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第15話 入森初日

冷たい空気が肌に触れる早朝。山間から顔を出し始めた太陽の光だけが、ほんのりとした暖かさを運んでくる。

私たち四人は、北西門にある見上げるほど大きな守護神像の前に集まっていた。

街中でのラフな服装とは異なり、全員が森を進むための装備を身に着けている。


「ショート似合うわね」

ヴィロミアが私に話しかけてくる。

「森を進むには邪魔なので切ったんです。でも、二日後には元通りですよ」

苦笑いながら、返答する。今朝、腰まで伸びていた髪を肩のラインに合わせて、適当に切ってきたのだ。長すぎると枝に絡まりまくって歩きにくいからだ。


森と城壁の間には、一面に丸太で作られたバリケードが広がっている。

太い丸太を左右対称に斜めに組み合わせ、交差する部分をしっかり固定した防獣柵だ。先端は鋭利に尖らせてあり、高さは人の腰ほどまである。獣が飛び越えられないように間隔を空けて三列に設けられている。

そのバリケードの間のジグザグ道を抜け、森の入口まで到達する。


「さあ、入るよ。準備はいい?」

ウィローラの声に全員が頷く。それを確認した彼女は森へと一歩を踏み出した。

先頭はウィローラ、次にケレアニール、その後ろにヴィロミア、最後尾は私。

道は冒険者やレンジャーが日々踏み歩いているおかげで地面が硬くなっており、草木も生えていない。そのため、歩きやすい。


しばらく歩くと、ケレアニールがウィローラに話しかけている声が聞こえた。

「一気に暗くなるね」

私たちの何倍もの高さの木々が生い茂る森は、陽の光がほとんど届かない。そのため常に薄暗い雰囲気に包まれている。

「怖い?」

「少し」

しかも、森は木々ばかりで、視界が最悪だ。不気味な静けさと薄暗さが、不気味さを演出する。突然矢が飛んでくるのではないか、足を掴まれるのではないかといったネガティブな想像をしてしまうのも無理はない。


「どうしても耐えられなくなったら教えて。鎮魂草をあげる。吸うと感情が落ち着くから」

「わかった」

ケレアニールは小さく頷くと、それ以上何も言わず静かになった。


しばらく道なりに進み、街の中央神樹が完全に見えなくなった頃、ウィローラが一本の木の前で立ち止まった。

「これがレンジャーの印」

彼女は顔の高さに刻まれた魔術印を指差す。

ケレアニールとヴィロミアがその印に目を向ける。


「最寄りのレンジャー拠点や群生地までの距離と方角、周辺の注意事項が記されてるから、確認は必須」

ウィローラが魔術印に手をかざすと、印から淡く輝く文字が浮かび上がる。

彼女はその情報を二人にも見せる。


私は「まだ森の入口付近だから特筆すべき情報はないだろう」と思いつつも、二人の後ろから確認する。やはり注意事項には目立った記載はなかった。


それを見つめながら、ヴィロミアが口を開く。

「こういうの、どこの森にもあるものなのね」

その言葉に興味が湧いたので、尋ねてみた。


「ヴィロミアさんの住んでいた森にもあったんですか?」

「ええ、ただ材質が違うわね。私の森では魔物の骨を使っていたわ。先端に頭蓋骨が飾られていたから、子供の頃は相当怖かった思い出があるわ」

「頭蓋骨ですか…それは真夜中に見たくないですね…どうしてそんな怖い作りなんです?」

「魔術的な魔除けと、子供が森に深入りしないようにするためよ。昔森に入った子供が魔物に食い殺されて、その子供の骨で作られた、なんていう迷信があってね。子供心に本気で信じていたものよ」

彼女は懐かしむような声で微笑みながら呟いた。

ヴィロミアさんの子供時代って、いったい何百年前の話なんだろう…


ウィローラは二人が見終わったことを確認すると、魔術印に触れて文字を消す。そして、軽く振り返り、「行くよ」と声をかけ、再び歩き出す。


その後もレンジャーの印を見つけるたびに、確認しながら慎重に進んでいく。そして、最初の目的地であるキノコの群生地に到着する。


そこでは二手に分かれて採取することになり、私はヴィロミアと共にキノコの生えている木に近づいた。彼女に取り方を説明するために、実演しながら話す。

「こんな感じで、あまり根元を切りすぎないように取ってください」

サバイバルナイフを使い、慎重にキノコを切り取ってみせている間、ヴィロミアは静かに頷いて聞いていた。


「一つの場所から取るのは、だいたい三割程度に留めておいてください。あとは、その紙に載っている絵と特徴を見比べて、不安だったら呼んでください」

「わかったわ」

ヴィロミアは常設依頼と季節依頼の対象になっているキノコの絵と特徴が記載された紙を手に持ち、作業を始めた。


私はこの街に来て三年ほど採集ばかりをしているので、ほとんどのキノコは見ただけで判別できる。


ヴィロミアは時折「これで合っている?」と声をかけてきた。彼女は飲み込みが早く、手際も良い。そのため、袋がすぐにいっぱいになってしまった。


その後、ウィローラたちと合流し、収穫物を種類ごとに振り分ける。後で食べる分はそれぞれの袋に詰め、換金する分は水分を吸収する植物で作られた特製の袋に入れておく。これで保存状態が良くなるのだ。


作業を終え、荷物を整えた私たちは次の目的地へ向け歩き出す。

やがて昼飯どきでお腹も鳴ってきた頃、一つ目のレンジャー拠点に到着する。


ここで昼食を作るのかと思っていたが、ヴィロミアがリュックから小包を取り出し、皆に配り始める。中身は握り飯だったが、想像を超える美味しさだった。

「ヴィロミアさん、これめっちゃ美味しいですね!」

感動して声を上げると、ヴィロミアは微笑みながら答える。

「ホテルのルームサービスだったから期待してなかったけど、確かに美味しいわね」

「なんてホテルですか?」

「プラート・ヴォレよ。私、建築家のグミシュートのファンでね。彼のデザインしたホテルに泊まるのも旅の目的なの」

ホテル名にも建築家の名前にも心当たりがなかった。

「どこにあるんですか?」

「ルオント区ね」

中央神樹にほど近い、超高級な建物が立ち並ぶエリアだ。

贅沢をしたい時に泊まりに行こうかと思ったが、費用を想像してすぐに諦めた。一泊するだけで二週間分の生活費が吹き飛びそうだ…


昼食を終え、レンジャー拠点を後にすると、次の目的地である薬草の群生地を目指して歩き始めた。

道中、先頭を歩いていたウィローラが立ち止まり、振り返る。

「迷子になりそうになったら、まず足元を確認して。この黄色い花を見つけたら安心していいよ。この花は人の服にくっついて受粉するから、正しい道沿いには必ず生えているの」

ケレアニールとヴィロミアは花を見下ろしながら「なるほど」と漏らしていた。


ウィローラは再び歩き出しながら、解説を続ける。

「一定間隔で通路に生えているキノコは灯りとして使われてるものだから取らないでね。万が一迷った時には、探索魔法を使えばレンジャーの印が反応するけど、魔物にも気付かれるリスクがあるから探知範囲は慎重に設定してね」


そんな注意事項を聞きながら進んでいると、薬草の群生地に到着した。ここでも二手に分かれて作業を行うことに。


ヴィロミアは魔術の素材として薬草を採取していた経験があるらしく、非常に手際が良かった。むしろ私よりも素早く正確に作業をこなしているようだった。

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