第22話 討伐祭開幕
討伐祭当日の早朝。
「もふもふドラゴン☆フェアリーエンジェルズ」の面々は北西門の守護神像前に集まっていた。
他にも参加パーティーが次々と姿を見せ、周囲は徐々に賑やかになっていく。
そこへ紙を手にした人が近づいてきて、パーティー名を尋ねられた。
どうやら出席確認をしているようだ。
やがて、街中からここへ向かう人々の姿が見えなくなると、「樹冠の番人」のリーダーが壇上に上がった。昨日作戦説明をしていた人物だ。
彼は大きな声で演説を始め、参加者たちに向けて檄を飛ばしている。
私たちは少し離れた場所からその様子を眺めていた。
すると、集中力が途切れたのか、ヴィロミアがぽつりと話しかけてくる。
「結構な人数ね。50人くらいかしら」
「そうですね。小さな街の祭りにしては多いですよね」
周囲を見渡す私に、彼女が小声で耳打ちする。
「ゴブリンの素材しか手に入らないのにね」
「それに特別報酬も多くはないですからね」
お互い顔を見合わせて、つい笑ってしまう。
前回森で手に入れた報酬は、約十日分の生活費に相当した。それに比べると、今回の特別報酬はわずか三日分程度。それでも労力に対しては割が良いほうだ。
「もしかして、あのクランの新入りには必ず参加させる通過儀礼だったりして」
ヴィロミアが指差す先には、「樹冠の番人」のリーダーの周りで、真剣に話を聞く一団がいた。
「ありそうですね。一応、彼らが主導の祭りですし」
そんなたわいもない話をしている間に、演説は終わった。
そして、私たちは指示された通りに移動を開始する。
城壁に沿って南側へと進み、森から街を守る形で一列に並ぶ。
他のパーティーもぞろぞろと同じように整列している。
北西側では「樹冠の番人」のメンバーが構えていた。
噂通り、彼らが主戦力らしい。
「まあ、だいたいそっちで片付くよね〜」と、私は心の中で呟く。
私たちの仕事は、こっちまで来たゴブリンをちょこちょこと二、三匹処理する程度だろう。それと、死体の運搬と解体。
ちなみに、解体現場ではすぐ焼いて食べられるらしい。
肉はやっぱり鮮度!
そのことを考えるだけで、なんだか楽しくなってきた。
今日はお腹いっぱいになれそうだ!幸せだ〜〜〜
その時、リーダーが大声で指示を出した。
そろそろ作戦開始の合図だ。
森の中から草木をかき分ける音が聞こえ、レンジャーたちが飛び出してきた。彼らの小脇には、叫びながら暴れる小さなゴブリンが抱えられている。
「おおっ、捕まえたか〜」と内心感心しながら見ていると、彼らは平原を駆け抜け、冒険者の壁の後ろに設置された檻にそのまま投げ入れた。
作戦は順調そのもの。
次は戦士階級のゴブリンが大挙して押し寄せてくるはずだ。
周囲が徐々に緊張感に包まれる中、冒険者たちは武器を構え始める。
私も一応、左腕に小盾を展開し、右手で剣を抜く。
隣を見ると、ヴィロミアとウィローラも準備万端の様子。
でも、正直なところ、先陣からはだいぶ距離が離れているから、私たちの場所まで敵が来るのはだいぶ後だろう。そう思うと、ついつい別のことが頭に浮かんでくる。
特別報酬を貰ったら、まずはエステ確定かな〜
明日の予定を考えるだけで楽しくなってきた。
あとはどこに行こうか…
あ、そうだ! あの新しいご飯屋さん!
最近オープンしたという評判のお店が頭にちらつく。美味しいものは正義だ。それに、「サラマンダーの息吹」もいいな〜あのお店は間違いなく美味しいし。
そんなことを考えていると、ますます報酬が待ち遠しくなってきた。
早く終わらないかな〜
戦場にいるはずなのに、妙に陽気な気分のまま、私は剣を軽く振りながら微笑んだ。
「来ないわね」
ヴィロミアのぽつりとした呟きが耳に届き、私の意識が現実に引き戻される。
……………
……来ない。
目の前に広がる平原。
静まり返る森。
ゴブリンが来ない…
囚われた子供を追ってすぐに襲ってくるはず。
周囲を見渡すと、他の冒険者たちも不安そうに顔を見合わせていた。
静かなざわめきが広がる。
何かがおかしい。
もしかして、今年は追ってこれるほど数がいなかったりして?
周期的に行われる討伐祭だ。
今年はゴブリンが特別に減っているだけかもしれない。
楽に特別報酬だけもらえたりして!
やった!当たり年だ!
ラッキー!
その時――
「クアァァァァァァッーーー!」
森の奥から響き渡る甲高い叫び声。
それに続く、空気を裂くような鋭い風切り音と共に、森から次々と伸びる黒い線。繋がる。周囲と。私にも。
眼前を虹色の輝きが埋め尽くす。
硬いものが砕ける音。何度も。響く。
次の瞬間、強烈に引っ張られる感覚。
景色が高速で流れる。
木や地面に叩きつけられる。
衝撃が何度も襲う。
揺れる視界。
音も、光も、痛みも、全てが掻き回せれていく。
突如、引っ張る力が消失。
地面に叩きつけられ、転がる。何度も。ようやく静止。




