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第103話 総力戦の幕開け

「さて、ジーク。アルドベリヒについて、もう少し詳しく聞かせてくれないか」


「ああ」


 会議室。

 ガレスの声に、ジークが顔を上げる。


「アルドベリヒ……奴の声には妙な威圧感があった。なんというか、地の底から響くような」


 ジークが記憶を辿る。


「奴の姿は全身黒い甲冑に包まれていた。そしてその素顔は……」


 ジークが言葉を選ぶ。


「恐ろしいほど整った顔立ちの、人間の男だった」


「人間だと?」


 カーライルが疑問を呈する。

 ジークは肯定した。

 

「そうだ。だが、明らかに人間を超えた存在感があった。あれは普通の人間じゃない」


「ふむ。確かに、その証言はカインの手紙とも一致するな」


 ガレスが頷く。


「つまり、カインからの情報は信頼に値する、ということだ」


 その手が、テーブルを叩いた。


「敵の正体が明確になった」


 部屋の空気が、一気に緊迫する。


冥将軍(めいしょうぐん)アルドベリヒ。その正体を探る必要がある」


 カーライルが付け加える。


「それだけではない。奴の拠点、目的、能力……全てを調べ上げなければ」


「そうだ」


 ガレスは立ち上がった。


「今こそ、我々の総力を結集する時だ。力を貸してくれ」


 集まったメンバーが、全員頷いた。

 ガレスは地図を広げる。

 大きな羊皮紙が、テーブルを覆った。


「まずは、情報収集班を編成する」


 ガレスが赤い線を引く。


「ジーク、お前が単独で冥将軍の偵察を行え」


「オレが?」


 ジークが驚く。


「お前はアルドベリヒと直接会った」


 ガレスが説明する。


「奴の動きを予測し、正体を調査するには、お前が最適だ。また一度過ちを犯したことで、二度と同じ轍を踏まないと信頼できる」


「分かった」


 ジークが頷く。


「アルドベリヒの正体を、必ず掴んでみせる」


「装備面はワシらが援護する」


 ジノカリアが口を開く。


「スクラマサクスの手入れと、新しい装備を用意してやる。任せてくれ」


「ありがとう、世話になる」


 ジークは感謝した。


「次に、王都連携班」


 ガレスが続ける。


「俺とカーライルでカインと連絡を取り、三者同盟を強化する」


「アルヴァニス王国、ヴァルディア軍、そして我々抵抗勢力(レジスタンス)。この三者の力を合わせて、アルドベリヒに対抗しなければ」


 カーライルが補足した。


「難民や元奴隷の方々の保護体制強化も継続します」


 マーレーンが付け加える。


「まだ私たちが受け入れきれていない、多くの人々を救わなくては」


「そうだな」


 ガレスが頷く。


「我々の使命は、弱い者を守ることでもある」


 地図に、さらに赤い線が引かれていく。

 作戦が具体化していく。


「先も言ったが、これは総力戦だ」


 ガレスが全員を見回す。


「アルドベリヒという強大な敵に立ち向かうには、我々全ての力が必要となる。皆、全力で役割を果たしてくれ」


 蝋燭の炎が揺れ、蝋の匂いが漂う。

 首領たちの顔に、決意の色がみなぎった。


 ジークの拳も、静かに震えた。

 過去の過ちを償う覚悟。

 仲間を守る決意。

 そして、結衣への想い。


 全てが、ジークの心に宿っていた。


「よし、決まりだ」


 ガレスが手を叩く。


「明日から、それぞれの任務に就く」


「了解」


 全員が頷いた。


---


 夜が訪れ、ジークはひとりでアジトの広場に出た。

 ふたつの月と数多の星が、空に輝いている。


 ジークは腰のスクラマサクスを抜いた。

 ジノカリアが研ぎ直してくれた刃に月光が反射し、美しく光る。

 布で刃を磨きながら、ジークは結衣のことを想っていた。


『私は私! モノじゃない!』


 結衣の顔が、脳裏に浮かぶ。

 あの時の、怒りに燃える瞳。

 毅然とした声。


「結衣……」


 ジークの小さな呟き。

 その時、足音が近づいてきた。

 ガレスだった。


「ひとりで考え事か?」


「ああ」


 ジークが頷く。


「少し、心の整理をしたくて」


 ガレスがジークの隣に座る。


「お前が戻ったことで、我々には希望が見えた」


「希望?」


 ジークがやや自嘲気味に答える。


「オレはまだ、許されてねぇ」


「そうか。だが、許しとは、乞うものではない」


 ガレスが静かに言う。


「自ら勝ち取るものだ」


 ジークの表情が変わる。

 刃を磨く手を止め、ガレスを見やった。


「お前は変わった」


 ガレスは続ける。


「以前のお前なら、一人で突っ走っていただろう」


「……そうだな」


 ジークが苦笑する。


「だが今のお前は、仲間と協力することを選んだ」


 ガレスがジークの肩に手を置く。


「それもまた、強さだ」


「強さか……」


 ジークが呟く。


「本当の強さって、何だろうな」


「お前には、仲間がいる」


 ガレスが即答する。


「一人では成し遂げられないことも、仲間がいれば可能になる」


 ジークの表情が、わずかに和らいだ。


「そうかもしれないな」


 遠くで、鍛冶場の金槌が鳴っている。

 カンカンと、リズミカルな音。


 子供たちの笑い声も聞こえてくる。

 平和な夜の音。


「この平和を守るために、俺たちは戦う」


 ガレスが立ち上がる。


「頼むぞ、ジーク」


「ああ、任せてくれ」


 ガレスは去った。

 ジークは再び空を見上げた。

 満天の星が、美しく輝いている。


「結衣、見てろ」


 ジークが呟く。


「オレはオレのやり方で、お前を守る」


 その時、別の足音が聞こえた。

 ベリンダだった。


「おい、ジーク」


「どうした?」


「偵察の準備、手伝ってやるよ」


 ベリンダが豪快に笑う。


「お前ひとりじゃ心配だからな」


「そうか、助かる」


 ジークが微笑む。


「当たり前だ」


 ベリンダがジークの背中を叩く。


「仲間だろ?」


 仲間。

 その言葉が、ジークの心に温かく響いた。


 確かに、自分は一人じゃない。

 頼れる仲間たちがいる。


 それが、本当の強さなのかもしれない。


「よし、準備を始めよう」


 ジークがスクラマサクスを鞘に収める。

 乾いた金属の音が響いた。


「アルドベリヒを倒すために」


 ふたつの月光が二人を照らす。

 希望と決意の交錯する夜が、アジトを包む。


 新しい戦いが、始まろうとしている。

 仲間たちと共に、困難に立ち向かう。

 それが、ジークの選んだ道だった。


「待ってろよ、アルドベリヒ」


 ジークが呟く。


「今度こそ、借りを返してやる」


 夜風が吹き、マントが揺れる。

 しかし、ジークの決意は揺らがない。


 アジトに、静かな夜が更けていく。

 ジークの帰還は、抵抗勢力に新たな希望をもたらした。

 その力は、必ずやアルドベリヒを打ち倒すだろう。


 仲間たちとの絆を武器に、ジークは未来を切り拓いてゆく。

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