第6話 街巡り
妖精の木漏れ日亭を出ると、ウィローラのおすすめ店を巡ることになった。
先頭を歩くウィローラとケレアニールの後ろに私が続き、その隣を歩くヴィロミアが街を見渡しながら尋ねてくる。
「この街の主な交通手段って、歩きキノコと虫、それに鳥?」
「はい。木をそのまま利用した建物が多いので、空を移動する虫や鳥は必須ですね。特に、私みたいに飛べない種族には」
私は見上げるほど高い場所にある木の板の通路や店を指差した。ヴィロミアはそれを見上げ、ため息をつくように言う。
「確かに、あの高さまで階段で行くのは考えたくもないわ」
「それに、地面も少し傾斜がありますからね。荷物を運ぶには歩きキノコが便利なんです」
「中央樹の根のせいね」
「その通りです」
さすが元学者だ。的確な観察力に思わず感心する。
最寄りの停留所に着くと、ウィローラが振り返りヴィロミアに尋ねる。
「虫と鳥、どっちに乗りたいですか?」
「どう違うのかしら?」
「虫は短距離向きで、少し羽音がうるさいです。鳥は長距離向きで、少し揺れますね」
「なるほど…せっかくだし、どっちも体験してみたいわ」
「なら、せっかくですし行きは鳥で街を一周するルートを選んで、帰りは虫で短距離移動にしましょう」
「いいわね」
ヴィロミアの返事を受け、ウィローラが停留所の魔石で、「鳥と人数、目的地、周回軌道」を選択する。観光業が発達している街だからこそ選べる軌道だ。
しばらくすると、カゴを掴んだ大きな鳥が停留所前に降りたつ。
その翼は私たち全員の身長を足しても届かないほどの大きさだ。
「大きいね」
見上げるケレアニールが感嘆の声を漏らす。
それにウィローラが補足する。
「ここでは中型種だよ。一番大きいのはグリフォンで、国や村間の輸送に使われているよ」
ウィローラはカゴのロックを外し、扉を開けて中に案内してくれる。最後に彼女が入ると、再びロックを閉じ、カゴに設置された魔石に触れる。すると鳥は大きく羽ばたき始め、空へと上昇していく。
高度が増し、街の人々が豆粒ほどの大きさになると、中央樹を中心に周回軌道を描き始める。
「改めて見ても、あの樹は本当に大きいわね」
ヴィロミアが中央神樹を見ながら感嘆の声を漏らす。
その隣でケレアニールも景色に見入っている。
二人の楽しそうな様子に、私はウィローラと目を合わせて笑い合った。
気になることがあったのか、ケレアニールが私の方を向く。
「城壁は森側にしかないの?」
「そうだね。この街にとっての脅威は森から来る魔物だけだからね」
「なるほど…気になってたんだけど、あの城壁ってもしかして植物でできてる?」
「そうだよ。あれは締め殺しのツタ。近づいた生物を絡め取って内部に引き込み、血肉を吸う植物」
「え〜怖っ!人間も巻き込まれるの?」
「もちろん。でも柵の内側に入らなければ大丈夫。ちなみに森の監視はあの物見やぐらからやってるよ」
私は城壁付近にある木組みの高い塔を指差す。ケレアニールがそれを見て、「なるほどね」と納得した様子で返事をする。
周回軌道を終え、鳥が目的の停留所に降り立つ。二人とも揺れはそれほど気にしていないようだった。バランス感覚が良いのか、それとも景色に夢中だったのか…