第十六話 決闘③
鎧殻を纏ったサトリから放たれる拳は、それまでの重さとは比べ物にならないほど重厚な音圧で宙を揺らす。ゾウさんの大太刀とサトリの拳が交わると、腹の底が響くような重い音が鳴り響く。
ゴウゥゥン――!
鎧殻は物によって性能が大きく異なる。俺の物であれば外骨格による身体機能向上、外気から身を守るための体温調節機能、刀と同調させることで便利な機能を追加する刀剣拡張機能が主な性能となっている。
おそらく、サトリの鎧殻にはパンチ力増強機能は確定で備わっているだろう。でなければあんなに重いパンチが放てるわけが無い。
「……絶対喰らいたくねぇー」
岳陽も軽く引きながら彼らの闘いを見ている。ひっ迫した状況でも両者笑いながら闘っているのを見ていれば誰だって引く。
サトリは六芒星のような形で13発の弾丸を放つゾウさんのショットガンを華麗に避け、避けた隙を潰す大太刀の振りを受け流し、動作に無駄なくカウンターを挟む。
そのカウンターをゾウさんはショットガンをぶん回して阻止し、レバーアクションを入れて再びサトリを狙う。
どちらの攻撃も当たればタダでは済まない即死モーションのはずなのに、お互い1歩も引かずにケンを打ち合っている。
「……ハァ…………ハァ」
「おろ? もう息上がってンのかぁ?」
サトリがゾウさんを煽りながら猛攻を繰り出す。
ガイイィィン!――
ゴウゥゥン!――
拳が出していい音では無い重低音が冬の空気を震わす。リーチの代わりに重さのある武器を持つゾウさんの方が体力の消耗が激しいのか、白い息が激しく立ち込めている。
「まだまだ!」
彼の深紅の大剣が再びほのかな光を放つ。するとサトリは一瞬、拳を振り抜くことを躊躇う。サトリなりの優しさなのか、はたまた職人としての性なのか、彼女はゾウさんから少し距離を離した。
ゾウさんの大太刀とショットガンは元の1本の大剣に戻ったが、すぐにガシャガシャと変形していく。
大剣は彼の右腕の義手に同調するよう形が変わっていき、やがて右腕全体を覆う大きなガントレットとなった。ゾウさんの元々の腕よりも1周り程大きな深紅のガントレットは、歯車やピストンなどの内部構造が見えるデザインとなっている。
「『ヴィルートランス・屍骸弔砲炉心核』」
ガシャン、と何かを装填するような動きをするゾウさんと、攻撃を躊躇い敵の武器の変形を黙って見ていたボッ立ちのサトリ。しばらく両者は動かなかったが、先に口を開いたのはサトリだった。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!! かっけええぇぇえええええ!!!!」
少し生物にも似た禍々しさと剥き出しの機械感を併せ持つゾウさんの武器に、職人魂が震えたサトリは大大大大大興奮の様子だった。それはもう、握っていた拳が緩むほどに。
先程よりも動きやすくなったのか、サトリのいる距離まで1歩で迫るゾウさん。興奮しすぎて反応しきれなかったのか、サトリはゾウさんの下からカチ上げるアッパーを避けきれず、ほんの少しだけ顎をかすめてしまう。かすめたマスクの顎部分がほんのり赤みを帯びるほど、凄まじい重さと速さでゾウさんは攻撃をしていた。
「良い………………良いねぇ!」
バク転しながら避けたサトリはすぐに体勢を立て直し、立っている床に足の指先が少しめり込むほど脚に力を込め、拳を自分の腰の辺りまで持ってくる。
これはデカイ一撃が来る。そう感じた俺と岳陽は互いに何を言うことも無くすぐに階段の隅っこまで引き下がり、頭だけ出して闘いが見えるよう避難した。
「行くぜ」
ゾウさんはサトリの声に反応し拳で応戦しようとしたが、その直後、瞬間移動と見紛うほどの異次元なサトリの距離の詰め方に対し、構えた拳は本能的に両腕で防御の姿勢を取っていた。
「『業・浄土』!」
サトリがゾウさんに拳を打ち込む瞬間、形容しがたい破裂音と凄まじい衝撃波が俺達を襲った。階段からひっくり返り、俺と岳陽は2人して決闘なんて見れるような状態では無かった。しかし確実にわかったのは、何かの破裂音に混じって微かに機械が壊れるような音が聞こえたという事だけだった。
俺達は急いで階段を駆け上り彼らの決闘の様子を見る。
「…………マジか」
歪なガントレットを装備していたゾウさんの右腕は、義手とガントレット共に粉々に弾け飛んでおり、更には生身の左腕まで骨が突き出てぐしゃぐしゃになっている。
一方のサトリは、拳を放った方の腕だけ鎧殻が弾け飛んでおり素肌が露出している。その素肌からは僅かに湯気が立ち込めており、どんな力を加えればそうなるんだよとツッコミたくなってしまう。
「あ、腕も武器もぶっ壊しちゃった……」
サトリはペ〇ちゃんのように下をぺろっと出して可愛子ぶってやがる。
「やっぱ勝てないか……ははは」
ゾウさんは床に腰を下ろしてサトリに負けた事を笑っている。いや、笑ってる状況じゃないだろうその腕。
「おいお前ら」
サトリさんがこちらを向いてきた。
「「な、なんでしょう」」
「アタシ、やっぱ『JACK』に入ってやるよ」
え?




