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リベリオン  作者: のらねこ
第二章 JACK vs 神奈川 死線合戦零戦線
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第四十一話 大和魂


 俺は元々中国地方の出身だ。パッとしない田舎で若いヤツも少なかった俺の地元は、年功序列と古い考えに縛られているような老人の町だった。


 そんな老人の町の、小さな道場が俺の家。


 俺の親父はなんだか偉い武将の御家人だった。その人の影響か、親父はいつも槍を握っていた。親父が槍を握れば当然、俺も握ることになる。そのための道場だった。


 一応小、中学校は通わせてもらった。だが古い考えを持つ親父に育てられた俺は、そこでの集団生活が肌に合わず、友達を作ることも難しかった。


 日本男児になれ。それが親父の口癖で、俺は日頃から厳しい修行と粗暴な()()を受けていた。そんなもんだから、俺の内にある負の側面が学校で出ていたのだろう。


 俺は周りよりも口が悪く態度もデカイ。そのくせプライドは高く他人には指図する。親父の言葉遣いや行動が移り、いつの間にか俺も親父のような人間になってしまっていた。


 そんな俺に母はいつも諭すように優しく接してくれた。親父が強く母が弱い、まさに男尊女卑のような家庭環境に身を置いていた俺だったが、俺はそんな優しい母が好きだった。


 中学生の時、俺にできた唯一の友達である『竹村(たけむら)』って友達がいた。身長も体重も平均的で人体改造もしていない生身の人間。頭も運動神経の並だった彼がなぜ俺みたいな人間と友情を育んでくれていたのか。今となっては確かめる事も出来ないが、その時はたしかに俺達には友情があった。


 なのに俺は、そんな彼に好意を抱いてしまった。友情的な意味ではなく、恋愛的な意味で。


 男も女も寄ってこない俺に唯一近づいてくれた竹村(たけむら)は、俺にとってとてつもない幸福を与えてくれた人間だった。


大和(やまと)! 暇だし山でも行こうぜ!」


「お、おう」


 明るくていつも俺を引っ張ってくれる竹村(たけむら)に、俺は男としての魅力を感じていた。それに中学生といえど、体はそうそうに出来上がっていた。体育の時間などの着替えの際、衣服をたくし上げる彼の動きを食い入るように見ていたのは今でも思い出せる。


 しかしこの俺の恋心はすぐに親父に見抜かれた。


「いびしーなぁ! 男が好きになっていいのは女だけだろうが。おどりゃそれでも日本男児か!」


 それ以来、このような俺の心を全否定する言葉を浴びせられることになった。男の何がいいのか、気色が悪い、汚ぇチンポでも咥えてろ、なんて毎日言われ続けた。


 こんな事を言われるのなら、最初から女として産まれたかった。何度願ったか分からない。


 俺が親父から罵詈雑言を浴びせられている時、母は何も言ってこなかったが、唇を噛みしめて悔しそうな顔をしていたのを覚えている。今思えば、この時の母の表情は、苦しんでいる俺に何もしてやれない悔しさの表れだったのだろうと思う。


 学校へ行くと竹村(たけむら)との楽しい時間がやってきて、それが終わって家へ帰ると親父の人格否定が始まる。俺のこの感情は正しいのか、しまっておいた方がいいのか。この時ばかりは、自分という人間の考え方を自分で否定していた。


 そうした状況がある程度続いたとある秋の夕暮れ。俺と竹村(たけむら)はいつものように山へ登り、木の実や甘いお菓子を持って、俺達2人のお気に入りの場所へ向かっていた。


「この辺の紅葉はいつ見ても綺麗だなー」


大和(やまと)はほんと自然が好きだな」


 俺が好きなのはお前なんだ。なんて、ここで言えたら格好良かったんだろう。でもそんな事言ったら彼との友情も終わってしまうかもしれない。


 グルグルと負の感情が渦巻き、俺の踏み出したい足を捕らえて離さない。


「ぼーっとしてっと置いてくぞー」


 俺の悩みなんてまるで分からない彼は、険しい山道をスタスタと進んでいく。何度も通い、何度も踏んだけもの道を通り、ヒラヒラと落ちる紅葉を眺め、大小様々な個性のある木々を抜ける。


 山を登りきると見えてくる、未だ手付かずの広い平地にぽつんと建つ掘っ建て小屋。その後ろに広がるのは、右も左も赤、黄、茶色の大森林。寒冷地の冬の空に見える綺麗なカーテンとは違い、この地域の秋の山に見える絨毯は心を落ち着かせてくれる。


「ほんと、いつ見ても綺麗だ」


 掘っ建て小屋には机と布団しかないが、俺達はいつもここで2人の時間を楽しんでいる。もちろん、友情的な意味で。


「なぁ、大和(やまと)


 突然竹村(たけむら)が神妙な顔つきで俺の名前を呼ぶ。この時俺はなぜだか分からないが、ものすごく嫌な予感がしていた。いつものように2人で掘っ建て小屋でダラダラしていたのに、こんなことは初めてだった。


 彼は次の言葉を発するのに数十秒の間を空ける。静寂の中に風の吹き込む音しか聞こえないこの空間は、かつて俺が気に入っていた場所では無いようにさえ感じた。


「お前がさ、俺の事好き……みたいな噂聞いちまったんだ。あれ嘘だよな?」


 ははっとはにかみながら竹村(たけむら)は聞いてきた。


 もしも真実を言えば、彼との友情を失ってしまうかもしれない。しかし嘘をつけば、自分の気持ちをずっと押し殺すことになる。前者を選ぶべきなのは火を見るよりも明らかだ。


 口をつぐむ俺を黙って待つ竹村(たけむら)を見ていると、彼への好意を憎らしくも思えてくる。好きにならなければ、友達同士でずっと居れたならば、俺はこんなにも悩まずに済んだだろうに。


 結局俺は親父と同じく、自分の気持ちを軽んじている。


 好きだと即答できてこその男だろう。だが俺は男になれない。


 男が好きで古い考えの親父が大嫌いなはずなのに、男らしくと育てられたせいで男としてのプライドが芽生えてしまっている。だからうじうじと矛盾した悩みをいつまでも抱えている。


「あ、えーと……」


 言葉に詰まり上手く気持ちを伝えることが出来ない。お前が好きだ、とも、ダチだからな、とも言えない。


 そんな俺を見て竹村(たけむら)は何かを察したようだった。そして気まずい空気のまま早々に解散し、答えを出さないまま彼と別れたことに俺は酷く後悔した。


 そこから彼はあからさまに俺を避けるようになった。2人では会うことも無くなったし、周りのヤツらからはイジられるようになった。そうして敵だらけとなった俺の生活に追い打ちをかけるよう、母が自殺した。


 母は唯一俺の味方をしてくれた存在だった。だがそんな母が死んだ。


 そこから結びつく俺の人生の結果として、JACKに入る前までは壮絶なイジメにあっていた。味方だった母も死に、日に日に厳しくなる親父からの()()と周りのイジり。正直もう死にたいとさえ思っていた。


 死ぬ勇気も地元を離れる気力も無く、そんな状態が3年ほど続いたある日。


 たまたま目に映り込んできたひとつのニュース。そこには、俺よりも少し若い男が戦国大名を倒し、天下を取るとタンカを切っていた。顔も声も良くおまけに抜けてそうな可愛い一面もある。


 しかし本気で天下なんて取れるわけないと思っていた。こんな若いのに、絶望を知らないから、死にたいと思ってしまう状況に遭遇してないからだ。


 そんな風に俺と彼を比べて彼を否定し、自分が良い思いをしていないから彼も同じ目にあって欲しいと、我ながら最低な事を考えていた。


 しかし俺は、ほんの興味本位で『JACK』という組織についてインターネットで調べてみた。すると驚くべきことに、全く情報が無い。いや、正確には、情報の追加が行われている最中だった。


 出来上がって間もない少人数の組織が戦国大名を倒していたのだ。


 やはり彼は俺とは違う。彼なら、言葉にした事を実行してしまうのかもしれない。たった数分の、それも画面の向こうでしか見ていないが、言葉で言い表せない凄味を感じた。


 (知りたい、この男を。)


 このまま死にたいと思いながら腐り続けるより、興味を持った男の近くに行き、俺という存在を認識して欲しい。そんな気持ちが段々と強くなっていき、今思えばこの時点で大将に一目惚れをしていたのだと思う。


 しかしこの気持ちが好意であれ好奇心であれ、下を向くのは日本男児にあらず。大嫌いな親父ならそう言っただろう。


 こうして俺は神奈川県へ向かいJACKの加入申請をし、見事試験を突破した。そこでモニター越しに見た大将と対面し、ますます好意が増幅したのを感じた。


「イカれた組織へようこそ龍二(りゅうじ)。歓迎するぜ!」


 笑うとかすかに八重歯が顔を覗かせるその口元、目立たないけれど確かに存在する目元の泣きぼくろ、整った顔立ちと、それを持つ者しか許されない黒髪短髪の整ったショートヘア。


 うーん、しゅき。

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