第14話 入森行程書とパーティー名
フレーバーティーが運ばれてきた頃、残りの二人が一緒に部屋に入ってきた。ウィローラは入るなり、ありえないものを見たという表情で叫ぶ。
「ダサッ!」
ありがとう、ウィロ。私が言えなかったことを、言ってくれて。少しすっきりしたよ。
それにしても、なぜヴィロミアさんは私の方を見ているんだ…しかも腕を組み、やれやれとでも言いたげな、あきれ顔まで浮かべている!「あなた言われてるわよ」みたいな雰囲気を全身で醸し出すのはやめてくれ!……あんたのことだから!
「ヴィロミアさん、アラサガシタウロス君のことです」
「えぇっ!?」
目を見開き、驚きの表情を浮かべるヴィロミアは、助けを求めるようにケレアニールの方を向きながら、身につけている服を誇らしげに見せる。
「どう思う?キモ可愛くない?」
ケレアニールは、今まで見たことがないほど困った顔をし、目を泳がせながら慎重に言葉を紡ぎ出す。
「…どちらかというと……ダサ寄りかと…」
「そんな〜」
ヴィロミアは机に突っ伏し、肩を落としてうなだれる。その姿を見て、心なしかアラサガシタウロス君の背中も、ひどく小さく見えた気がした。
気を取り直し、後から来た二人にメニューを渡しながら、すでに注文した料理を伝える。二人の注文が終わったところで、私は部屋の奥に設置された文字盤の前に立つ。
そして、固定された地図を用いて、次の内容を説明する。
・森の地図にはレンジャー拠点や、この時期に採れるキノコや薬草の群生地が記載されていること
・基本的にはレンジャー拠点で野営し、それらを巡りながら道中にある群生地で採取を行うこと
・採取した物を売ることで収入源とすること
ヴィロミアはメモを取りながら熱心に耳を傾けている。その真剣な様子を見て、こちらも説明のしがいを感じ、自然と嬉しくなる。
一方、ケレアニールはフレーバーティーの香りを嗅ぎながら聞いている。
まあ、気分が落ち着く香りだからな。ずっと嗅いでいたくなる気持ちも分かる。
次はルート決めだ。ここからはウィローラにバトンタッチする。彼女は先ほどまでギルド発行の森の最新情報が書かれた冊子に目を通していた。その成果をもとに、文字盤の前に立ってルート提案を始める。
私は席に戻り、匂いの強い睾丸焼きをそっとヴィロミア側に寄せてから、フレーバーティーを一口飲む。
彼女が提案したのは、五日間の無難なルートだった。
ケレアニールもヴィロミアも、今回の討伐祭に参加するとのことなので、ゴブリンの住処近くにある果実の群生地を訪れる。しかし、ある程度森に慣れてから挑べきというのウィローラの判断から、そこには三日目に訪れるルートとなっていた。
次に、戦闘時の役割分担と作戦を決める。指示役はウィローラが務めることになった。また、森での戦いにおける注意点等、以下のことを共有した。
・敵の数次第では戦闘は避けること
・長物は振り回せないため、取り回しやすい武器を選ぶこと
・枝に引っかからない服装を心がけること
・逃走用の煙玉は必携であること
ウィローラの説明が終わり、彼女が席に戻る。今度はヴィロミアとケレアニールからの質問に答える形で以下のことを伝える。
・水分補給のために水魔法の媒体は常備しておくこと
・天候が変わりやすいので雨具は必須であること
・サバイバルナイフは採取や戦闘等幅広く活躍するため、最低二本は持っておきたいこと
最後に、出発日は明日の明朝に決定した。
あとはパーティー名を決めれば「入森行程書」が完成する。これをギルドに提出すれば、森へ入る許可が下りる。
「じゃあ、最後にパーティー名を決めよっか」
ウィローラが提案する。
皆が思い思いにパーティ名に使えそうな単語を挙げるので、私はそれを文字盤に書き留めていく。
羊、天使、精霊、竜、角、森、自然、翼、雲、空、白、青、女性、華やか、旅…
「…安直だけど、角と翼を組み合わせて角翼。天使や精霊、竜が飛ぶイメージから空を、羊毛を雲に見立てて、『角翼の空雲』。読みはプリテンガ・ブラコエルムなんてどう?」
ヴィロミアがメモを片手に提案する。
おっ!ちょっとかっこいいかもな~良い感じの流れが来ている気がする!
「良いですね」
私はそう答え、文字盤に描く。
皆、考え込むように沈黙の時間が流れる。
………
「…もふもふドラゴン☆フェアリーエンジェルズ」
唐突に聞こえた、悪魔のささやき。
うん、聞かなかったことにしよう。絶対に気のせいだ、そう思い込むことにしよう。
「くっ……ぷっ、あははははっ!」
静寂をやぶり、ウィローラが突然お腹を抱えて笑いだす。
「良いじゃん!一周回ってあり!ハイセンスだね~」
彼女はそう言いながら、ケレアニールの肩に手を置く。
ああ、ウィロのやつ…完全に悪ノリモードに入ってやがる。
「そうかな」
頭をかきながら、照れるケレアニール。
それ、皮肉やで、ケレアニール君よ…
続けて彼女が得意げに話し出す。
「え〜とね〜もふもふがメーケシャの羊毛のことでしょ…」
いや、解説せんでもわかるわ!
「ヴィロミアさんはどう思います?」
助けを求めるように、ヴィロミアに意見を求める。
「ん~女の子だけのパーティーだし、こういう可愛いのもアリなんじゃない?」
ヴィロミアさん……マジですか?こんなふわふわしたパーティ名、聞いたことないですよ!恥ずかしいですって!
「メーケはどう思う?」
ウィローラがにやけ顔でこちらに聞いてくる。
その顔腹立つな……てか、もう何を言っても無駄な気がする…
「…可愛いとは思うけど」
即却下したい。でも、多数決で、もはや勝ち目がない。せめて悪あがきだけはしておこう。
「私はこっち派かも」
文字盤に書かれた「角翼の空雲」を指差す。それを聞いたウィローラが笑顔でまとめだす。
「ナシじゃないのね。なら、『もふもふドラゴン☆フェアリーエンジェルズ』で決まりでいいんじゃない!」
圧倒的にナシなんだけど…今更言える雰囲気じゃない…観念して、「もふもふドラゴン☆フェアリーエンジェルズ」とパーティー名の欄に記載する。
その後は食事を終え、ギルドに入森行程書を提出し、装備品の店を軽く回ってから早めに解散となった。