第四話 体力試験②
ほんの少しの休憩を挟み、俺とゾウさんは短距離走へと向かった。100メートル走は一度に10人走るようで、5回に分けてそれぞれの瞬発力を計るようだ。
ゾウさんは3回目、俺は5回目の走者という指示をAIホログラムから受けた。それまで他の人の走りを2人で見ることにした。
100メートルという短い距離ということもあり、瞬発力特化のサイボーグや半サイボーグがとても目立っている。一歩で凄まじい距離を進む者、ブースターで高速移動する者、中には機動力に長けた鎧殻を身につけている生身の者もいる。
装甲の厚い防御特化や、武器を多く装備している重火力特化など機動力に乏しい者は出遅れているけいこうにある。
速い者で2秒以内、遅い者で20から30秒ほどで走りきっている。実に多種多様な人間がいて、見ているだけでも結構面白い。
「お、次オレだ」
ゾウさんは俺に親指を立ててスタートラインに立った。
「位置二ついテ。よーイ……」
ピー!――
ゾウさんはクラウチングの姿勢から、一気に低姿勢のままスタートした。そのまま順調に走り、約9秒でゴールした。
戻ってきたゾウさんは髪をかきあげ俺の横に腰かける。2月前半のクソ寒い時期なのに、鍛えまくっているであろう上半身が汗でテカっている。
「ふー。早くコイツ振りたいなぁ」
ゾウはんは背負っている深紅の大剣をコンコンと叩く。長距離走の休憩中、自慢げに話していた彼の武器。
「霜の相棒の話聞いてないけど、ソイツとはずっと一緒なのか?」
彼は俺の刀をゆびさす。
俺のからくり刀は旧式モデルの支給品を友人に改造してもらったオリジナルだ。名前は『リベリオン・ジャック』。
鞘には特殊な加工がされており、大きな特徴は2つ。
1つは、超過負荷電圧機構という友人特製の装置。鞘に組み込むことにより、鞘内を常に超高電圧が流れる状態にできる。刀に高周波を纏わせる事や、ジャミング効果を打ち消すなど、幅広い汎用性を持つ。
もう1つは、超過負荷電圧機構を最大活用するための刀弾射出狼煙。鞘上部に引き金と小さな特殊弾倉を取り付けており、これにより鞘から刀や特殊弾の射出が実現されている。
刀の射出は高速抜刀として活用し、特殊弾は遠距離カバーのためのレールガンを放つことが出来る。
刀本体にも仕掛けがあり、俺の鎧殻と連動させることで思いのまま操ることが出来る。手から離れた際に引き寄せたり、刀を振る際や鍔迫り合い中などで刀自体を相手に押し当てることで、容易に力を増大させて刀を振るうことが出来る。
俺が13歳の頃から愛用していて、友人の思考の成長と共に進化してきた自慢の一本。ゾウさんの大剣に負けず劣らずストーリーがある。
「めちゃくちゃカッコイイじゃねぇか! 最高の相棒だな!」
ゾウさんはバシバシと俺の背中を叩く。
そんな話をしていると、もう俺の走る番になった。
「すぐ終わらせてくるわ」
俺はパーカーとジーパンを脱ぎゾウさんに投げる。
「鎧殻もツレの特注品か?」
デザイン性のある配線や排熱菅が所々に埋め込まれたブルーのスーツを基本としているのが俺の鎧殻。さらに手、肩、足、背など各パーツに取り付けられた様々な形の拡張装甲がある。
首元のスイッチに触れて頭部プロテクターを展開させると、兜が次々と頭部を覆っていく。
口元から後方に伸びるアンテナと後頭部はネイビー、顔全面が少しシャープに後方へ流れる黒いバイザーは、サイボーグに多く見られる機械的なデザイン。
「あぁ。特注品だ」
俺はスタートラインに立ち、クラウチングの姿勢に入る。
各部拡張装甲を腰と脚に移動させ、下半身に意識を集中させる。
「位置にツいて、ヨーい……」
ピー!――
地面を抉るほどの力で足に力を込め、拡張装甲のブースターを最大点火。
自分でも驚いたことに、俺が走る事に本気を出すと、100メールのゴールまでに3秒もかからなかった。
ゴールを通過しても止まりきれず、拡張装甲のブースターを前方に点火しながらからくり刀を地面に突き立てて減速をする。
ガリガリと音を立て、5秒ほどでようやく減速できた。
「マジですげぇな霜! オレと走った時なんか全然本気じゃなかったんだな」
テンション高めにゾウさんが絡んでくる。俺は彼をあしらって地面に座る。
「ふー」
息を整えると、それに呼応するよう鎧殻の排熱菅から熱い空気が吹きでる。
「何から何までロマンの塊だな。お前のツレは最高だよ」
「今度言っとくよ」
一息着いたあと岳陽の方を見た。彼はまだ2000メートル辺りを走っていて、俺はちょっかいをかけようと思い立ち上がった。
ゾウさんも俺に着いてくるようで、2人で3000メートルのトラックに近づこうとした瞬間。
ドガァンッ!!!――
轟音と共に横浜スタジアムの一部が崩れた。