第三十一話 箱根城攻略⑩
ツインエースは鋭く光る刃のような両手を俺に振り下ろす。轟速の彼にほんの少しだけ遅れをとったが、間一髪で刀を構えて防御することが出来た。
「バリ……ガハッ!――」
両手の初撃は防げたものの、続く鋭利な脚での蹴りを脇腹に喰らってしまった。拡張装甲も十分に展開できず蹴りを喰らってしまったため、まるで刃物で斬られたかのような裂傷が付いてしまった。
鎧殻の防御機能も万能では無いため次から次へと血が流れ出る。それでもツインエースの攻撃は止まらず、重装備の時よりも格段に速さのある攻撃を繰り出してくる。
今は彼の攻撃を目で追いかけて身体で反応している現状だが、絶対にいつかガタがくる。こちらからの攻めなければジリ貧で俺が負けてしまう。
幸い、スピードに全振りしているような見た目に則してパワーは控えめで、細く脆そうな部位を狙って叩けば折る事も可能だろう。
「ハァ、ハァ……、その程度か戦国大名ォ!」
俺の鎧殻に付随している拡張装甲は計8つ。ひし形、六角形、コの字、長方形の4つの形がそれぞれ2つずつある。宙へ展開して防御や攻撃したり、鎧殻に取り付けたままブースターとして機動力を確保することも出来る。
攻撃、防御、補助だけがコイツの使い方ではない。
「颯太のやつ、かなり本気でやってンぞ」
サトリの言う通り、拡張装甲をこうして使う時は、俺の奥の手のような使い方をしている。
この8つの拡張装甲は、からくり刀の鞘と連動して、俺の二刀一対の相棒となる。
「からくり刀真名、『叛逆刀』、『囚獄刀』」
青い電光が刀身に走る白刃白柄の『叛逆刀』、柄に刀弾射出狼煙の付いた黒刃黒柄の『囚獄刀』。俺の身体に染み込んだ多聞流を最大限に活かせる二刀流。これこそが俺の奥の手であり本気の本気。
「手数が増えたところで!」
視界から消えるように轟速で動くツインエースの動きを捉え、彼の動きの先に踏み込みながら両手の刀を振り下ろす。
ザギッ!――
叛逆刀と囚獄刀はツインエースの左腕を噛み落とした。細く鋭く軽量でも、高周波を纏った匠の名刀には敵わない。
そんな自身の腕を気にも止めず俺に刃を振りかぶるツインエース。片方の刀でその刃を止め、もう片方の刀で飛んでくる鋭利な蹴りを防ぐ。
相手がサイボーグでまだ人の形をしている以上、関節や弱点は人間の形に準じているはず。そこに賭けた俺は、彼の脚を払うように床との接着点を蹴り崩す。
「甘いな!」
ツインエースは崩れた体勢のままありえない身体の使い方で自身を回転させ、くるりと一回転した勢いで鋭利な脚を俺の頭目掛けて振り下ろし、脳天直下の兜割りを繰り出してきた。
「ッッラァ!」
顔の側面を軽く削ぎながらも兜割りを躱し、首に脚が振り下ろされる前に彼の脚へ頭突きを喰らわせた。
さすがに体勢を保つのがキツかったのか、ツインエースはそのまま軽く吹き飛び床に転がる。それでも負けじと立ち上がり、刃の右腕と鋭利な両脚で激しい攻撃をしてくる。
斬って突いて払って振って。防いで避けていなして弾いて。
周りを気にせず攻撃を打ち合い、鋼鉄の床や柱に大量の傷跡を残しながら俺たちは刃を交えた。
あんなに鋭く磨かれていた俺の刀も、スラリと伸びた細く鋭利なツインエースの四肢も、刃こぼれや血液の凝固で刃に劣化が目立ち始めた。
「すげェ楽しかったけど、そろそろ終わらせねぇとな」
「OK兄弟」
俺は右手の叛逆刀を順手に、左手の囚獄刀を逆手に持ち、俺が今最も最適だと思う技の構えをした。
ツインエースは身を深くかがめ、床に腕をだらりと垂らす。おそらくこれが、俺と彼のトドメの一撃になるだろう。
ダンッ!――
お互いが一斉に床を蹴り、その一瞬のために刃に力を込めた。
「『多聞流・瑠璃刃風』!!」
下からすくい上げて俺の全身を切り裂こうとするツインエースの右腕を、目にも止まらぬ速さで十文字にぶった斬り、振りかぶった勢いで彼の眼前に刃を向けた囚獄刀のトリガーを小指で弾く。
バァンッ!――
囚獄刀から撃ち出されたのは特殊弾でも空砲でもなく黒刃。その黒刃はツインエースの眉間めがかけて射出され、彼は奇抜で予想外だった刃の射出に対応しきれず頭を貫かれる。
弾けた頭部の破片や断面の綺麗な右腕は床にボトボトと落ち、脳からの信号が絶たれた細い身体も次第に床に倒れ伏した。
撃ち出され柱に突き刺さった囚獄刀の刀身は、俺の操作で拡張装甲へと姿を戻した。それに伴い、柄だけ握っていた部分も鞘に戻る。
「対あり」
キチンッ――
俺は刀を鞘に収め頭部プロテクターを解除し、大涌谷にそびえる虚城の天守閣で深呼吸した。
「うわ臭っ」
硫黄の匂いが半端なかった。




