第13話 転売ヤーを懲らしめろ!
スラムの奥深くに潜む転売組織のアジト。
その邪悪な巣窟に、ついに正義の鉄槌が下される時が来た。
「行くぞ」
ジークの声が静かに響き渡る。
結衣は拳を握りしめ、気合を入れる。
「よし、突撃!」
ミリアも決意を胸に頷く。
「……私も、行きます」
三人は固く閉ざされたアジトへと向かって歩き出した。
---
アジトの前に到着すると、ジークは有無を言わさず扉を蹴り飛ばした。
「え!? ちょっと待ってジーク! そんな乱暴に開けたら気づかれ……」
結衣の言葉は盛大に開け放たれた扉の音にかき消された。
扉の奥から怒号が聞こえてくる。
「何だ!?」
「敵襲だ! 敵襲!」
ジークはニヤリと笑い、二本のダガーを構えた。
「悪党ども、覚悟しやがれ!」
アジトの中は意外と広かった。
薄暗い空間にチンピラたちがゾロゾロと現れる。
「うわ、めっちゃいる!」
結衣は思わず声を上げた。
だが、ジークは一切動じない。
「多勢に無勢ってか? 笑わせるな、ザコどもが」
チンピラたちは一斉に襲い掛かってきた。
「邪魔するんじゃねぇ!」
「よそ者は失せろ!」
「金目のものは全部奪え!」
……しょーもねー奴ら。
結衣は深呼吸し、大声で叫んだ。
「皆様、初めましてーー!! わたくし、正義の味方、結衣と申しますーー!!」
一瞬で場が静まり返った。
チンピラたちはポカンとした顔で結衣を見る。
「えー、突然のことで驚かれた方もおられるかとは存じますが、平にご容赦くださいませ!! 僭越ながら、まずは自己紹介をさせていただきます!!」
結衣は満面の笑みを浮かべて続けた。
「わたくし、異世界は日本から来ました!! 特技は華麗なツッコミ!! 趣味はネトフリ鑑賞!! 好きな食べ物はポテチとアイスです!!」
チンピラたちは困惑している。
「……おい、何だこいつ?」
「頭、大丈夫か?」
蒼が追い打ちをかけるように囁いた。
(結衣! ついでに好きなタイプとか言っちゃいなよ! 例えば『ツンデレで無口だけど優しい人』とかさ!)
(蒼は黙ってて!)
結衣が小声で返す。
その奇妙な仕草も相まって、チンピラたちはさらに混乱する。
「あいつ、なんかひとりで喋ってるぞ?」
「やべぇ奴だ……」
この隙を逃すジークではない。
怒涛の如き連撃でチンピラたちをなぎ倒していく。
ズシャッ! ドサッ!
研ぎ澄まされた刃が次々と敵を切り裂いていく様子は、まさに死神そのものだった。
---
その頃、ミリアはアジトの奥へと進んでいた。
ローランドの姿を捉え、強い決意を胸に歩みを進める。
アジトの奥ではローランドが椅子にふんぞり返っていた。
「所詮この世で価値があるのは金だけさ。金さえありゃあなんだって思いのままだ」
ローランドはそう言い放ち、薄ら笑いを浮かべる。
ミリアは震える声で問いただした。
「どうしてこんなことを……?」
ローランドは嘲笑うように答えた。
「ああ、薬草屋の小娘か。そんなこと聞いてどうする? お前も金が欲しいなら、仕事を手伝わせてやろうか?」
その言葉にミリアは怒りを込めて叫んだ。
「あなたのやってることは絶対に許せません! お金のために人々を苦しめるなんて最低です!」
「そうか。生憎だが俺は説教が嫌いでね。大人しくしていれば怪我しなかったものを」
ローランドは懐からナイフを取り出し、ミリアへと襲い掛かった。
「ミリア、危ない!」
奥の部屋にたどり着いた結衣が叫ぶ。
ガキィン!
ジークが素早く二人の間に割り込み、ローランドのナイフ攻撃を弾く。
「甘ぇな!」
ジークは強烈な一撃でローランドを叩き伏せ、地面へ倒れ込ませる。
「ぐっ……」
呻くローランド。
それだけでは終わらない。
ローランドが再び立ち上がろうとした瞬間、ジークが冷たい眼で彼の胸倉を掴み上げた。
バキッ!
ジークの拳が彼の顔面に炸裂した。
一発では終わらない。
二発目、三発目――
バキッ! ドゴッ!
ローランドは抵抗する間もなくボコボコにされ、整った顔立ちは見る影もなく腫れ上がった。
「ひぃ……! もうやめてくれ! 命だけは助けてください! お願いだ!」
地面に這いつくばりながら懇願するローランド。
その声には先ほどまでの傲慢さなど微塵もない。
ミリアは震える手で薬草袋を抱えながら、一歩前へ進む。
そして決然とローランドに告げた。
「もう二度とこんなことしないでください。また人々を苦しめたら――次こそ、本当にあなたを許しません!」