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第25話 決死の覚悟

周りが見えてくる。

ゴブリンは想像よりも少なかった。


正面の木の上に縛り付けられた魔術士。そこから黒い線が街の方向に伸びている。

その木の左右に棍棒持ちが一体ずつ。

左側の木の上に弓持ち。


視線を横にずらすと、同じような数の敵がウィローラの側にもいる。


そして、後方からも敵意を感じる。


つまり、私たちを囲むような布陣で、正面には8体の敵。

私たちを殺すのには十分過ぎる数。

それに伏兵もいるかもしれない。

正面突破はまず無理。



「どうする?」

私は素直にウィローラに尋ねた。


「雑な作戦ならある」

彼女は手短に説明する。

最後に、小さく息を吐いて付け加える。

「一度しか通用しない手だけど」


「でもやるしかない。死に物狂いでやる。そうでしょ?」

「わかってんじゃん」

ウィローラが力強い声で答える。



やるべきことは理解した。

スピード勝負だ。

ナイフとポーチさえあればいい。

余計なものは足枷になる。


私は左手の盾と腰の剣を外し、地面に放り投げる。


覚悟は決まった。

失敗すれば確実に死ぬ。


「いつでもいける」

ウィローラにそう伝えながら、視線は敵を捉えたままだ。


「よし!いくよ!絶対生き残ってね!」

「ウィロもね!」


私は彼女に背を向け、弓の方に全力で駆け出す。

羊毛を増やし、目を覆い隠す。さらに腕で目を守りながら走る。


背後で手を叩く音。

ウィローラが全身発光する前にやる動作。


「メーケ!」

声と共に、ハンマーと木がぶつかる鈍い音。


来た!


目を覆っていた羊毛をどけ、視界を確認。

少し白くぼやけているが、見える。いける。


木に突き刺さったハンマー。

落下してくる弓持ち。


私は素早く距離を詰め、足を掴み、地面に叩きつけ、首にナイフを突き刺す。


すぐにハンマーを引き抜き、後ろを振り返る。

見据えるのは、ウィローラの側にいるもう一体の弓持ち。


「ウィロ!」

そう叫びながら、弓のいる木をめがけてハンマーを投擲。

響く鈍い音。


瞬時に周囲を見渡す。

伏兵は……ここにはいない。


よし!次だ!急げ!


近くの棍棒持ちに駆け寄る。

敵は目を押さえながら、棍棒を無茶苦茶に振り回している。


私は後ろから全力で体当たりし、敵を地面に叩きつけ、ナイフで首を一突き。


次だ!もっと早く!


敵の棍棒を拾い上げる。

木の上にいる魔術士に向かって、力の限り投げつける。


黒い線はまだ消えていない。


迷わず木に登り、首にナイフを突き立てる。

線が消える。


前方の敵はあと一体!


地面に飛び降りる。

脚に落下の衝撃。


そして、頭上からさらなる衝撃。


ブレる視界。よろめく体。

足に力をこめ、転倒だけは避ける。


激痛。頭が熱い。広がる鉄の味。


殴られた。

痛い。痛すぎる。

だが、意識はある。ぼんやりとだが、ある。


それでいい。

二撃目を許すな!


目の前の敵に全力で蹴りを入れる。血を吐き出す。


「あああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


首を仰け反らせ、天に向かって叫ぶ。

そして、雷を打ちまくる。


狙いなんて定めない。

とにかく全て叩きつける。

溜まっている分を、怒りも痛みも混ぜて、全て吐き出すように。


当たらなくていい。

今のうちに意識をはっきりとさせろ。


ぐらつく視界の端にちらりと映る動き。

後方のゴブリンがこちらに迫ってきている。


まずい。挟まれたら、死ぬ。


反射。

ほぼ反射でポーチに手を突っ込み、煙玉を掴む。ありったけ。

全て投げつける。


煙がはれる前に、なんとしてもこいつしとめる。


雷を打ち尽くす。

即座に頭を敵に向けて突進。


羊毛を増やしまくる。膨張させまくる。

考えなんてない。ただのがむしゃら。


頭部の膨らんだ羊毛越しに、硬い感触が伝わる――敵の肉。

膨れ上がった毛の中に両手を突っ込み、ゴブリンを掴む。


絶対に逃がさない!カッコ悪くていい!早く殺せ!


そのまま押し続ける。走り続ける。

何度も振り下ろされる棍棒の衝撃。柔らかい羊毛があっても、防ぎきれない重さ。

激痛が全身を貫く。頭から滴る血が目に入り、視界が赤く染まる。


痛い。痛い――それでも!止まる理由にはならない!


「あああああぁぁぁぁぁ!!!」


意識が途切れそうになるのを必死で押さえ込むために、全力で叫ぶ。


――ドガァン!

木に激突する衝撃が全身に響く。


すぐに腰のナイフを抜き、頭上から突き刺す。両手で、力の限り深く、ねじり込む。


耳元で響くゴブリンの苦悶の叫び。


振り下ろされた棍棒が腕に当たる。

蹴り上げてくる脚が顔に当たる。

舞い上がる土煙。


痛い。けど、おかげで意識を保てる。


ナイフを引き抜き、再び突き刺す。抜いて刺す――何度も、何度も。刺す、刺す、刺す。


溜まってきた雷を全て放つ。


敵の悲痛な叫び。


血と土と焦げた肉の匂いが鼻を刺す。


棍棒と蹴りの衝撃が無くなる。


……死んだか……?


押し込んでいた力を弱めると、ゴブリンの体が倒れる。

痙攣しながら泡を吹いている。


念のため喉元をナイフで切り裂く。

血飛沫が手元を濡らす。


すぐに周囲を見渡す。


ウィロ!!!お願い生きていて!!!


視界に飛び込んでくる姿。

――血まみれのウィローラ。対峙する棍棒持ちのゴブリン。


近い!

お互い円を描くように、左右から中央に向かって攻め込んでいたからだ。


立ってる!生きてる!……良かった!!

私はそちらに駆け出す。


棍棒持ちを挟み込むような位置へと移動する。



ウィローラと目が合う。

私は後ろから敵の背中を浅く切りつける。


注意が一瞬こちらに向く。


すかさず、ウィローラがハンマーを振り抜く。

横殴りの鋭い一撃。

頭部が胴体から弾け飛び、森の奥へと消えていく。


残ったゴブリンに警戒しつつ、合流する。


「ボロボロじゃん」

「そっちこそ」

お互い血と土にまみれ、見るも無残な姿だ。


全身が痛む――けど、それでも安堵に頬がゆるむ。




「後ろの奴ら襲ってこないね」

疑問に思い、ウィローラに問いかける。


とっくに煙ははれている。それなのに、奴らは動こうとしない。


「アイツらの役割はおそらく逃走防止。今は援軍待ちってとこじゃない?」

彼女の返答に納得する。

時間を稼げば、森の奥から来る援軍で挟み撃ちにできる、という算段か。


「四体いるけど、勝てる?」

「無理だね、せめてサシ」

血まみれの体を引き起こしながら、ウィローラが答える。


「同感。なんか作戦ある?」

「考え中」

「じゃあさ、こういうのはどう?……」

私は戦いながら思いついたことを話す。



そのアイデアを聞いた彼女は、一瞬目を見開いてから呟いた。

「単純だけど、使える」

そこから少し考え込んだ後、彼女は具体的な作戦を話し出す。それに私は所々補足する。


「うん!いけそう!」

力強い声で彼女が結論を出す。それに私も頷く。


敵は正面に二体、少し離れた両側に一体ずつ。全員棍棒持ちだ。




まず私が魔力で特別圧縮した毛玉を作り、背中越しに渡す。

そして、腰を落とし、石を拾う。

その石をわざと目立つように反対の手に持ち替え、投げる素振り。


身構えるゴブリン。警戒が強まったのを感じる。


私たちは腰を上げて、正面の敵に石を投げ、後方に駆け出す。

当然敵は追ってくる。

森の奥へ行けば行くほどゴブリン側が数で有利になれるから。


先ほどまで私たちがいた地点の近くまで敵が迫った時、私たちは同時に振り返る。


そして、ウィローラが思いっきり手を叩く音が響き渡る。

瞬間、ゴブリンたちは本能的に腕を上げ、走りながら目を覆う。

洞窟や暗い森で生きる彼らにとって、激しい光は毒。反射で体が動いてしまう。


……しかし、何も起きない。


「はい!騙された!」

ウィローラが笑顔で宣言する。


その瞬間、私は石を拾った際に設置した毛玉を膨張させる。

それは膝の高さくらいまで急激に広がり、ゴブリンの足を絡め取る。


突然の足元の不安定さにバランスを崩し、顔面から転倒する敵。


すかさず私たちは距離を詰め、ナイフでとどめを刺す。

素早く左右に分かれて、残りの敵を追い詰めにかかる。


拾った棍棒を投げる。当たる。その後は押し倒し、殴る、刺す。ひたすらに。揉みくちゃになりながらなんとか殺す。


ウィローラの方も終わったらしく、お互い荒い呼吸に肩を上下させながら、合流して背中合わせに座り込む。



「……」

無言の時間が続く。

周囲の伏兵を警戒しつつ、少しずつ呼吸を整えていく。


背中から伝わる彼女の体温、呼吸の動き。

その確かな存在感に安堵する。


風が心地よい。

だが、体の芯にある熱はまだ冷める気配を見せない。

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