第五話 徳川軍襲来
上空に何機も飛んでいる戦闘機、崩れたスタジアムから無数に現れる兵士。腕には金色の葵の紋章。
「おいあれ、東京の『徳川軍』だぞ!」
誰かの声に連鎖反応するよう、会場は大混乱に陥った。慌てふためく受験生や、指示を出すも無視をされるAIホログラム。まさに阿鼻叫喚のような空間となってしまった。
徳川軍は東京都の現将軍である『徳川 家康』直属の兵士。または、徳川軍と同盟を結ぶ武士達のことを指す。
今、全国統一に最も近い『三大武将』のうちの1人であり、魔境と呼ばれていた東京都をまとめあげた実力者でもある。
「あー、聞こえているかな横浜スタジアムの子供達。ワシの軍は今から君達を攻撃します。未来に反逆の種を残すわけにはいかないですからね」
上空の戦闘機から徳川家康と思われる者の声が響き、直後、数機の戦闘機から横浜スタジアムだけを隔離するようなレーザーが放たれた。
うわあああぁぁぁ!!!――
きゃあああぁあああああぁぁぁ!!――
横浜スタジアムの外周に添ったレーザーを撃ち終わると、今度は徳川軍の兵士がスタジアム内に流れ込んできた。
「お、これピンチってやつなんじゃね」
えらく達観したゾウさんは指の骨をポキポキと鳴らしている。
「え、やんの?」
俺が彼に聞くと、逆に彼は聞き返してきた。
「オレら何しにここに来たんだ?」
ここに居るヤツらは武士になりに来た。御家人になるためにここまで足を運んではいるが、皆、最終的には武士を目指しているはず。
ゾウさんはこの逆境を利用してのし上がる気なのだろう。
俺も気持ちが昂ってしまい、手が無意識にからくり刀に伸びていた。
「おーい、何2人して構えちゃってんの」
岳陽が小走りで近づいてくる。
「こういう時こそ力の見せ時かなって」
ゾウさんは深紅の大剣を地面に突き刺してニヤリと笑う。そんな彼に呆れるように岳陽はさとす。
「死んだら意味ねーんだから辞めとけって。颯太も、いくら腕に自信があってもさすがにヤバいだろ」
岳陽はそう言うが、俺はゾウさんに気付かされてしまった。
本気を出さなきゃいけない時が必ず来る。
面倒臭くても、やる気が無くても、俺の夢は大きすぎる。大きすぎるがゆえに、どこかで頑張らなきゃいけないのは必然。そんな時が来て全力が出せなければ夢なんて叶わない。
「本気出すなら今でしょ」
俺は頭部プロテクターを展開。
「だからパーカーもジーパンも脱いでんのか」
岳陽も肩を落としつつ諦めた様子で頭部プロテクターを展開した。
ザッザザ――
「みな……、い……すぐ……、に、げ――」
雑音混じりの義経の声がスタジアム内に響く。しかし俺達3人や極小数の人達は武器を取っていた。同じ考えを持つヤツも居るんだなと思いながら、スタジアムの仕切りを破壊して入ってきた徳川軍兵士達を見る。
「俺はガンガン攻める」
「オレも攻めるぜい」
俺は鎧殻の拡張装甲をオート防御モードに切り替える。そしてからくり刀を握り深呼吸する。
ゾウさんはマスクを展開。義手で大剣を持ち上げ肩に担ぐ。
「言うこと聞けよお前ら」
岳陽は橙色の兜を触り、俺達の頭部プロテクターと通話を接続。更にARでスタジアム内の様子やお互いの位置などをマッピングしてあるデータを送ってきた。
「1番倒した数少ないやつ、今日の飯奢りな!」
俺はそう彼らに言い放ち、敵陣に切り込んで行った。