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第15話 猪なんて怖くない!

 青い空が広がる荒野。

 王都アルヴァニスへ向かう道は順調そのものだった。


「今日は天気が良いね!」


 結衣は上機嫌だ。

 ジークは肩をすくめる。


「あんまり平和ボケしてんじゃねぇぞ」


「そうですね、モンスターにも気をつけないと……」


 ミリアも控えめに付け足した。

 

(こんな天気だと昼寝でもしたくなるね!)


 蒼はさらに平和ボケしている。


「んもー、ちょっとくらい旅を楽しんでもいいんじゃないの? ふたりとも神経質過ぎ……」


 結衣の言葉をさえぎるように、突如地面が揺れた。 荒野の奥から轟音とともに、巨大な猪型モンスター、ワイルドボアが現れる。


 大地を震わせる重い足音。

 砂塵を巻き上げる巨体。

 赤く光る目は獲物を捉え、鋭い牙は太陽の下で不吉な輝きを放っている。


「だから言わんこっちゃない!」


 ジークがすぐさまダガーを構える。

 鞘から引き抜かれた双刃が陽光に鈍く光る。


「アイツは動きを封じれば勝てる。オレが囮になるからお前が石で援護しろ! 結衣!」


「分かった! ミリアは下がってて!」


「はい!」


 ジークが飛び出す。

 地面を蹴る足に力強さが宿り、風を切る音が響いた。 結衣は赤石を構える。

 握りしめた小石から、温かいエネルギーが溢れ出した。


 ドドドドドッ!


 ワイルドボアが突進してきた。

 地響きを立て、大地を揺るがす猛烈な勢いで。

 その巨体からは想像できない俊敏さで大地を蹴り上げ、猪はまっすぐジークに向かう。

 生み出される風圧に、周りの木々が揺れる。


 ジークは身軽に横へ跳び、猪の足元にダガーを突き刺した。

 空中で体をひねり、絶妙のタイミングで攻撃を放つ。


 グサッ!

 鋭いダガーが分厚い皮を貫き、筋肉の奥深くまで食い込み、ワイルドボアの足取りを鈍らせる。

 獣の悲鳴が荒野に響き渡る。


「くそっ、皮が厚い!」


 ジークは歯を食いしばりながら、ダガーを引き抜き、さらに距離を取る。

 ワイルドボアの目が怒りに燃え、再び突進の姿勢を取った。


「でえぇぇいっ! このおぉぉっ!」


 結衣が声を上げ、全身の力を集中させる。

 そのままファイアボールの石を渾身の力で投げつけた。


 石から放たれる赤い光が結衣の顔を照らす。

 燃える球体が空気を切り裂いて、猪の背中に命中した。


 ボンッ!


 爆炎が巻き上がる。

 オレンジ色の炎が四方に広がり、黒煙が立ち上る。


「ギャァァァァッ!」


 ワイルドボアが痛みに叫び、体を激しく揺すりながら、さらに動きを鈍らせる。

 焦げた毛の匂いが風に乗って広がった。


「後は任せろ!」


 ジークがニヤリと笑い、チャンスとばかりに一気に距離を詰める。

 地面を蹴る足に全体重を乗せ、跳躍力を最大限に高め、一気にジャンプする。 そして空中で体を回転させ、ダガーで猪の喉元を狙い、鋭く切り裂く。


 ザシュッ!


 刃が肉を裂く音と共に、鮮血が弧を描いて飛び散った。


「ギィィィィィッ!」


 ワイルドボアは断末魔の叫びを上げ、前脚から崩れるように荒野に倒れ込んだ。

 最後の息遣いと共に、巨体が地面に沈み込む。


「……っしゃあぁ!」


 結衣が拳を突き上げる。

 顔には汗が浮かび、息は荒い。

 だがその目は、勝利の喜びに輝いていた。


「やったねジーク! ナイスファイト! アンタの動き、超カッコよかったわよ!」


「はしゃぐな能天気女。まだ油断するなよ、周りに仲間がいるかも知れん」


 ジークは警戒しながら、猪の死骸に近づき、鋭い牙と分厚い毛皮を丁寧に剥いで荷物にしまう。

 相変わらずの手際の良さに、熟練の技が見える。


「この牙も武器の素材になる。王都で売ればいい稼ぎになるな」


 結衣は地面に転がった金色の小石に気づき、好奇心に目を輝かせて拾い上げた。

 石は不思議な温かさを持ち、内側から光を放っているようだった。


(ねえ蒼、これ何? すごく綺麗!)


(サンダーボルトの小石だよ! 1回しか使えないけど、威力の強いレア石だから大事にして! 雷の力を秘めた超貴重なアイテムだよ!)


(マジ!? 神アイテムじゃんラッキー! 次の戦いで使ってみようかな!)


 結衣は小石を大事にショルダーバッグにしまった。

 次の冒険への期待と共に。


---


 戦闘後、ミリアはジークの傷を治療していた。

 薬草を丁寧に塗るミリアの手元を見ながら、ジークがふと尋ねた。


「お前の薬草はモンスター攻撃にも使えるのか?」


 その質問に、ミリアは少し驚いた様子だった。

 そして、考えながら答える。


「毒草や毒キノコの中には、毒、麻痺、眠りなどの効果を持つものもありますね。ただし、調合には少し工夫がいります」


「……そうか、覚えとく」


---


 休息を終え、三人は再び旅を続ける。

 荒野の向こうに王都アルヴァニスへの道が続いている。


「次はどんなモンスターかな?」


「……できれば普通に歩きたいもんだがな」

 

 結衣はワクワクし、ジークはため息をつく。


「でも、こうやって旅ができるのは幸せですね」


 ミリアがふと空を見上げ、優しい微笑みを浮かべた。

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