第四十二話 港未来
「一目惚れじゃねーか!」
五十嵐が長々と話していた龍二に文句を言う。
「一目惚れで何が悪い!」
車内で飽きもせず暴れる龍二と五十嵐。彼の動機は確かに分かったが、いくら惚れたからと言ってフットワーク軽すぎだろ、と喉元まで言葉が出かけた。
「ウチもたいしょーは好きだけど、来た理由は全然違うなー」
花香も回想に入ろうとしていた。しかし隣に座っていた坂東が静止し、また今度にしようねと優しく諭していた。
ここに居る初期メン以外は、一通り俺が手合わせしている。なぜなら組織拡大に向け強い人間が欲しかったため、加入試験では戦闘能力のテストをしていた。
「そういえば、元から居た3人とはどういう関係なんだ?」
坂東がじたばたしている花香を制しながら聞いてきた。確かに言われてみたら、彼らに俺たちの関係を話していない気がする。
彼の質問によほど興味があるのか、暴れていた2人も、運転している悠人も、落ち着きがなかった花香でさえ静かに回答を待っていた。
「アタシの下僕」
「なりゆき」
「なりゆきその2」
後半2人はともかく、輪廻から逃げた恥さらしがなんか言ってら。
確かに岳陽もゾウさんもなりゆきと言えばなりゆきだ。先の事が決まっておらず俺の夢に着いていく岳陽と、強いヤツと戦いたいだけのゾウさん。明確な理由があって俺に着いて来ている訳では無い。
サトリだってそうだ。俺達が誘ったものの、どこまで本気で仲間としての意識があるか分からない。不自然な言動や行動も多々あり、コイツに背中を預けていいのか見定めなくてはならない。
「多分お前らが抱いてきた感情より、1億倍は薄い理由で一緒に居るぜコイツら。でも半端に降りることはしねぇと思う。よな?」
「おぉ?」
「多分?」
「そうなんじゃね?」
なんでお前らが曖昧な返事すんだよ。そこはきっちり答えてくれよ。
彼らが頭にはてなマークを浮かべながら回答したせいで、他の仲間達の頭の上にもはてなマークが浮かんでいるのが見える。
この微妙な空気を切るよう悠人が口を開いた。
「皆さん、外を見てください」
月という明るいライトに照らされて映るのは、かつて港町として栄え、今じゃビルの明かりとネオンライトで夜更かししている横浜の街並み。そして、竜宮城のように隠された『横浜城』へと繋がる唯一の城下町であるみなとみらい。
薄い雲の隙間から月光が降り、まるで俺たちの向かうべき場所を指し示しているかのように明るく照らしている。
「帰ってきたぜ横浜……!」
俺は悠人にみなとみらいへ直行するよう伝える。テンションが上がり口角も自然とアガる俺を見てか、他の仲間達も横浜を見てワイワイ騒ぎ始めた。
「めっちゃ綺麗だね胡桃ちゃん!」
「…………(こくっ)」
女だからか、それとも口を開かないからか、胡桃に対してやりにくそうな顔をする花香だった。
「胡桃お嬢はもっと自己表現しなきゃな! ガハハ!」
五十嵐が女同士のなんとも言えない空気を断ち場を盛り上げようとする。次第に仲間同士で、あそこに行きたい、あれが食べたい、俺の実家を見たい、などの和気あいあいとした会話が始まった。
このままの空気で義経に取り込まれず、JACKとして北条の野郎をぶちのめせれば良いのだが、こればかりは先輩戦国大名の気分次第になる。
大将としての自覚が現れた反面、こういう明るい空気に馴染むのに時間がかかるようになってしまった。それが良いよか、悪いのか。
「さ、安全運転で向かいますよ」
悠人は隣で気持ち悪そうにしている龍二を放っておきながら、みなとみらいに向けてハンドルをきった。
――西暦2121年4月9日21時24分――
俺たちを乗せた無輪車は無事みなとみらいへと入った。縦に長いビルの明かりやショッキングカラーのネオンライトが道路を彩らせ、絵に書いたサイバーパンクのような街並みが拡がっている。
かつてシンボルだったランドマークタワーやコンチネンタルホテルも健在だが、それよりももっと派手で横浜のシンボルとなるような建物が存在する。
「久しぶりに見たわ、『横浜城天守閣』」
横浜城は世にも珍しい海中に造られた城だ。もともと埋立地だったみなとみらいの底を海へと戻し、そこへ城を建設する事により、敵からの侵攻を超絶困難にさせるという荒業。
城が海中にあるため、みなとみらいという地域が城下町なのか城上町なのかよく分からないが、その攻めづらさゆえに三大武将の徳川軍から神奈川県を守っている。
城自体は海中にあるが天守閣は地上から少し飛び出ているため、氷山の一角のように頭だけ地上に露出している。
「社会見学的なので来たよなー」
「池田さんもたいしょーと同じ学校出身だったんですか?」
「学年は違うけどアタシもだぜー」
今から何が起こるか分からない敵陣に乗り込むというのに、車内の会話は至っていつも通り。もっと怖気付いたり焦ったりするものかと思っていたが、ここに普通の人間は居なかった。
大きなコンクリート製の石垣に乗っかっている天守閣の方へ車を走らせると、横浜城の入口にして顔である『天守大門』に数十人の源軍の兵士たちが見える。
しかしただ居るだけではなく、何やら武器を構えて何かに威嚇している様子だった。段々とそれに近づくにつれ、兵士たちが威嚇しているのは生身の人間、それも老人であることがわかった。
「うし、降りろー。直談判しに行くぜ」
天守大門の前に車をガン止めし、俺達10人は老人に群がる兵士達へと歩みを進めた。
「ですからァ、ワシゃ関係者ですってぇ」
長い白髪を後ろで結き、ボンタンと特服という大昔の格好をし、背中には『多聞』という字と身の丈を優に超えた刀を背負った老人。その声はしゃがれつつ低めで、耳に残るようなハスキーボイス。
俺はコイツを、いや、この人を知っている。
「センセー?」
俺の言葉に反応し、老人はこちらに顔を向ける。70歳にもなるはずなのに少しハリのある肌と白い髭、見えてるんだか見えてないんだか分からないほど細い目。
「お、久しぶりじゃの問題児」




