第三十八話 戦略的撤退
「総員、岳陽から送られてきた地点を目指せ。理由は後で説明する」
勝てない相手からは逃げる。生物の本能に備わっている、自分と相手の力量を図る能力はこういう時に非常に役に立つ。ただ今回の場合、相手が強いからという理由よりは、得体の知れない不気味さを持っているから、の方が意味合いが強い。
それにいくら少人数の組織だからといって、俺は大将だ。仲間の命を考える必要がある。初期メンは心配していないが。
敵の狙いは俺達を狩る事よりも、箱根城を取り返すという方に重きを置いている事だろう。狩る方がメインならば強いヤツを召喚すれば済む話で、5000もの兵を連れているとなると、城を取り返してそのまま守るという方が理由としてはしっくりくる。
ならばひとまず逃げて追撃を躱せば全員の命は何とかなる。城を捨てて仲間を守れるなら、これから先も城なんて捨ててやる。
「主、友也と花香ちゃんが起きた。走れそうだから俺が先導する」
「頼む」
2人を見てくれていた坂東の報告を受け、これでおそらく全員が指定された安全地帯へと向かい始めた。
「逃げられるものなら逃げるがイイ。どこへ行こうと北条様はお前達を逃がさないだろウ」
ゾウさんと龍二が対峙していた黒と銀の騎士は白いサイボーグの所へ戻り、代わりに大勢の敵兵が俺達を追っかけてきた。
後ろを振り向きながら走る事なんか出来ないので憶測でしかないが、足音やブースターの駆動音からして、俺たちを追ってきている敵は100以上はいるだろう。
大手門から内堀へ、複数の門をくぐった後に堀橋を渡り、曲がりくねった路地を抜けて裏門から城を脱す。
「てめェ一丁前に逃げんなコラ」
「おめーが逃げろっつたンだろうがボケ」
前線を張っていた俺達3人とちょうど良くサトリが合流した。背中には大きめのリュックサックを背負い、カランガシャンという音が聞こえる。
「やっぱやるンだな」
「しゃーない。城はまた落とせばいい」
俺がなぜ真っ先に城を捨て逃げる選択をしたのか。その理由は、ちょうど10人目の仲間である胡桃がJACKに入った時。
――――
「試験は終わりだけど、なんか質問ある?」
「…………」
胡桃は可愛らしいポニーテールを横にぶんぶんと振り俺の問いに答える。彼女は必要最低限の会話しかせず、いつでもその高く澄んだ声が聞ける訳では無い。
戦闘訓練場での加入試験が終わり俺と胡桃は2人で椅子に腰かけた。そしてしばらくの沈黙の後、岳陽とサトリがアレを持って来た。
「加入試験は合格だよ。これからよろしくね!」
俺達と居る時には聞くことが出来ない女の子らしい声を出すサトリ。内心コイツ可愛子ぶってんじゃねぇぞタコと思っていたが、その思いが伝わったのか、俺はこの後サトリから肘鉄を喰らうことになる。
それはそうと、サトリはアレを彼女に渡し、岳陽は箱根城のマップデータの送信とJACKの組織概要を説明した。
「…………」
胡桃はサトリから渡されたアレこと、スクリーン名刺を見て目元が引きつっていた。
「あぁ、それと、10人目の仲間だからキリ良いしみんなに伝えとこう」
俺は通信でJACK総員を天守閣へ集めた。これから大事なことについての話をするため、胡桃という新しい仲間と共に俺達も集合場所へ向かった。
ギギイィ
重い鉄扉を開けると、既に俺達以外のメンバーが揃っていた。花香は新しい仲間が女の子と分かった途端なんとも言えない顔をし、俺の隣に女の子が立っていることに苛立っている龍二は敵を見る目で彼女を見つめ、他の男4人はぺちゃくちゃ喋っていた。
「お前らに伝えることが2つ。1つは新しい仲間が出来たこと、もう1つはこれからのことについてだ」
軽く胡桃の事を紹介しお互い自己紹介をさせた。約2名怪しげな顔をしているやつが居たが、特に問題もなく胡桃はJACKの一員となった。
「さ、ここからが本題っちゃ本題。これからのことについてだが……」
俺は岳陽に合図をし、全員にあるデータを送らせた。そのデータの内容は、この城と俺の考えについてまとめた物だ。
この城には万が一に備えた大量の爆弾が保管されている。サトリお手製の爆弾で、もちろん戦闘にも使える。しかし大量に保管している理由は、敵の手に落ちた時の為。
箱根城攻略の際、エース将軍やリカのデータには北条が絡んでいた。元々この箱根城も北条の策略で落とされたために、彼が取り返しに来る可能性は十分にある。
現状JACKは10人しか居ないため、城を持っていてもその真価を十分に発揮することが出来ない。もちろん城を持っていることで影響力や軍事力の証明にはなるが、俺達が今守るべきものは城ではない。
だから万が一があった時のため爆弾を用意し、奪われた時一気に起爆して箱根城をぶっ飛ばす。生き残りやデータが残っていれば、そこからまた更に前進することが出来る。
「てなわけでもし敵がここに攻めてきた時、俺の号令で逃げる事を指示された時は真っ先に聞いてくれ」
我ながら仲間思いの良い大将だな、なんて思っていると、そんな考えを見透かされたかのように初期メンから失笑が聞こえてきた。
「でもたいしょー、逃げたあとどうすんの?」
「いい質問だ花香。その時は近くの城を強奪しに行くか、源氏か北条に殴り込みだな! はははは!」
「「安全性皆無なんですけど」」
岳陽と悠人の声がハモった。たしかに、きっちりした安定思考の彼らからしたら恐ろしいものに聞こえるだろう。
だがそうも言ってられない。夢の道半ばで、城を守って死ぬなんて嫌すぎる。それに俺は自分の夢には本気を出すと決めた。本気で取り組んで成長する事こそ、征夷大将軍への1歩だと思う。
――――
そんなわけで総員ガン逃げの姿勢を取ってもらい、安全なところで城ごとドカンと殺っちまう。これがあの白いサイボーグの違和感へ対抗できる手段。
なりふり構わず俺達JACKは敵から背を向け城を捨てた。




