第26話 冷めない熱
「………まだ動ける?」
沈黙を破るウィローラの声。頷き返事をする私に、続けて彼女は話し出す。
「思いついたことがあるんだけど……」
お、恐ろしい…そんな拷問があったような気がする…
あまりにも手軽なのに逃れられない…絶対にくらいたくない。想像しただけで身の毛がよだつ。
「あ、悪魔的発想すぎる…翼が黒いなとは思っていたけど、堕天してたのね」
笑いながら冗談めかして返答すると、ウィローラの反応は予想以上だった。
「えっ!?ウソ!?ウソ!?!?ウソだよね?ウソだよね???ウソでしょ???」
彼女は泣きそうな顔で大慌てで祈りの姿勢をとる。
「ナウエラ・ミロセル・ヴァナディエ様、違うんです!先ほどの発言は私の発想ではないのです!隣におわします、メーケシャ・ラムバーラの思いつきなんです!私の頭に直接思考を流し込んで来たのです!私の意思ではないのです!どうか、どうか、ご慈悲を…私を…見離さないでください!」
その必死さに思わず吹き出してしまう。
「冗談よ!てか、私のせいにすな!」
そう言いながら、彼女の頭を軽くこづく。
「ちゃっと信じちゃったじゃん!」
泣きそうになりながらも元気に反論し、うなだれるウィローラ。
一息つき、気持ちを切り替える。
「よし!やろうか!」
手を伸ばし、立ち上がる彼女を助ける。
彼女が思いついたものはワナだ。なので、私達はまず必要な準備を整えなくてはならない。
「ヴィロミアさんとケレアニールちゃんのどっちに会いたい?」
「ケレアニールかな〜私の毛と相性良さそうだし。それにヴィロミアさんなら1人で全部片付けてそう」
「わかるな〜あの精霊羽と物理障壁の展開の早さは異常だった。ただ者じゃないよね」
ウィローラの言葉を聞いて、ふと森に引きずり込まれる前に見た虹色の光景を思い出す。
そうか、あれはヴィロミアさんの羽だったのか。
必要な準備を終え、私たちは作戦時にウィローラの隣にいたケレアニールがいそうな方向を見据える。
そして、森の奥へと歩みを進める。
「なんか寒くなった気がしない?」
「する。近いかも」
森の冷たさとは違う、肺まで届くような冷気の冷たさ。
目をこらすと、見慣れた緑や樹の黒茶色の中に、青白い異物があるのに気づく。
警戒しながらそちらに近づくと、次第にケレアニールの後ろ姿が見えてきた。
その戦場は苛烈だった。
周囲に展開される氷の剣の柵。それに貫かれているゴブリン。
樹にはりつけにされているものや氷塊の中に閉じ込められているものもいる。
圧倒的な力量差による蹂躙。
それは強者のみに許された景色。
「流石氷の竜。次元が違うね…」
ウィローラが静かに呟く。
「うん、」
生返事をしながら、私は見慣れたはずのその光景にいつもとは違う感情を抱いていた。
磨き抜かれ、研ぎ澄まされた輝き。
全ての氷が統一された一つの意思の元に振るわれていた。
「何のための力でどう扱うのか」その揺るぎない決意と、それを成すために彼女が積み重ねてきた途方もない日々の結晶。その集大成。
賞賛。胸を埋め尽くす賛美。
私はこれまで彼女の何を見てきたのだろう…
一回り小さいはずのケレアニールの背中が、今はとても大きく見える。
「……私にもできるだろうか」
思わず零れた小さな声は、隣のウィローラさえも気づかないほどだった。
だが、その言葉は、私の胸の内を、深く大きく埋め尽くした。
近づくにつれ、戦況が明らかになっていく。
ケレアニールは氷の剣を手に、一体のゴブリンと対峙していた。
氷の反射で彼女もこちらに気づいたのか少しづつ私たちの方に近づいてくる。
その間も、視線は敵から外さない。
「戦況は?」
合流したウィローラが短く尋ねる。
「最後の一体なんだけど……再生持ち。決め手に欠けて削り切れない」
ケレアニールが肩で息をしながら答えた。
相当疲れている様子だ。
「再生持ちか……あのワナで倒せるかな?」
ウィローラが私に向かって問いかける。
「いける。ダメだったら、次の手を考えればいい」
私は力強く、素直な気持ちで答える。
「ワナ?」
ケレアニールの小さな疑問の声に、ウィローラが反応する。
「そう。あいつを誘導しながら説明する。メーケ、先導頼んだ」
「任せて」
私たちは石を拾って挑発するようにゴブリンに投げつけた。
敵が追ってくるのを確認し、走り出す。
背後では、ウィローラがケレアニールに作戦を伝える声が聞こえる。
やがて、ケレアニールの声が耳に届く。
「私が魔法使う時これで温めてくれない?」
「これ、元の魔物は?」
「炎のサラマンダー」
「ごめん、私サラマンダー系は使えない。メーケよろしく」
背後から手渡されたのは、サラマンダーの鱗だった。
聞こえた会話からなんとなく用途は理解できたが、念のため確認する。
「ケレアニールが最後に魔法打つ時に使えばいい?」
「そう!お願い!」
ケレアニールの返答が響く。




