第七話 三人寄れば②
俺は悲鳴を聞いてすぐに駆けつけたが、女型のサイボーグが1人殺されてしまった。すっぱりと首を斬られ、配線やオイルが漏れ出している。
「ダメだったか……」
修行していた頃は、他県に侵略遠征や他県からの侵略防衛など多くの実戦を経験した。その中には当然救えなかった命や奪った命がある。
俺達兵士は役割を果たすために命の奪い合いをするが、やはり、目の前で救えたかもしれない命が奪われるのは歯がゆい気持ちになる。
しかし赤の他人の死を引きずっても仕方がない。
俺は再び刀を握り、敵の集団に突っ込んで斬り伏せていく。何回も刀を振り、何回も斬り刻んでいった。
「おーい、いつまで遊んでんだ」
通話から岳陽の声が聞こえる。戦場を見渡すと、俺達の周りだけ明らかに敵が密集していた。
「これじゃ逃げらんねぇな」
「「はぁ?」」
「え?」
俺がそうつぶやくと、岳陽とゾウさんが同時に疑問の声を上げる。
「え、逃げんの?」
岳陽は煽りながら俺に問いかけてくる。もちろん俺は最初から逃げるつもりで動いていた。
俺のプランとしてこうだった。
まずは俺が囮になり敵を撹乱する。その隙にゾウさんと岳陽が人数を減らしながら退路を確保。敵の殲滅は程々にトンズラする。
「あ、言ってなかったっけ」
「言ってねぇよ。てっきり皆殺しにしてガッツポーズしながらここ出るんかと思ってたわ」
そりゃいくらなんでも無理ですよゾウさん。
「ほんと言葉足らずだな昔から。脱出ルートの検索終わったら教えるわ」
岳陽は呆れながら指示を待つよう俺達に言う。思い返すと、俺は敵を倒すことしか彼らに言っていなかった。
岳陽のルート検索を待つ間、少しでも敵の数を減らそうと、俺は被弾しないように立ち回りながら敵を斬ることにした。
「囲め囲めぇ!」
敵は俺を取り囲むような陣形をとった。その敵のどれもが、ライオットシールドとハンドガンを装備し、制圧力に長けた陣形だった。シールドのおかげで敵は同士討ちの危険が少なく、俺にだけ弾丸の包囲網が敷かれているというわけだ。
「てぇ!」
容赦ない発砲が360度から飛んでくる。
けして捌けない数では無いが、拡張装甲のオート防御の隙間を気にしながら戦わなければならず、気力はジリジリと失われてゆく。
そして一瞬。陽の光が影で遮られたその時。
「逃げるな反乱分子!」
先程の大型サイボーグが空から降ってきた。鉄の塊で押しつぶされれば、さすがの俺も死んでしまう。しかし銃弾を躱しながら大型サイボーグを捌くなんてかなり難しい。
俺が一瞬の思考停止を挟んで、再び思考再開するまでの間約1秒。その1秒は、鉄塊が俺の目の前まで来るのには十分過ぎるカウントダウンだった。
「バラすぜ霜!」
深紅の大剣を担ぎながら、宙を駆けるかのように飛んできたゾウさん。ほのかに彼の大剣が光っているように見えた。
眼前にまで迫る大型サイボーグ。その横からゾウさんは、ほのかに光る深紅の大剣を掴んでこう叫んだ。
「『ヴィルートランス・巨人断殺翼』!」
大きな大剣はするりと形を変え、彼は右手に持つ大剣からはみ出た柄のような物を左手で握る。そしてそれを大剣から引き抜くと、少し小さくなった大剣と通常の両刃の剣という、左右非対称の二本の剣となった。
大小二本の剣で彼は俺の真上にいる大型サイボーグに止まらぬ乱撃。いとも容易く鉄を斬り、やがて俺のところに降ってくるのは、小さな鉄クズだけとなった。