第八話 逃走
「オラオラァ!」
大小二本の剣を振り回し敵の陣形を掻き乱していくゾウさん。俺も負けじと刀を振るった。
ピピッ――
岳陽からARで横浜スタジアムの立体模型が送られてきた。それには最短で外に出られる経路のナビが表示されている。
「ほら行くぞお前ら。颯太が先頭でゾウさんがしんがりを頼む」
俺は真っ直ぐルートに沿って走る。俺の後に岳陽とゾウさんも続き、俺達は崩れていないスタジアムの扉を目指した。
立ち塞がる敵をぶった斬り、後ろから俺を狙う敵を岳陽が始末し、追ってくる敵をゾウさんが蹴散らす。
そうしていいチームワークを築きながら1つ目の扉をくぐった。
「念には念を……っと」
ゾウさんは俺達の入った扉周りを破壊し、瓦礫で道を封鎖した。
「ふー。なかなかスリルがあったな!」
「颯太、本気で動けばあんぐらい動けるのな。もっと指示増やしたろ」
「池田も霜も、まだスタジアムから出てねぇんだから気緩めんなよ」
あの戦い方がこーだ、あの敵がどーだ、先程の乱戦の感想会をしながら歩いていると、意外にも、敵に遭遇せず入口までは来ることが出来た。
しかし徳川軍襲来の際に撃ち込まれたレーザーによって、スタジアムと外の地面に大きめの溝が出来てしまっていた。
さらに厄介なのは空を飛んでいる戦闘機。おそらくスタジアム内を直接攻撃してこなかったのは、味方への誤射を防ぐ為と、外に出ようとする受験生を殺すのに集中したいからだろう。
「どうする?」
岳陽が外の状況を見ながら俺に判断を委ねてくる。ハイリスクハイリターンの方法ならすぐに思いついたが、3人全員でローリスクな方法を考えるとなるとあまり思い浮かばない。
「オレが引き付けよか?」
深紅の大剣を方に担ぎ空を見上げるゾウさん。
「いや、全員生きて切り抜けたい。だから囮は使いたくない」
思考を巡らせ周りを見渡す。何か使えるものはないか、どうやったら全員が安全に切り抜けられるか。
いくら考えを積み重ねたところで、浮かんでくるアイディアは全部ハイリスクハイリターンのものしかない。
「……なぁ、成功率高い訳じゃないんだけど、策がある」
俺の考えを2人に伝える。
「………………行け……るか?」
岳陽はやはり慎重になる。あまり気乗りしていない様子だが、きちんとリスクヘッジを行う彼だからこそ、安定思考から抜けるために俺に判断を委ねてきたのだろう。
ゾウさんは割と受け入れた。出会って2時間も経っていないのに囮を申し出るほど、彼は俺達を信頼してくれている。怖いものなどないのだろう。
「そんじゃ名付けて、『びっくり! 徳川軍新人御家人作戦!』開始」
「だっさ」
俺達は再びスタジアム内へと引き返した。