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第10話 種族の壁

「生まれ持った種族の能力差。難しい問題よね」


ヴィロミアが静寂を破ってくれた。

助かった……次は空気を悪くしないように気をつけよう。


「種族の現れ方で最近有力なのは、種族因子説ね。種族の元となる情報が詰まった因子が先祖から蓄積されていて、その内どれか一つがランダムに発現して種族が決まるって説ね」

ウィローラが興味を示し、ヴィロミアに尋ねる。

「へぇ~じゃあ、獣族とエルフ族の子供が竜族だったとしたら、ご先祖様の中に竜族がいたってことになるんですか?」

「種族因子説に基づくなら、その可能性は十分に考えられるわね」

確かに、私の産みのシスターも兎の半獣人だった。


「その信仰、ちょっと変わってますね。役割は誰から授かるんですか?」

ウィローラが首をかしげるように問うと、ヴィロミアは少し考える素振りを見せて答える。

「役割が必ずしも必要だとは限らないわ。ある人にはあるし、無い人には無い。あるいは途中で見つける人もいるかもしれない」

「…う~ん、私の信仰とは違いすぎてよく分からないです。私にとって、この体は神様からの贈り物で、何かを成し遂げるために役割があると信じてるんです」

静かに会話を聞いていたケレアニールが、嬉しそうに口を開く。

「私もウィローラちゃんと同じ考え!この力は私だけのものじゃない!」

「そう!私もそう思う!」

ケレアニールとウィローラが再び意気投合し、楽しげに盛り上がっている。



「…役割か」

思わず口をついて出た言葉に、向かいに座るヴィロミアが反応する。

「お悩み?」

「はい。どうにも役割っていうのがピンとこなくて。私には誰かを助けられるほどの力はないですし……羊毛を使って服屋でもやるのかなと思ったりもしましたけど、そこまで興味も湧かなくて…」

ヴィロミアは少し考え込んでから問いかけてきた。

「教会では、役割についてどう教わったの?」

「ウィロやケレアニールと同じで、種族や役割は神様から与えられたものだと教わりました」

「メーケシャさん自身の考えは?」

「正直に言うと…わかりません…私みたいな凡人に与えられる役割なんてあるのかな、って思ってしまいます」

「…もしかしたら、そこに目が向いていないだけで、既に与えられているのかもしれないわよ」

ヴィロミアの言葉は難しくてよくわからなかったが、なぜか引っかかる。


「どういうことですか?」

「神様はもうあなたに役割を与えていて、それに気づいていないだけとか。もしくは、まだ気づくべき段階に来ていないとか」

なんとなく言いたいことは理解できたような気はするけれど、腑に落ちてはいない。


「なるほどです…でも、私にはケレアニールみたいな力もないですし、そもそも成し遂げられる役割なんてあるんですかね?」

「そうね…まず役割を考える前に、今あるものの再認識からしてみるのはどうかしら?ヒントが隠されているかもしれないわよ」

「私に今あるものですか……当たらない雷魔法と、羊毛を増やせることくらいですかね」

「羊毛にはどんな特性があるの?」

羊毛の特性……あまり考えたこともなかったな。服屋で聞いた程度の知識しかない…


「水をよく吸う割に通気性が良くて乾きやすいのと…燃えにくいことですかね……あ、あと絡みやすくて困ってます」

最後に苦笑いしながら答えると、隣のウィローラが指を指して付け加えてきた。

「毛を膨らませられるじゃん。それに、包まれていると暖かいとか!」

確かに、それもあるけれど…なんだろう…改めて考えてみても、地味だ…

腕を組んで考え込む私に、ヴィロミアが笑顔で言う。


「素敵な特性がたくさんあるじゃない!」

フォローしてくれているのかな…優しい人だ。

「でも、戦闘には使えなさそうです」

「そんなことないわ。ただぶつけるだけが力じゃないし、使える選択肢が多いことは強さの幅を広げることでもあるわ」

強さの幅……どういうことだろう。

「難しいですね。例えばどう使えますかね?」

「う〜ん、そうね……ぱっとは出てこないけれど……」

ヴィロミアが腕を組み考え込んでいる様子を見て、少し申し訳ない気持ちになる。

迷惑をかけちゃってるかな…


しばらくして、ヴィロミアが顔を上げた。

「吸水性を生かして、水魔法の威力を減衰させるとかどうかしら?」

「ああ、なるほど…」

森での戦闘が多いから、そんなことは考えたこともなかった。森にこだわりすぎるのも良くないかもしれない。

「まあ、すぐに思いつくものでもないと思うわ。大事なのは、使えないと早合点しないことね」

「わかりました。少し考えてみます」


すると、ウィローラが唐突に会話に割り込んでくる。

「まあ、私に憧れる気持ちはわからなくもないよ。せいぜい精進するんだね!」

ニタニタといたずらっ子のような笑みを浮かべながら、私の肩にポンと手を置いてくる。

なんなんだこの酔っ払いは……

「あんたも私と同じで固有魔法はクソザコじゃん。憧れるならケレアニールの方」

その言葉にケレアニールが照れくさそうに頭を掻きながら答える。

「私の魔法もなかなか厄介よ。体が耐えられないから、温度や影響範囲の調節が欠かせないし…一番困るのは結晶化させるまでに時間がかかることね」

無敵に見えたケレアニールの魔法にも、弱点はあるんだな…でも……


「でも、一撃の威力は高いよね」

「そこは私も長所だと思ってる」

「いいよね~」

私は肘を机につき、組んだ手の上に顎を乗せてぼんやり呟く。するとヴィロミアが再び話始める。


「強大な力に憧れる気持ちはわかるけれど、どんな種族にもそれぞれの良さや得意なことがあるものよ。自分にあるものに目を向けて、それに向き合うことで、メーケシャさんも見つけられると思うわ」

種族によって得意なことが違う……言われてみれば当たり前のこと。でも、あまり意識してこなかった。もしかしたら、意識しないようにしていたのかもしれない。


「考え抜いた末に服屋になったらどうしよう」

冗談めかして言うと、ヴィロミアが口元を押さえて小さく笑った。

「それは面白いわね。でも、服屋になるとしても、“仕方なくなる”のか、“悩み抜いて選ぶ”のかで、本質が変わってくると思うわ。それはやりたいことになっているはずだから」

「ヴィロミアさんの話、たまに難しすぎてついていけなくなります」

悪意のない笑みを浮かべながら、正直な感想を伝える。


「そうかしら?伝わりやすさは意識しているところではあるのだけど、専門外の話をするとどうしても小難しくなっちゃうわね。ごめんなさいね」

「いえ、全然大丈夫です」

彼女の優しさは十分に伝わってきている。


「じゃあ最後に、私の好きな言葉を一つだけ。友人の哲学者が教えてくれたものなんだけど、気に入ってくれたら嬉しいわ。余計なお世話だと思ったら聞き流してね」


彼女はそう前置きして、私の目をまっすぐ見つめながら一言だけ告げた。




「自分自身になる勇気を持て」




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