか今晩はこの村でお休みください。何もないところですが、私どもからの感謝の気持ちです」
三人はありがたく村人の申し出を受け入れることにした。
蒼がパタパタと羽ばたく。
(やったね! これが本当の『情けは人のためならず』だよ!)
(アンタは何もしてないけどね)
結衣は肩に止まった蒼をジト目で見た。
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「……実は他にも困ったことがありましてね」
歓待の席で、村長の老人が言った。
「どうしたんですか?」
結衣が尋ねる。
ジークは会話を聞きながら、黙々と料理を食べていた。
「最近、ロックバードという大きな鳥モンスターが現れて、家畜を襲うんです」
「ロックバード?」
「翼幅が屋根ほどもある大型の猛禽類だ」
結衣が首をかしげると、ジークが説明してくれた。
「それなら私たちが退治します! こう見えてジークは結構強いんですよ!」
「おい何言ってんだ! 勝手に決めるな!」
結衣の安請け合いに、ジークが慌てて口を挟む。
「だってみんな困ってるじゃん。それともジークは出来ないって言うの? モンスター退治で稼いでるんでしょ?」
結衣の挑発に、ジークは「チッ」と舌を鳴らした。
「……しょうがねぇな。ただしオレはボランティアじゃねえ、報酬はキッチリいただくぞ」
村長の顔が輝いた。
「おお! もちろん報酬はお支払いします! どうかこの村を助けると思って、お力をお貸しください!」
「……フン」
ジークは鼻を鳴らした。
「決まり! ロックバード退治、頑張るぞ!」
「……お前、さすがに能天気過ぎるぞ。後で泣き言いうなよ」
拳を振り上げる結衣の隣でジークが溜め息をつく。
隣でミリアが食後のお茶を頂きながらニコニコしていた。