第二十三話 箱根城攻略⑤
「ちっ………………」
ブシュッ――
坂東の は居合により俺の右脇腹から左肩にかけて袈裟斬り。サトリ作の鎧殻をも斬る正確な居合術に片膝を着いてしまった。
「ほぼ同時……いや、君の方が少し速かったか…………」
ゴトッ――
坂東は左肩から右腰まで深い刀傷を負う。俺の居合抜刀の方が速く深く斬っていたため、彼は刀を落として両膝を着く。そのまま自然と正座をして俺に首を差し出す。
「俺を切る前に名前を教えてくれ」
「別にもう斬らん。向かってくるヤツは殺すけど戦意のない人間を斬る趣味はねぇ」
俺は自分の傷は後回しにし岳陽へ駆け寄る。俺よりも傷が深く呼吸も浅い。止血の応急処置と鎧殻の生命維持機能のおかげでなんとか命を保っているような状態だった。
医学知識も鎧殻をいじる知識もない俺は彼をどうすることも出来ず、一旦サトリに話を聞いてみることにした。
「おーいサトリ。岳陽が瀕死なんだけど鎧殻の機能でどうにかできないか?」
「たかが鎧殻でなンとか出来るわけねぇだろ。と、普通の人間なら言うな」
サトリは声高らかに、自慢するように話を続けた。
「しかーし、このアタシが作った鎧殻は他の鎧殻とは一味も二味も三味も違うンだなこれが」
そうサトリが言い終えると。
ゴゴゴゴゴ………………
地震のように感じる揺れがしばらく続き、突然ピタリと止んだ。その直後。
ドガアァァァン――!!
「おまたー」
「またー」
床をぶち抜いてサトリとゾウさんが現れた。彼らはかなり返り血やオイルなどを浴びており、一瞬悪魔かなんかが現れたのかと思ったほど凶悪な見た目をしている。
「ンで、岳陽が死にかけなンだって? おもろっ」
そう言って岳陽の鎧殻をペタペタと触り、多量のARモニターを出現させる。俺が見てもなんのこっちゃ分からない画面を操作しながら、橙色の鎧殻に盛り込んでいる機能をふんだんに使っている。
「お、おいお前! 俺に早くトドメを…………」
坂東は正座のまま俺にトドメを刺すよう急かしてくる。刀を床に置き手は膝の上に、俺に斬られた位置から動くこと無く待っている。
「今立て込んでんだ。なんでそんな殺されたいんだよ」
俺は敵意の無い自殺志願者よりも岳陽の治療に興味があるため、坂東の話を軽くあしらいながらそれとなく理由を聞く。
多分誰も興味無いだろうに、坂東は語り始めた。
彼はこの城がカール・エースの手に落ちる前、源義経に箱根地域を任されていたとある武将の元に仕えていたそうな。
その武将の名は、『潮田 昇』。
昇は御家人からの信頼や町民からの支持も厚く、人柄の良い善人というのが周りからの印象だった。だから当然坂東はもちろん、他の御家人も彼が好きで心地よく奉公していた。
それに昇はサイボーグが苦手らしく、彼に仕えていた者は皆生身の人間だった。
ある日いつものように昇が箱根の街を見回りながら住民と接している時、ひとつの事件が起きた。それは、サイボーグの盗賊が現れ街の金品を奪っていくという事件だった。
そういった輩が現れた時は真っ先に解決しに行こうとする昇だったのだが、相手がサイボーグだからなのか、対処は御家人に任せて自分は城へ戻って行ったという。
「昇様、今回の盗賊は少々厄介です。なにせ外国から来たサイボーグ集団らしく、調べても分からない兵装や戦術を駆使してきます。いかが対処致しましょうか」
潮田軍の中でもかなり上の立場にいた坂東は、その日のうちに対策を講じようと昇の指示を受けようとしたらしい。しかしそんな坂東の思いとは裏腹に、昇はのらりくらりと彼の言葉を躱していたらしい。
「この手の輩が現れるのは珍しい事じゃない。焦らず対処してくれて構わない」
その時の坂東は、珍しい事もあるもんだと思いながら盗賊撃退へ兵を集中させた。
盗賊の規模は40〜50人間程のサイボーグで構成されており、街を守るため400人あまりの人間を投入して盗賊撃退へあたった。
しかしいくら鎧殻があれど、見た事も無い兵装や戦術を前に後手に回ってしまっていた。
結局その日は日が落ちるまで盗賊の対処にあたったが、捕らえた盗賊は5人もいなかったとか。逆にこちらの戦力は大幅に削られ、いつ城に攻められてもおかしくない状態だった。
「明日もう一度策を講じて盗賊撃退致します」
「あぁ」
坂東は昇への報告を終えて、その日はまっすぐ自室に戻って明日に備えたという。
しかしその明日は、トップの首がすげ変わる光景から始まった。
坂東が目を覚ますと、潮田軍の生きている兵士達は皆裸にされ城の前で磔にされていた。
「ハローエブリワン。アンド、グッバイ〜」
流暢な英語を話す大きくて装甲の厚いサイボーグが、昇の首目掛けて大きな断頭剣を振り下ろす。
「お前ら、生き――――」
ゴトッ――
家臣、御家人総員の前で主の首が落とされる。これにより自動的に箱根城の主は彼らサイボーグ盗賊の手に落ちた。
「ユーたち、どうする?」
磔にされていた坂東達は1度降ろされ足元に刀まで放り投げられる。完全に舐めてるとしか言えないサイボーグの態度に苛立ち、主の死と誇りの踏みにじりに怒りが湧き、恐怖と復讐を目に宿す家臣が大勢いた。
「こ、降参だ」
坂東はこれ以上潮田軍の仲間が死ぬのを見たくないと思ったらしく、刀を拾わず頭を下げ降参の宣言をした。もちろん昇を慕う他の家臣や御家人からは、裏切り者だの、売国奴だの、散々言われたみたいだ。
それでも坂東は昇の愛した街を守るため、新たに主となったカール・エース将軍の御家人として生きてきた。
エース将軍に仕える時間が増えれば増えるほど、昇や彼に仕えて死んで行った仲間達への罪悪感が増え続ける一方だった。しかし自殺する勇気もなく、ならばいっそ戦死しようと、俺に首を斬るよう言ってきていた。
「くだらな」
シンブルだが確実に鋭利な言葉の暴力がゾウさんの口から出た。
「なっ……、俺だって必死に――」
坂東の言葉を遮るようにゾウさんは続ける。
「結局お前は自分が可愛いだけだろ。他人を言い訳にするな」
そう言って手で追い払うようなジェスチャーをし、倒れている岳陽にちょっかいをかけ始める。
「そういう事だ。消えな」
俺も岳陽にちょっかいをかけながら坂東を突き放す。そもそも俺達の目的には彼の過去なんて関係無い。
肩を落とす坂東に背を向け、俺とゾウさんはサトリが治療中の岳陽にちょっかいをかけ続けた。




