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第21話 工業的魔具と生体的魔具

その後、私たちは噴水のある大きな広場に広げられた机と椅子に腰を下ろし、詩人の弾き語りを肴にお酒を楽しむことにした。


その詩の内容には聞き覚えがあった。この街の歴史にまつわるもので、普段から街中で詩人が歌っているのを耳にしていたからだ。


確か、昔この街を襲ったゴブリンの大群を冒険者たちが撃退した話だった気がする。その戦いで活躍した五人の英雄が、この街最大のクラン「樹冠の番人トレートップ・ウォーデン」を創設したらしい。本当かどうかは怪しいものだが。

そういえば、先ほど樹冠の番人トレートップ・ウォーデンに入った際に、大きな絵画が飾られていたのを思い出す。

入口の扉を開けた正面、一番目立つ場所に、豪華な額縁に収められて象徴のように飾られていた。だからこそ強く印象に残っている。


どんな絵だったかな……

確か、何人かの人物が戦闘服をまとい、大樹の前に立っている構図だった気がする。

まさか本当にあった出来事だったりして……いや、さすがにそれはないかな…



「クシートスってなんですか?」

詩を聞いていたウィローラがヴィロミアに尋ねる声で現実に引き戻される。


確か、ゴブリンが突撃の合図に使っていたものだった気がする。だが、私もそれが何なのか知らない。


「断末魔が天界にまで届くとされる鳥のことよ」

ヴィロミアが少し眉をひそめながら続けて答える。

「私のいた魔術学園では起床の合図に使われていて、その耳障りなうるささがよく記憶に刻まれているわ」

「朝から気分が落ち込みそうですね」

ウィローラが肩をすくめる。

「ええ、本当に最悪だったわ。そのうち近隣の種族から苦情が相次いだから、なくなったんだけどね」


「それにしても、魔術学園に通っていたなんてすごいですね!どんなことを学んでたんですか?」

興味津々の様子で、ウィローラがさらに尋ねる。

「通っていたというより、私は研究目的でそこにいただけよ。講義はたまに気まぐれで受けていたぐらいだったわ」

「研究って、どんなことをしてたんですか?」

さらに身を乗り出して聞くウィローラ。


「研究テーマは魔石を定格出力装置として利用するための基礎理論。簡単に言えば、魔石を一定の魔力で安定的に使えるようにするための研究よ」

「えーと、つまりどういうことですか?」

ウィローラが小首をかしげる。


「工業的魔具と生体的魔具があるのは知っているわよね?例えば、公共交通の鳥を使う際の魔石や、飲食店のメニュー表についている魔石が工業的魔具に該当するわね」

ヴィロミアがさらりと言うと、私たち三人の目線は彼女に釘付けになる。

よく耳にする詩よりこっちの方が面白そうだ…

彼女は手にしたお酒を一口飲み、話を続けた。


「それら魔石を使う際、魔力の流れ道や魔法を使うときのイメージを意識するかしら?」

首を横に振る三人。


考えてみれば、工業的魔具は生まれたときから当たり前にそこにあった。ただ魔石に魔力を流せば決められた通りに動く道具。それ以上のことを考えたことはなかった。


「対して、生体的魔具――例えばウンディーネのヒレやサラマンダーの鱗などは、使用時に個々のイメージが強く作用する。だから、使用者によって魔法の出力や形態が変わってくるわ。最悪の場合、自己イメージの中で異物として扱われて、使えないことすらあるわよね」


なるほど、面白い話だ。

そういえば、私はウィローラの翼がどんなイメージで動いているのか全くわからない。逆に、ウィローラにとって私の角は異物であり、常識外のものとして認識しているのかもしれない。


「もし、公共交通の鳥を操るのに生体的魔具が使われていたらどうなると思う?おそらく精神支配系の魔物になるわね。イメージできるかしら?」

「……全くイメージできないです」

ウィローラが考え込んだ末に呟き、私とケレアニールも同様に頷く。


森で寄生キノコに支配された鳥や虫を見ることはたまにある。しかし、それがどういう仕組みで支配されているのか――その一端すら理解できない。ましてや、それが魔物となると、どんな姿になるのか想像もつかない。


「そうよね。その問題を解決するために考え出されたのが工業的魔具。『魔力を流す』という誰にでもできる単純な行為に注目して、それに反応し決められた出力を発生させる仕組みを作り上げた。そして、その役割に最適だったのが魔石だったわけ」

私たちは感嘆の声を漏らす。


日常に溶け込んでいる工業的魔具。それまで単なる道具としか思っていなかったそれが、とんでもない発明品に見えてきた。


「もしかして、冒険者カードの通信魔法もそうなんですか?」

ふと疑問に思い、口にする。

「あら、いいところに気がついたわね。実はその制作チームに私もいたのよ」

ヴィロミアが得意げに言う。


ヴィロミアさん……ただの変人かと思ってたけど、実はものすごい偉人なのでは?


そう思ったのも束の間。彼女はお酒の売り子として働く歩きキノコの格好をした子供を手招きで呼び寄せ、屋台の食べ物を買いに行かせていた。


……やっぱり、ただの変人かもしれない。




祭りの終盤、鐘の音が街中に響き渡り、中央神樹から大量のルルーイントの花弁が舞い落ちる。

距離があるせいで見えないが、今ごろ中央神樹の祭壇では、聖女様が祈りを捧げているだろう。

私たちもそちらに体を向け、静かに祈りを捧げる。


しばらくすると、再び鐘の音が鳴り響く。それは祭りの終わりを告げる合図だ。

祈りを終えた私たちは、机に戻り、残った料理や飲み物を片付けながら会話を楽しんだ。


その後、大通りまで歩き、自然な流れで解散となった。


私は一人、ゆっくりと帰路に着く。

祭りの賑わいを引き継ぐように、街中の光キノコがいっせいに灯り、街路を照らし出す。冷たい夜風が、祭りの熱気で高ぶっていた体を徐々に落ち着かせてくれる。


通りでは、子供たちが大人に混ざって片付けをしていた。椅子や机、花飾りを手際よく荷台へと積み込む彼らは、みな歩きキノコの格好をしている。

自分の体ほどもある荷物を運ぶ小さな姿が、なんとも微笑ましい。頭を撫でたり、思い切り抱きしめたりしたくなるくらい可愛い。


ああ、なんて可愛いんだろう…


そんな気持ちに誘われ、私は少し遠回りをして、彼らの様子をもう少し眺めることにした。

あれほど大勢で埋め尽くされていた大通りは、今やすっかり静まり返っている。


祭りの喧騒はもうぼんやりとしていて、はっきり思い出すことはできない。

まるで、今日一日が夢だったかのように思える。


唯一、食虫植物から溢れ出ているゴミだけが、祭りの名残を静かに主張していた。


今夜は、きっとよく眠れるだろう。

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