第六話 三人寄れば①
空気を震わす轟音と銃声。受験生の悲鳴や絶叫が響く横浜スタジアムで、俺は徳川軍に対し多勢に無勢の戦いを始めた。
突撃隊が真っ先にこちらへ突っ込んでくる。押し寄せる敵軍は、刀、剣、ライフル、ショットガンなど様々な武装をしている。
俺は鞘の引き金に指をかけて敵陣に突っ込む。
「大人しく殺されろ!」
近接武器を持つ敵が俺に襲いかかってきた。
「やだね!」
俺は引き金を弾き、大振りの攻撃をしてきた敵の顔面目掛けて刀を射出。撃ち出された刀の柄が頭部プロテクターをものともせず鼻の骨を粉砕し、そのまま敵は後方へ吹き飛ぶ。
敵にあたり弾かれた刀を引き寄せ、その勢いのまま俺の左右に居た敵をまとめて一閃。
「3人やられたぞ!」
敵は警戒して隊列を組みなおし、銃を持つ敵が後方支援を始めた。
ダダダダダダダダ!!――
銃弾の雨が前方から降り始める。
「そんな弾幕じゃ俺の鎧殻は突破できないぜ徳川軍!」
近接武器の敵が俺に寄らなくなったため、俺は先に銃を持つ敵から片付けるため走った。銃弾はほぼ全て拡張装甲がオートで弾き、それらをすり抜けてきた弾丸は刀で斬り落とす。
敵のと距離を詰め、味方にも銃弾が当たる射線まで来た。安全圏から攻撃出来るヤツは懐が弱い。距離を詰められると焦る心理を利用し、あえて銃弾を弾かず同士討ちを狙う形で雨を走り抜ける。
「やめろ味方だ!」
「うぐっ……。う、撃つなぁ!」
どんどんと押し寄せる敵軍は同士討ちの危険性もどんどんと上がる。俺はあえて敵陣ど真ん中に突っ込み、隊列を掻き乱して敵を撹乱し続けた。
「楽しそうじゃん。オレ混ぜてくれよ!」
通話からゾウさんの声が聞こえる。
すると直後敵の悲鳴が上がる。悲鳴のする方を見ると俺が切り抜けた敵の群れが、まるでボーリングのピンのように弾け飛んでいた。
上裸にマスクの変態が居る。
変態の大剣は敵をなぎ払い、押し寄せる敵を弾く。豪胆な戦い方だろうと予想はしていたが、齢18の半サイボーグがここまで軽々と人を弾く光景はなかなか面白い。
「颯太はそのまま被弾しないように同士討ち狙ってけ。逃げれるタイミングで引くからな」
ゾウさんに弾かれた敵の息の根を潰して回る岳陽。橙色の甲冑が早くも返り血で染まっている。
岳陽の戦い方は昔から安全策だった。俺のように状況に応じてギャンブルをするのではなく、なるべく危険を避けて確実に相手を潰すよう慎重に行動をする。
「めちゃくちゃ楽しくなってきたな!」
俺は走りながら適度に敵を斬り裂き、常に多対一の状況で戦っている。
「くそっ! なんで銃弾が当たらないんだ!」
「あの青いやつを捕まえろ!」
敵は焦りながらも俺を捕縛する動きを取り始めた。網、鞭、ショックガンなど、行動を制限する武器を持つ敵が目立ち始めた。そのためか、ゾウさんの方には遠距離武器を持つ敵が集まりつつある。
「センセーが教えてくれた流派技見せる時来ちゃったか?」
俺はとある流派の道場で3年間修行をした。その流派が得意とすることは、多対一を想定した集団制圧力と、己のセンスに身を任せた超ギャンブル的攻撃力にある。
「『多聞流・瑠璃波』」
俺は刀を収めてショックガンを持つ敵へ走る。慌てる敵を殴り飛ばし、敵から武器を奪い取る。そして奪い取った武器で周囲の敵にショックを打ち込み、怯んだ敵の武器をまた奪う。そうして網や鞭などで敵を拘束していき、俺を止めようとする敵の動きをどんどん止める。
次第に殺傷力のある武器を持つ敵が再び俺のもとに集まってくるようになり、そういった敵に対しても武器を奪取して対応し使い捨てる。
これが多対一を想定した『多聞流・瑠璃波』。多聞流の数ある技の1つであり、最初に叩き込まれた基礎戦術でもある。
「な、なんなんだあいつ!」
徳川軍が攻めあぐねていた。俺の撹乱が効いているのか、俺の通った道をゾウさんと岳陽が切り開いている。
「これは無視できない反乱分子だな」
敵陣で暴れていると、3メートルはあろう大きなサイボーグが目の前に立ちはだかってきた。金色の葵が腕に入っているため、徳川軍の兵士というのは間違いない。
その大型サイボーグは俺に拳を振り下ろしてくる。
きゃああぁぁぁ!!――
近いところで女性の悲鳴が聞こえた。反射的に助けなけれならないと身体が動き、俺は目の前の大型サイボーグの拳を受け流して声のする方へ走った。