第三十二話 3時間47分の攻略
「おつかれー」
金属とオイルと硫黄の匂いの中、俺たちJACKの初仕事が終わった。天下統一の手始めとして神奈川県を選び、戦国大名だと思っていたカール・エース将軍を打ち倒し、神奈川県の戦力の現状を知った。
主の居ないこの城はもう俺の物となる。城の内装や外装、内部設備や御家人など、様々確認や対応をしなければならない事は多いが、まずは夢への第1歩を踏み出せた。
「おい、これ見ろよ」
サトリが俺たちに1つのニュースとライブ映像を送ってきた。
そこには、箱根城周辺をドローンで生中継しているニュースの映像が流れていた。見出しには、『箱根城陥落!? 突如現れた"JACK"とは一体何者なのか』と書いてある。
天守閣の展望部へ出て外を確認してみると、城の周りを6台ほどのドローンが飛び回っている。
「情報が早ぇなオイ……」
視界に映っているARモニターのニュースでは、外に出てきた俺がバッチリと映っている。
「あ、オレも映るー」
ゾウさんも展望部に出てきてドローンに向けてポーズをとっている。すると、すいーっと全てのドローンが俺達に近づいてきた。
「こんにちは、伝令ニュースの者ですが、外で倒れている兵士はあなた達がやったのですか?」
「こんにちは、速報ニュースの者ですが、あなた達はこの城に何をしに来たのでしょう?」
「こんにちは、戦国ニュースの者ですが、"JACK"という組織とはなんなのでしょうか?」
「こんにちは……」「こんにちは……」「こんにちは……」
キリがない。全てのドローンから音声が流れ好き勝手話して質問攻めを喰らっている。ツレや女の子と写真を撮るのは好きな俺だが、こういった公の報道機関のレンズに自分が映るのは初めてだ。それも戦国大名との戦いの後、疲弊しているこのタイミングで。
疲れた体と詰まる言葉で俺は声が上ずってしまった。
「俺達は天下を取りましゅ」
オマケに噛んだ。
「緊張しすぎだろ! だはははは!!」
「俺達は天下を取りましゅ。だってよ! なっさけねぇ〜!」
「一緒に天下取りましゅな、霜。くくくっ」
神奈川県の観光地として有名な箱根の城で、初めての報道機関のレンズの前で、生死を賭けた仲間達に笑われながら、俺達JACKと俺の醜態が全国放送された。誰か俺を殺してくれ…………。
――――――
「ご報告申し上げます。カール・アン・ツインエースに任せていた箱根城が陥落致しました。リカからの定期連絡も途絶え、輪廻が送った兵もほぼ全滅とのことです」
「相手は誰だ。源氏か?」
「いえ、霜山 颯太と名乗る者と、彼の率いるJACKという組織です」
「フン、知らん名だな。まさか新参に落とされるほど脆弱な製品だったか輪廻」
「どういった対応を致しましょう」
「あの城の復興と強化に回っている兵を箱根に向かわせろ。それから、輪廻の連中にも連絡して第三世代の調整を急がせろ」
「仰せのままに」
「これから輪廻と共に源氏へ攻め入るところだったのにな。偶然か、とんだ邪魔が入ったものだ」
――――――
報道機関の質問攻めからようやく解放され、天守閣から立ち去ろうと4人で駄べっていたところ。
「主は?」
よろよろと歩くのもやっとな様子の坂東が現れた。彼にはもはや戦う意思はなく、俺たちに自分の命を断ってくれとも言わない。ただ自分の仕えた主の顛末が気になっている様子だった。
俺は濁すことも無くエース将軍を殺した事を彼に伝える。すると彼は落胆する様子はなく、逆に少し安心したかのような表情を浮かべた。
箱根城を攻略しエース将軍が居ない今、彼の管轄だった地域の支配権は俺へと移ることになる。だが正直なところ、俺達には支配を維持するのに必要な人間とノウハウが足りない。構成員4名の内1人をこの城に置き、残りの3人で他地域を制圧しに行くのもリスキー。
倒すまでは良かったが、倒してから考える事が山積みになってしまった。
いやしかし待て。俺はここでとても良い案が浮かんできた。
「なぁ坂東、俺達の部下にならないか?」
彼はかつて慕われていた将軍の下につき、人員の動かし方や、支配地域への影響力を効かせるノウハウもあるはず。
「な、なぜ俺を……。俺と君は敵同士だったんだぞ」
俺は岳陽にリカから抜き取ったデータを彼に見せるよう言った。すると坂東はデータを食い入るように眺め、北条の狡猾さと輪廻への侮蔑を顔に表した。
彼が主を乗り換えたかつての侵略は、暗躍していた力と計画性が高い作戦だった。その事に憤りを感じたのか、坂東は唇をかみ締める。
「…………わかった。主を失い敵将に情けをかけられ命を繋いだのは今日が初めてではない」
まだ気持ちの整理は着いていないようだが、彼はそれでも俺達に協力してくれるそうだ。
「お前は今からJACKとして俺達と天下統一を目指す事になる。やっぱやめたはなしだからな」
俺は坂東の肩を叩き、5人目の仲間として彼を迎え入れた。他の3人も異論は無く、彼を排することなく快く迎え入れる。
デビュー戦を華々しく飾り、仲間と城を手にし、俺達JACKの名が公に知られた。これから俺は征夷大将軍を目指すのに本腰を入れていくことになる。
その道は決して簡単では無いだろう。
だが俺には確かな自信があった。自らの夢のため成長を再開した俺にならたどり着ける。
「5人になったけどまだまだ足りねぇな。昔有名だった海賊王を目指す漫画も少数精鋭だったが、現実は甘くねぇよな」
俺がARモニターをいじってる岳陽とサトリに話しかけると、2人とも不思議そうな顔をして俺を見てきた。ついでに言うと、眉をひそめた坂東も俺を見てきた。ゾウさんは自分の義手を見ていた。
そんな顔されるようなことは言っていないと思ったが、彼らが見ていたARモニターを覗き見てみると、俺の発言がすぐに滑稽なものだと気づいた。
「居なけりゃ集めればいい」
「そーそ。今岳陽とアタシでJACKのホームページと加入申請窓口を用意した。これから文言とか詳しい活動追加してくけど、面接とか試験的なのをどうすンのかは颯太が決めな」
2人とも仕事が早い。報道機関を通じて俺達の存在が世間に知られた事を利用し、いち早く広報活動をしてくれている。
「それじゃ俺は、生き残った人間とツテを使って人を集める。主はそこでふんぞり返っててくれ」
そう言って坂東はそそくさと階段を駆け降りていった。新人がとても頼もしい。
取り残された俺とゾウさんは特にやる事もなく、ただぼーっと落ちていく陽を眺めていた。気づけば時間は17時近くでちょうど夕暮れ時だった。
こうして各々が組織の発展のため動き、3時間47分の箱根城攻略は幕を下ろした。




