第三十四話 戦闘訓練模擬戦
「ふっ!」
「やー!」
重さ570キロ、高さ1メートルの鉄塊。片方は丸くもう片方は角張っており、ピンクで彩られた可愛げのない大槌。花香はヒラヒラと舞いながらそれを叩きつけ、華奢な身体に似つかわしくない力を振るう。
力強い花香と似て大きな大太刀を振る五十嵐。しかし彼女と違う点は、冷静に物事を判断し俺と岳陽の動きをよく観ている。
「あめえな!」
闇雲に大槌を振りかぶる花香を弾き飛ばし、拡張装甲で五十嵐の大太刀を受け止める。
すかさず岳陽は飛ばされた花香の着地点で刀を構る。それに気づいた彼女は無理やり体勢を変えて大槌を振り、岳陽の刀を弾いて無様に着地した。
「ちょ、ぱ、ぱん……つ…………」
「見せパンだよーだ!」
童貞の彼には刺激的だったのか、花香の見せパンに狼狽えて一瞬動きが止まってしまう。まるでナニかを隠すように姿勢を低くし彼は花香に立ち直った。
「よそ見!」
ガギィンッ!――
ニヤリと笑った五十嵐が岳陽目掛けて大太刀を振り下ろしてきたが、からくり刀で彼の重い一撃を受けとめ、強めの蹴りで彼との距離を離す。
この戦闘訓練では頭数の少ないJACKの強化を図るため、個々の能力とそれを活かした団体戦をしてほしい。
俺はとある作戦を思いつき岳陽に目線を送る。まずは五十嵐を放っておき、先に花香を潰そうと、恥も誉もなく女の子の後ろから刀を振り下ろし、ピンクの綺麗なドレスに赤いボーダー柄を作る。さらに追撃で彼女の足にも刀を滑らせ、鮮やかな赤色が所々に装飾される。
「んぐっ……」
しかし俺の中に躊躇いがあったのか傷は浅く、立て続けに岳陽も攻める様子がない。
「いたぁい!」
痛みで考えることが出来なくなってしまったのか、彼女は闇雲に大槌を振り回し始めた。戦いのさなかこうも冷静さを欠いてしまうのは、いつか味方の首を絞めることになる。
「花香お嬢!」
五十嵐は暴れる花香をなだめようと近づいてくる。これこそ、俺と岳陽が狙っていた本当の戦略だった。
女の子が痛みで暴れては男は絶対にカバーに入る。その隙を突き、花香ではなく五十嵐を戦闘不能にする。そのためにまず彼女を狙ったというわけだ。
「2対1だぜ五十嵐!」
「くっ……そ!」
挟み込むよう俺と岳陽は動き、大太刀で反撃がしづらいよう2方向から同時に攻撃した。まんまと作戦に乗った五十嵐は俺たちの峰打ちを喰らいその場に倒れ込む。
残りはか弱い女の子ただ1人。こうなれば戦闘訓練ももうじき終了だろうと勝手に思い込んでいた。
しかし、そう都合よく諦めるほど、花香はまともな頭をしていなかった。
「よくもトモパパを!」
彼女はメルヘンで無骨な大槌を俺へ向けて振り下ろしてくる。当然そうなれば、いやらしい岳陽は後ろから攻撃をしようとする。
だがそれを読んでか、はたまた勘か、見えないはずの彼の刀の動きに合わせて刀身の腹を蹴り、よろけて体勢が崩れた岳陽に追撃を入れた。
「やるな!」
俺は無防備になっている花香に向けて何度も刀を振るい、次の手を考えさせないよう猛攻を繰り出した。重く扱いの難しい大槌を持っている彼女は必死にくらいつき、俺の素早い連撃にもなんとか対応している。
ガギィンッ!――
ガチイィィンッ!――
そうして何度も何度も攻撃を続け、しつこいくらい俺に意識を集中させる。あまり俺にかまけていると、またヤツが現れる。そう、まるで、弱った獲物をかすめ取るハイエナのように。
「しまっ……!?」
ドスッ――
岳陽の峰打ちで花香は意識を失い、その場でパタリと倒れてしまう。俺達は倒れた2人を抱えて日陰に寝かせ、暇そうにしているゾウさんに介抱を任せた。
たった1ヶ月で集まった仲間達だが、彼らなりに仲間意識が芽生えているようで、花香と五十嵐を心配するような声がチラホラある。
「さ、この2人の訓練は終わりだ。各々観察しててなにか思うところあったと思う。自分の能力、特性、思考パターン、なんでもいい。この組織に活かせるものを探せ」
俺は見学していた他の面々に意識を持たせる言葉をかけた。俺も一応大将として立っているわけで、俺自身にもその自覚を意識させる意味でも、人前で偉そうなことを言うようにしている。
「ぷぷ、偉そうに何言ってンだか」
「活かせるものを探すのはてめえだろ」
初期メンバー2人からのヤジは飛んでくるが、気にしたら負けだ。
「すみません大将!」
悠人が手を挙げて俺を呼ぶ。何かと尋ねると、自分も戦闘訓練をしたいと申し出をされた。生身の人間とは違い、サイボーグは自身のパーツやチップなどで己を強化することが出来る。
しかしこの悠人は中々の堅物で、自分で体験し思考した経験からしか成長を感じられないと言い、安易にパーツ交換やチップインストールなどしないらしい。もちろんそれは素晴らしい事だが、あのサトリが装備を作るのを断られたぐらいの頑固さだという。
俺は悠人の提案に賛成だが、サトリの戦闘データの集計や能力値の詳細化などの作業が残っている。それを待ってからにしようと、俺は改めて悠人に言った。
「分かりました! それと、俺もペアでやりたいので、1人一緒に来てくれる人は居ないか?」
彼は見学していた仲間たちに振り返ってペアを探した。残っているのは、龍二、胡桃、坂東、ゾウさんの4人。
「…………」
すっ――
無口で考えが読めない胡桃が手を挙げた。
「俺も大将とはやりてぇな」
えらく渋い声で龍二も参戦を希望した。俺の時もそんな感じて来てくれよ。
「つってんだけど、サトリあとで…………」
ドゴオオォォォォォンッッッ!!!!!――――
箱根城大手門付近、空気を震わす轟音と衝撃。俺達JACKは、何者かの侵攻を受けた。




