第三十七話 不耐
ガギィンッ!――
ガギィンッ!――
黒騎士はゾウさんへ、銀騎士は龍二へと剣を振るう。どちらも軽々と騎士の攻撃を受け止め、それぞれがサシで戦う事になった。
「1ヶ月もありゃ仲間だって増えるさ。それとも、そんな事聞くってこたぁ、この人数差で俺達に負けちゃう〜とか思ってんのか?」
俺は黒、銀騎士とは反対に、白いサイボーグへと走った。行く手を阻む雑魚を蹴散らし、血やオイルを全身に浴びながらからくり刀を奴の喉元まで振りかぶった。
しかしその刃はもう少しのところで止まる。
いや、正確に言えば、止めざるを得なかった。
なぜなら俺は、この白いサイボーグからは得体の知れない何かを感じたからだ。基本的に斬れば解決と思って刀を振ってきた人生だったが、その人生で初めて、刀を振ってもどうにもならないと俺の体が言っている。
「どうした大将。斬ってみるがいいサ」
目つきの悪いその目尻が僅かに下がり、腕を大きく広げて俺を誘ってくる。そこで完全に罠だと確信した。斬ると自動で反撃してくるのか、爆発するのか、毒が撒かれるのか。
いずれにせよ今はヤツに攻撃はできない。俺の感じる何かをどうかしない限り、この白いサイボーグは斬れない。
「来ないならこちらから行くゾ!」
細くしなやかな白い装甲を身にまとっているヤツは、自身の腕部から極細の鞭を引き抜き、亜音速で鞭の先端を俺に向けてきた。無闇に刀で受けるべきではないと思いヤツの攻撃を避けると、凄まじい破裂音と共に衝撃波を放って鞭を己へ引き戻す。
パァンッッ!――
その音はまるで戦闘機の爆撃音。その衝撃波まるで骨を軋ます無熱の熱波。体にも刀にも当てなくて心底良かったと思う。
「避けたら仕事が終わらないだロ」
パァンッパァンッパァンッッ!――
ヤツは先程の鞭を何度も何度もしならせ、ミサイルと戦っていると錯覚するほどの衝撃と音圧を肌で感じさせてくる。避けても避けても肌は正直なもんで、次第に肌の毛が逆立ってきた。
「ちっ……」
俺は少し引いて鞘の引き金に指をかけ、腰から直接ヤツの脚を狙って特殊弾を撃とうとした。
するとヤツは不快な笑みを浮かべた。
見られている。俺の考えも、何が出来るかも、何をするかも。そんな不快なヤツの顔に恐怖し、俺は引き金を引くことが出来なかった。
刀を振ることも、弾丸を放つことも、ましてやぶん殴ることも、ヤツへの直接攻撃全てに歯止めがかかる。それがヤツへの恐怖からなのか、俺の勘からなのかは分からない。
しかし現状、俺は攻撃するすべをこれ以上ひり出せない。どうしたものかと悩んでいると、ゾウさんと龍二の苛烈な戦闘音が聞こえてきた。
ゾウさんは攻めて攻めて攻めまくり、龍二は引いて突いて引いて突いてのヒットアンドアウェイ。攻め方でも性格出るなぁ、とか考えていると、俺の頬の真横に鞭が飛んできた。
「うおぁっぶね!」
慌てて身を引き鞭から顔を離し白いサイボーグに向き直る。恋人にヤキモチを妬くような顔で俺を見ていたヤツは、先程よりも更に速く鞭を振り始めた。
元々極細で見えづらい鞭に速さも加わる。鞭なんてブッた斬ればいい、と正直思っていたが、考えていたよりも厄介な武器という事が分かった。
俺は困難に直面した時、いつも思うことがある。
今まで何かを本気で取り組んでいれば。きちんと勉強しておけば。もっと見識を広げていれば。しっかり修行に取り組んでいれば。そうすれば、こういった状況にも難なく対応出来たのに。
でも、こんな事を思った時は、最後にはこう思う。
何とかなる。
考えても仕方の無いことをグチグチ考えるのは性にあわない。白いサイボーグを斬る事に違和感を感じたのなら斬らなければいい。撃つのを躊躇ったのなら撃たなければいい。
「分かっちまったぜお前の攻略法」
俺は刀に手を掛けず、落ちている武器も拾わず、それでも戦う意思をヤツに示す。ヤツはそんな俺を不思議に思ったのか、鞭での猛攻をやめ首をかしげた。
「ほウ、どうするのかネ大将」
俺はJACK総員と通信を繋げ、一言だけ伝えた。
「逃げる!」
俺が号令をした瞬間、鍔迫り合いをしていたゾウさんと龍二は敵から背を向けて走り出す。狙撃で援護していた悠人の銃声は止み、岳陽からは箱根城から安全地帯への最短逃走経路ナビが送られてきた。




