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第110話 怪しいイケメンとの再会

 荒野に、乾いた風が吹いている。

 茶色い大地がどこまでも続き、岩と砂利だけの殺風景な世界。


 その中を、ひとりの少年が歩いていた。

 ジークだ。


 以前の彼とは、明らかに違う。

 迷いのない足取り。

 真っ直ぐ前を見据える瞳。

 そこにあるのは、強い使命感。


 荒野で一輪の花と出会い、ハランの教えを思い出した彼は、もう迷わない。

 自分のやるべきことを、はっきりと理解している。


 その時だった。


 突然、前方に人影が現れる。

 黒い甲冑に身を包んだ、長身の男。

 兜の隙間から見える瞳が、冷たく光っていた。


 アルドベリヒだ。


「少しは成長したか、少年」


 低く響く声。

 まるで地の底から湧き上がるような、不気味な響き。


 ジークは無言で腰の武器に手をかけた。

 二刀流のスクラマサクス。

 ジノカリアが研ぎ直してくれた、愛用の短剣。


 シャキン!


 鋭い金属音が荒野に響く。

 ジークは一気に間合いを詰め、そのまま斬り込んだ。


 だが――


 剣は、アルドベリヒの体をすり抜けるだけだった。

 まるで幻影を斬ったかのように。


「……お前、幽霊かよ」


 ジークが睨みつける。


「本物はどこだ?」


「私の本体と決着をつけたければ、着いてこい」


 アルドベリヒが答える。


「そこに、娘も来る」


 その瞬間、ジークの表情が変わった。

 血管が浮き出るほど、拳を握りしめる。


「……てめぇ、結衣に何をするつもりだ?」


 怒りに燃える瞳。


「今度は何を企んでいる?」


「知りたければ、来い」


 アルドベリヒが振り返る。


「でなければお前は、永遠に荒野を彷徨うだけだ」


 ジークは用心深く相手を見定めた。

 百パーセント、これは罠だ。

 だが結衣の名を聞かされると、無視はできない。


「もう一度聞く。結衣に何をするつもりだ?」


「それはお前が自分の目で確かめることだ」


 アルドベリヒの声に、感情はない。


「私と来るか、来ないのか」


 ジークは逡巡した。

 だが、迷いは一瞬だった。


「……今度こそ、オレは結衣を守る」


 決意の表明。


「それでいい」


 アルドベリヒが頷く。

 次の瞬間、二人の姿が光に包まれ、消えていった。


 荒野には、風だけが吹いている。

 砂塵が舞い上がり、やがて静寂が戻った。


---


 結衣、ミリア、カインの三人は、レイに連れられて突然現れた。

 そこは、想像を絶する光景だった。


「きゃあああ!?」


 ミリアが驚きの声を上げる。


「ここは……どこですか!?」


 足元には何もない。

 重力もない。

 ただ、レイの魔法によって浮遊している。


 周囲には、無限に広がる漆黒の宇宙。

 無数の星々が、ダイヤモンドのように瞬いている。

 遠くには、色とりどりの星雲が神秘的に輝いていた。


 紫色の星雲が、まるで絹のように滑らかに波打っている。

 青い星雲が、オーロラのように揺らめく。

 赤い星雲が、炎のように燃え上がっていた。


「まさか、宇宙……なのか!?」


 カインも呆然としている。


「こんなことが可能なのか……」


 息を呑むような美しさ。

 だが同時に、恐ろしいほどの孤独感。

 人間など、塵芥にも等しい存在だと思い知らされる。


 そして、巨大な物体が、宙に浮かんでいる。


 アサイラムゲート――


 巨大な黒曜石の多面体で構成された、異形の要塞。

 表面は鏡のように滑らかでありながら、無数の鋭い稜線が複雑に入り組んでいる。

 光を反射し、屈折させ、まるで生きているかのように脈動していた。


 要塞の表面には、理解不能な幾何学模様が刻まれている。

 それは一定の周期で明滅し、紫の光を放っていた。

 見つめていると、視線が吸い込まれそうになる。


 正気を奪うような、圧倒的な存在感。

 神々しくも、冒涜的。

 美しくも、恐ろしい。

 まさに、異世界の産物だった。


「こんな場所が……」


 ミリアが震え声で呟く。


「まるで神話の世界だな」


 カインも息を呑んでいる。


 レイは即座に行動を起こした。

 両手を前に突き出し、高エネルギーの魔法を放つ。


 青白い光の奔流が、アサイラムゲートに向かって炸裂した。

 宇宙空間が、一瞬真っ白に染まる。

 凄まじいエネルギーの嵐。


 だが――


 アサイラムゲートは、びくともしなかった。

 魔法の光は表面で弾かれ、四散していく。

 要塞は、完全に無傷のままだった。


「ちぇ、やっぱりダメか」


 レイが悔しそうに舌打ちする。


 カインとミリアは、戦慄した。

 レイの魔法が、全く通用しない。

 一体、どれほどの力で守られているのか。


「蒼!」


 結衣が大声で叫ぶ。


「蒼! そこにいるの!? 隠れてないで出てきなさいよ!」


 すると――


(やあ結衣! 久しぶりだね!)


 聞き覚えのある、軽薄な声。


(僕を置いていなくなるなんて、ひどいよー)


 間違いない、蒼の声だ。

 それは、カイン、ミリア、レイにも、はっきりと聞こえた。

 だが、姿は見えない。


「ふざけないで!」


 結衣が怒鳴る。


「さっさと姿を見せなさいよ!」


(やだよー)


 蒼の声が、子供のように駄々をこねる。


(だってノコノコ出て行ったら、そこの怖ーいお兄さんが、僕を焼き鳥にしちゃうでしょー?)


 レイが口を開く。


「蒼、君はアルドベリヒなのかい?」


 その声は、どこまでも冷たい。


「どちらにしろ、僕は結衣を巻き込んだ君を、絶対に許すつもりはないよ」


(ほらー、やっぱりー)


 蒼の声が、ますます軽薄になる。


(だから、結衣とだけなら、会ってあげる)


 次の瞬間――


 結衣の姿が、かき消えた。

 まるで蜃気楼のように、ふっと消える。


「結衣!?」


 カインが叫ぶ。


 その時、宇宙空間に異変が起きた。

 遠くから、無数の光点が近づいてくる。


 隕石だ。


 燃え盛る岩塊が、次々と降り注いでくる。

 大きなものは家ほどもあり、小さなものでも人の頭ほど。

 それらが、恐ろしい速度で迫ってきた。


 オレンジ色の炎を纏い、尾を引きながら。

 まるで天の怒りのように。


「ちっ!」


 レイが即座に反応する。

 両手を広げ、球状のバリアを展開した。


 透明な障壁が、三人を包み込む。

 隕石がバリアに激突し、火花を散らす。

 ゴォォォという轟音が、宇宙空間に響いた。


 だが、三人は無事だった。

 レイのバリアが、完璧に守ってくれる。


「結衣さんを助けに行かないと!」


 ミリアが叫ぶ。


「レイ、僕たちを入り口まで連れていってくれ」


 カインが決意の眼差しでレイを見る。


「分かった」


 レイが頷く。


「ふたりとも、結衣をどうか頼む」


 レイが手を振ると、カインとミリアの姿が光に包まれる。

 次の瞬間、ふたりはアサイラムゲートの入り口に転送されていた。


 巨大な門が、ゆっくりと開く。

 中は真っ暗で、何も見えない。


 だが、ふたりは迷わず駆け込んでいった。

 結衣を救うために。


---


 アサイラムゲート内部。


 結衣は、広い空間に立っていた。

 床は黒い大理石のように滑らか。

 天井は高く、うっすらと光っている。


 その中央に、黒い甲冑を纏った長身の男が立っていた。

 兜で顔は見えないが、その存在は圧倒的だった。


 男がゆっくりと兜を脱ぐ。

 現れたのは、恐ろしく整った顔の美青年。

 黒髪のショートヘア。

 漆黒の瞳が、冷たく光っている。


 だが、その顔を見た結衣の全身が粟立つ。


「アンタ……蒼!!」


 結衣が怒りの声を上げる。

 それは紛れもなく、あの日結衣がマッチングアプリで出会った、怪しいイケメンの顔だった。

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