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第20話 前夜祭

「ああ…最高…生きててよかった…」

そう呟きながら、私はエルフのマッサージ店で至福のひとときを堪能していた。

ここはお気に入りの癒しの空間。森に入った翌日は、決まってこの店に足を運ぶ。


エルフ秘伝のオイルマッサージは、ただ筋肉をほぐすだけではない。

魔力の通り道を意識した独特の技術で、酷使した魔道回路まで修復してくれるという。使われるオイルは「天涙樹」と呼ばれる希少な植物のエキスで、細胞を活性化させ、自然治癒力を高めてくれるらしい。

実際、マッサージを終えると体のだるさは嘘のように消え、肌は弾力を取り戻してモチモチになる。癒されるだけでなく、美容効果も抜群だなんて、感謝しかない。


マッサージを終えた私は、柔らかなタオル地の店内着に着替える。

この店では入口で渡される専用の服に着替える決まりだが、それすらも心地よい肌触りで、店の徹底ぶりが感じられる。


店内は広々としていて、どこも緑にあふれている。生い茂る植物とほんのり漂う甘い香りが、心まで深く癒してくれる。


木の板で仕切られたマッサージエリアを後にし、奥の生演奏ステージへ向かう。

そこではエルフたちがハープやフルートを奏でていた。

軽やかでありながら、どこか心の奥に響く深い音色。壁側の長椅子に腰掛け、演奏に耳を傾ける。

ハーブティーが運ばれてきて、目の前の丸机の上に置かれる。香りを楽しんで一口飲むと、ほんのり温かい液体が喉を通り、体の芯から温まるのを感じる。


音楽とハーブティー、植物たちの緑…すべてが優しく私を包み込む。

心地よい音色の余韻は、魂の奥底まで届くようだ。このまま、時間が止まってくれたら――そんなことを考えながら、私は目を閉じ、ただ音楽に身を委ねる。


やがて目を開けると、柔らかな光が視界に溶け込む。

演奏するエルフたちの姿が少しずつ見えてくる。


――うん、実に良い形のおっぱいだ。


心の底から癒されている証拠だろう。こんなくだらない感想が浮かぶほど、私の中は安らぎと余裕で満たされていた。


ハーブティーをもう一口飲む。体がじんわりと温まり、何もかも忘れさせてくれる幸福感に包まれる。


「もう、ここで一生生きていこう」

そう確信した瞬間だった。




それから二日後。今日は前夜祭だ。

街中の人々が花をモチーフにした衣装に身を包み、明日の討伐祭の成功を祈って、女神へ歌と踊りを捧げる。朝から祭り独特の高揚感が、街全体に満ちている気がする。


私も普段とは違う、少し気恥ずかしい服を着ている。

上着は首元まで布がしっかりとあり、どこか高貴な雰囲気を感じさせるもので、袖口はふんわりと広がった長袖だが、生地は薄手で軽やかだ。

下のスカートは膝丈で、ふんわりと立体感のあるシルエットがさらに優雅さを演出する。全体に花の刺繍が施されているが、控えめで上品なデザインだ。色は全身落ち着いた赤で統一されており、華やかさの中にも品が感じられる。


この服は、ウィローラとケレアニールが選んでくれたものだ。

多少の気恥ずかしさはあるが、せっかく選んでくれたのだから、着ないわけにはいかない。


「ついでに」と言いながら、私は服屋で整髪――という名の羊毛提供を済ませ、集合場所へ向かった。


すでに三人は揃っていた。

ウィローラとケレアニールは、いつものようにフリルのついた服を着ている。彼女たちの姿には見慣れているからか、特に違和感はない。だが――


「……ヴィロミアさん?」


彼女はまるで別人のようだった。

淡い白を基調としたワンピーススタイル。繊細なレースと透明感のある袖が柔らかな印象を与え、袖や裾には花の刺繍が優雅に散りばめられている。その姿は、まるで貴族のご令嬢のようだ。


「……どう、似合う?」

照れくさそうに微笑むヴィロミアに、私は思わず目を見張る。


「はい、似合ってます。すごく」

彼女の服もウィローラとケレアニールが選んだものだ。

私たちは、普段着慣れない服を身につけた者同士、視線を合わせて苦笑する。

「なんだか落ち着かないですね」

「そうねぇ、本当に」


それでも、祭りの空気が私たちを包み込み、少しずつ心が浮き立っていくのを感じる。




まず私たちは、この街最大規模のクラン「樹冠の番人トレートップ・ウォーデン」内にある作戦室へと向かった。

明日の討伐祭に向けて、作戦や配置などの説明を受けるためだ。


到着して中に入ると、すでに多くの人が集まっていた。皆、祭りに合わせて妙に華やかな格好をしている。

それでも場には緊張感が漂い、なんだか浮ついた気分と引き締まった空気が混在している。


定刻になると、壇上にリーダーらしき男が上がり、話し出した。


「まずは参加パーティーが揃っているか確認する。呼ばれたら返事をしてくれ」


そして次々とパーティー名が叫ばれる。


深影の追跡者パティスキア・フェルリアン幽森開拓隊アヴツァ・エクスピトゥ翠炎の冥獣ジャフローガ・ノーグティリオ蒼葉星海団エルレリム・ラフティーモレ…」


他のパーティー名、カッコよすぎないか?

なんだよ「翠炎の冥獣ジャフローガ・ノーグティリオ」って。どう考えても強そうじゃないか。

……いっそ何かの手違いで、私たちのパーティーだけ呼ばれなかったらいいのに…



覇蛇の毒牙インペンス・ヴェネイノス森淵探検隊ヴァナズドナ・エクセレンガス…」



沈黙の中、厳かにパーティー名と返答だけが響き渡る。



「…もふもふドラゴン☆フェアリーエンジェルズ」

「はいっ!」


いや、ウィロ。そんな爽やかに返事しなくてもいいだろ!


……


場を支配する沈黙。


なんだこの沈黙は……笑えよ……笑いたきゃ笑えばいいだろっ!


……


頼むよ、誰か笑ってくれ…

こんなに痛い沈黙は初めてだ。てか、壇上のやつ、なぜお前も黙るんだよ……


壇上のリーダーは、新たに上がってきた男と何やら小声で話し合っている。


「私たちのパーティー名が一番イカしてるわね!」

ヴィロミアが満面の笑みで、冗談なのか本気なのかわからないことを口走る。


なぜ私のパーティーには、こんなヤツしかいないのだろうか……



「これで最後だ。では、作戦説明に移る……」


ああ、そうか。私たちが最後だっただけか。

辛い間だった……本当に辛かった……


作戦説明が始まる。

真剣な空気の中、参加者たちはピリッと引き締まった顔をしている。


その顔に似合わない花の刺繍やリボン付きの衣装はなんだ…


張り詰めた作戦説明の空気と、祭りの浮かれた格好のギャップに、笑いを堪えるのが精一杯だった。

とりあえず、説明は最後まで聞く。



その後、クランを出た私たちは、ヴィロミアの希望で賑わう街を見て回ることになった。

通りには屋台が立ち並び、祭りの雰囲気が漂っている。


お酒を片手に隣を歩くヴィロミアが、先ほどの作戦について話し出す。

「まずはレンジャーがゴブリンの子供をさらう。それを取り返そうと押し寄せてくる群れを片っ端から倒していくってこと?」

私は屋台で買った肉串をかじりながら答える。


「そうみたいですね。森と城壁の間の平原までおびき出すので、視界が広くて戦いやすいのでいいですよね」

「森から出てこない奴らはどうするのかしら?」

「戦士階級の数を減らすのが目的らしいので、全部引っ張り出さなくても、ある程度減らせればいいんじゃないですかね?」

「なるほどね。そういえば、メーケシャさんは今回が初参加なの?」

「はい。ウィロも初参加です。噂では『樹冠の番人トレートップ・ウォーデン』の人たちが、ほとんど片付けてくれるらしいですよ」

「確かにそのクランが第一陣に配置されてたわね。私たちはだいぶ後方だった気がするけど」

「たぶん、主な仕事は解体になるんじゃないですかね?」

「…それは面倒ね〜」

ヴィロミアが肩をすくめてため息をつく。


街は歌って踊る集団や、通りに並べられた机と椅子で飲み食いする人々で埋め尽くされ、祭りを楽しむ賑やかな光景が広がっている。

その喧騒を見渡しながら、ヴィロミアがふと呟く。


「白い花が目立つわね」

すると、前を歩いていたウィローラが嬉しそうに振り返る。

「気になりますか! 毎年この時期に満開になるルルーイントっていう花なんですよ!」

「へぇ、そうなのね。綺麗じゃない」

「ちなみに花言葉は運命です!」

「よく知ってるわね」

「昔、花の図鑑を読むのが好きだったんです!」


ウィローラにそんな一面があったなんて、初めて知った。

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