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突然の婚約破棄

よろしくお願いします。

 「マリアベルすまないが僕は真実の愛を見つけてしまったんだ。」


目の前のプリンスチャーミングは転生365日目の大阪育ちの田中絹枝もといマリアベル・テールズに舞台俳優顔負けの大袈裟な口調で宣言する。


「一体どういう事で?」


「僕は君の妹のアリアを愛してしまったんだよ。だから、君とは結婚出来ない。」


「へぇ、そうですかい。」


絹枝はどうでも良さそうに言った。


「お姉様ごめんなさい。でも、私王子の事を愛してるの。」


2人は悲劇の主人公になりきったように冷めた目をしている絹枝に言った。


「で?何求めてるん?そんな事言われてもおばさん困るわ。」


「君は、それでいいのか。」


少しも抵抗しない絹枝に拍子抜けした王子は言った。


「兄ちゃん達が決めた事でっしゃろ。うちは関係ないわ。」


絹枝は婚約時にもらった指輪をどこの質屋に売ろうか考えながら言った。


「僕を、愛してないのか。」


「愛だの恋だの熱く語る時代はおばさん半世紀前に終わってしもうたんや。あと、これは返さんでええよな。」


絹枝は左薬指の指輪を王子に見せる。すると王子は愛している筈の絹枝が興味がないという態度な事に腹を立て始める。


「勝手にしろ。そんなものくれてやる。」


「ほな、さいなら。」


絹枝は逆ギレする王子に背を向けるとおもちゃかと思うくらい大きなダイヤの指輪を売る質屋を決めて呼び出された庭園から颯爽と去って行った。


 カエデ国の首都モミテマは6月のジューンブライドシーズンで至る所で祝福の声が聞こえる。絹枝は「若いってええなぁ」とぼやきながら花嫁を馬車に揺られる。


「あの兄ちゃん、名前なんだったかな。」


絹枝は元婚約者の王子の事を思いながら若かりし頃の自分と花嫁を重ねた。

 贔屓にしている質屋に着くと禿頭の番頭に「社長おるか」と一声を発すると特別室に通される。


「テールズ様、少々お待ち下さい。」


「ありがとな。」


絹枝は他に持って来た宝飾品を机に並べているとグレーの背広を着たカール商店社長ナストが優しい笑みを浮かべて中に入って来た。


「テールズ様、本日はご機嫌麗しゅうございます。」


「急に来てすまんな。」


「滅相もない。いつもうちをご贔屓にしていただきありがとうございます。」


社長は絹枝の向かいに座ると机の上の宝飾品を白手袋をはめて鑑定し始める。絹枝の目も眼光が鋭くなり、結果を固唾を飲んで見守る。


「以前お話しいただいた事を考えていただけましたか。」


「何話したん。」


「うちの隣国出店の融資の話ですよ。」


ナストはとぼけたように答えた絹枝に言った。


「あれか。はっきり言って利子が少なすぎるねん。50年払いで15パーセントまで上げられるか。」


「手厳しいですね。来年には皇太子妃になるのでしょう。そんなに欲を出していいんですか。」


「そんなら婚約破棄されたわ。」


「は?」


ナストは思わず顔を上げて絹枝を見た。


「今日な、王宮の庭園に呼び出されてな、真実の愛だの言って解消されてしまったんよ。相手はうちの妹のアリアや。社長、うち、可哀想か。」


「それは、無粋な事を聞いてしまいました。」


「ちなみに社長が持っとる指輪が王妃からもらった婚約指輪や。」


「婚約指輪!」


ナストは思わず声を裏返して叫んでしまう。


「王子に聞いたら返さんでもええと言うから持っててもしゃあないし、現金に変えよかと思ってその足で来てしもうた。」


「マリア様には本当に私の想像の斜め上をいかれますね。恐れ入ります。」


「そんで、どのくらいになる?」


「粒も大きいですし、他のものも含めて500万でいかがでしょうか。」


「婚約破棄されて傷ついてるんやで。650万くらいいってくれてもええやろ。」


マリアは身を乗り出してナストに言った。


「勘弁して下さいって。こちらもかなり頑張ってこの値段なんですよ。」


「もうちょい頑張れるやろ。聞いたで、前に売ったバッグ50倍の値段で売り捌いたんやろ。うちは社長の所に利益バンバンもたらしてるんや。そのくらいサービスしてもええはずやで。」


マリアは80年の間に身につけた圧と言葉でナストを打ちのめして買取価格を600万まで上げさせた。


「マリア様は本当に下手な商人よりもガメツイですね。」


「商いやってるんやったら、この位は当たり前やろ。」


マリアはナストから領収書を受け取って言った。


「マリア様との商談はとても勉強になりますよ。それと以前お話しされていた屋台の話はどうなりましたか。」


「それか。実はな、この金を元手に本格的に始めよ思うとる。うちにはのほほんな生活が割に合わんのや。」


「なるほど。何かありましたら、うちにいらして下さい。いつでもお力になります。」


「社長さん、そんな男前だったんか?うち惚れてまうよ。」


絹枝はうまい冗談を言うものだとナストに言った。


「私は独身ですのでいつでもいらしていただいても構いませんよ?」


「ほな、考えとくわ。」


絹枝はもらった金貨を馬車に積み込むとナストと全従業員に見送られながら別邸へ帰って行った。

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