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第13話 変わらぬ私

ヴィロミアと話しながら、歩いているうちに店に到着した。

「新緑のキノコ亭」は大樹の枝に生やした巨大なキノコをくり抜き、そのまま客室として使っている独特な造りだ。内装もまたキノコを活用しており、椅子と中央の丸机が部屋と一体化している。そのため、キノコ製ではない文字盤やゴミ捨て用の食虫植物がどこか場違いに見えた。


ヴィロミアは外壁を一周して物珍しそうに眺めた後、部屋に入ってキノコの壁に興味深そうに触れていた。私は個室が取れたことを、まだ到着していない二人に連絡する。


今回は森の説明をするため、文字盤の前に座るのは私とウィローラだ。ヴィロミアは私の隣に腰を下ろし、早速メニューを開き始めた。私は今朝の悪夢を思い出し、せめてメイン料理だけは確保しなければと考える。


「ヴィロミアさん。大皿のサラダと、皆でつまめるようなメイン料理で美味しそうなもの、何かあります?」

「そうね〜土鍋で炊いた山菜キノコリゾット、キノコと野菜の森の恵みピザ、大葉で包んだ鶏の蒸し焼きとか、色々あるわね」

「どれか食べたいものはありますか?」

「山菜キノコリゾットかしら」

「いいですね!じゃあ、それを4人前お願いします」

「わかったわ」

「あ、あと私のコーヒーと、ウィロ用に適当なフレーバーティーを頼んでおいてもらえます?」

「コーヒーとフレーバーティーね〜ハーブや花だけじゃなくて、キノコを使ったのもあるのね。目移りしちゃうわ」

「フレーバーティーはポットで出てくるので、色々頼んでみます?私もそれにしますので」

「そうしてくれるとありがたいわ」

「じゃあ、私もフレーバーティーで。種類はヴィロミアさんにお任せします」

まあ、さすがに変な味のものを四つも頼まれることはないだろう。

「好意に甘えさせてもらうわ」

ヴィロミアは笑顔でそう言いながら、再びメニューに目を落として悩み始めた。



そんな彼女の姿を眺めていると、つい妄想が膨らむ。

メニューを見るのって楽しいよな〜。わかる、わかる。

定番の一番人気を選べば間違いなく美味しいのは分かっている。でも、それが食べたい気分じゃないこともある。そんなとき、こう考えるのだ。


「やっぱり肉をふんだんに使った料理を選ぶべきだ。肉はハズレがない、美味しいに決まっている」と。


しかしだ、それと同時に、挑戦的な組み合わせの料理に惹かれる自分もいる。この料理の味が知りたい、と思うわけだ。ただ、不味かった場合、「定番のやつにしておけばよかった」と後悔することになる。それが最悪のパターンだ。でも選ばなかった場合、「あの料理はどんな味だったのだろう」と後ろ髪を引かれる思いをする。


悩みに悩んだ末、結局一番人気を選ぶ。毎回これだ。

食事はおのれとの戦い。メニューを手に取った瞬間からその戦いは始まっている。


まあ、二人が来るまで時間もあるし、好きなだけ悩んでくれたまえ、ヴィロミア君。


……


それにしても、何か忘れている気がする。何かしようとしていたような……

モヤモヤしながら、今朝ギルドで受け取った最新の森の地図を文字盤に貼り付けていく。


………あ! そうだ!固有魔法の話だ! アラサガシタウロス君の衝撃ですっかり忘れていた!


文字盤の前で作業を進めながら、相談することにした。


「ヴィロミアさん、あれから自分の魔法について考えてみたんですけど、掃除用のスポンジくらいしか思いつかなかったです」

「そうね〜メーケシャさんに今必要なことがそれだったんじゃないかしら。必要な時に必要なことを思いつくのが普通よ」

「必要な時に必要なことを思いつく、ですか」

「例えば、戦闘中や死に際に思いつく、なんて話をよく聞くわ。どちらも現状打破に必要なことを、脳が過去の経験や知識から探し出してるんじゃないかしら」


そんな極限状況、私に訪れるんだろうか…そもそも、自分の魔法の活用法を本当に知りたいと思っているのだろうか…採取依頼だけでも生計は立てられるし、必要と思えないから思いつかないのかもしれない。しかし、現状の安定を捨ててリスクを取る勇気もない……


悩みながら、文字盤の前で森の説明準備を進める。


背後からヴィロミアの声が聞こえてくる。

「フレーバーティーにはやっぱりパンケーキよね」

デザートに果実と蜂蜜たっぷりのパンケーキか、いいね〜


気づけば、私の思考はすっかりデザートの妄想へと切り替わっていた。

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