第九話 びっくり!徳川軍新人御家人作戦!
俺の考えた作戦は至ってシンプル。
敵軍になりすますこと。徳川軍としてこのスタジアムを掃除し、堂々と敵と共に外へ出る。しかしバレた時のリスクが高く、袋叩きに遭うのは間違い無い。
加えて多くの武家は御家人に個人IDを付けて管理統率をしている。見た目で騙せるほど簡単ではない。
武家の多くは家紋にID情報を登録する傾向にあり、徳川軍もおそらくそれにならっていると俺は予想している。
だから俺達は死にかけの敵から徳川の家紋を剥ぎ取り、自分らに付けてバイタル接続をする。死んでいる敵から剥ぎ取っても、不自然なバイタル情報を与えることになり逆にバレてしまう。
「敵を気絶させてから隠れたところで剥ぎ取る方がいいだろうな。隠密で行くか」
岳陽は自分の頭部プロテクターをトントンと叩く。すると岳陽から周辺の生態レーダー情報が送られてきた。
「池田は便利屋だな」
「用意が良いと言ってくれ」
スタジアム内は言わずもがな大量の生態反応がある。俺達の近くには人間らしき反応は無く、スタジアムから敵を掻っ攫ってくるしかないようだ。
少し歩きドア付近に着いた俺達は慎重に動きながらスタジアム内をこっそり覗いてみる。
「なっ――!?」
俺はそこで目を疑うことを目撃してしまった。
ズウゥゥゥゥゥンッ――
先程戦った大型サイボーグとは比べ物にならないほどの大きな身体の巨大サイボーグ。目測では2、30メートルほどの高さで、黒い甲冑のような防御パーツで身を硬めている。
「見つかったらひとたまりもねぇな……」
俺達は息を合わせて敵の死角を行きスタジアムに入る。物音を立てずに敵を手早く気絶させ、生身とサイボーグからそれぞれ、金の葵が刻印された鎧殻の一部とパーツを剥ぎ取った。
バイタル接続は時限のウィルスで岳陽がハッキングをし、情報の上書きをすることで自然に接続が完了した。
しかし時限のウィルスなので効果時間内にここを出なければ、即座に俺達のことがバレてしまう危険がある。
「さ、剥ぎ取れたことだし、堂々と正面から出てやろうぜ」
ゾウさんはスタジアムの崩壊した壁をゆびさす。敵が突入してきた場所からなら出られるかもしれないという考えなのだろう。
俺と岳陽もそれに応じ、いつでも戦闘ができるよう警戒しながら崩壊した壁を目指した。
巨大サイボーグに気をつけ、数多くの敵の合間を縫い、客席に登ってぐるりと遠回りをしながら、ようやく崩壊している壁の近くまで来た。
3人全員欠けることなく到着し、敵も警戒せず俺達の横を素通りしていく。
瓦礫を避けながら俺達は壁から顔を出してみた。
すると予想通り、敵の突入地点の地面は比較的安全で、地面からここまでに簡易的な橋のようなものが掛けられている。地面には控えの敵兵がまだゴロゴロといて、こりゃ正面突破は疲れるだろうな、と3人して顔を見合せた。
「おいお前ら! 何しに帰ってきた!」
女の怒号が飛んできた。声のする方を見ると、ビキニに軍服を羽織っている金髪女という、とんでもなく癖に刺さる格好の女がそこにいた。
ビキニ女は細身の大剣を支えにして仁王立ちをしている。その風貌はどこかの騎士王を彷彿とさせる。
「えぇと……」
ゾウさんは突然の怒号に戸惑っている。
「(任しとけ)」
俺は基本面倒臭がりだが、面倒臭がりはある特殊能力が使える。人間にもサイボーグにも効く特殊能力が。
「はっ。敵地偵察の情報共有と、神奈川県受験生のレベルを実際に感じた感想と対策を報告しに参りました!」
ビキニ女は俺達3人を手招きする。指示通り俺達は橋を降りてスタジアムを脱し、敵陣に堂々と入り込んだ。
「お前達突入部隊か? 前線からは何も連絡が無いが、独断で戻ってきたのか?」
ゾウさんも岳陽もビビりながらずっと敬礼をしている。おもろ。
「いえ、隊長命令で戦場から一時離脱し、少し苦戦している旨を口頭で説明してこいと言われました。通信やホログラムではこの緊迫感は伝わらないと」
ビキニ女は少し考える素振りをした後姿勢を崩し、俺達に話をするよう促した。
「ではさっさく……」
面倒臭がりがもつ特殊能力とは『パチこき』。その場しのぎの虚言で、のらりくらりと面倒事を躱す。
友人から詐欺師とまで言われたことのある俺のトークスキルで、俺はこのエロビキニを躱してみせる。