第十話 道のり
「神奈川県受験生のレベルははっきり言って中の下と言ったところです。しかし喰らいつく根性はあるようで、未だ何十名かには苦戦を強いられているのが現状であります」
エロビキニに虚偽報告をする。マヌケなことに、エロビキニは俺のパチをこくこくと頷きながら聞いている。可愛いなおい。
この話は当然全て嘘であり、現状なんて把握していない。俺は3人で無事脱出出来ればそれで良い。
「報告感謝する。君達は再び前線に戻り、我々の突入まで持ち堪えてくれ」
おいおいマジかよ。あんな場所から逃げるために徳川軍のフリしてまでここに来たのに。
これには思わず、岳陽とゾウさんも顔が引きつっている。そりゃそうだ。
「は、はい……」
渋々俺は彼女から背を向けようとしたその時。
ドガアァン!!――
本日2度目の轟音が響き渡った。
肌が痺れるような空気の揺れを感じ、轟音のした方へ体を向けた。
そこには5メートルほどの白い袈裟を着た大男が大量の武器を持って暴れていた。薙刀に斧、ミサイル、槍、刀、ショットガン。ありとあらゆる武器を背中に背負い込み、たった1人で徳川軍を蹴散らしている。
「あ、ありゃ『弁慶』か……!?」
エロビキニがとても驚いた様子で味方が蹴散らされる様を見ている。
無理もない。
現神奈川県将軍の源義経が従える最強の相棒が弁慶。大量の武器と自慢の巨躯を駆使して戦場を征する、まさに一騎当千の武将。義経に心酔や信仰とまで言っても良いほどの忠誠心を持つ。
義経は一般人の時、あまりにも高い能力を持っていたため、元神奈川県将軍からマークされていた事がある。ある日、県の検閲を通らなければならない日に、彼は弁慶と共にその検閲に向かった際、弁慶はあえて彼をボコボコにすることによって検閲を逃れた事がある。
非常に高い能力を持つ互いが信頼し合い、主従関係の中に芽生えた友情や愛情こそが、彼らを神奈川県最強たらしめている秘訣なのだろう。
「べ、弁慶を止めろぉ!!」
待機していた敵がエロビキニの号令によって一斉に動き出す。狙いはもちろん弁慶。
「(おい、行くぞお前ら)」
俺はこの混乱に乗じ岳陽とゾウさんを手招きしてその場から撤退する。弁慶の鬼神の如き戦いを背にして。
「おい、貴様らも……って、どこへ消えたんだッ!」
――自宅の最寄り駅付近――
体力試験に続いて自宅の最寄り駅まで猛ダッシュで逃げてきた。もちろん途中で徳川の家紋は外した。鎧殻をフル稼働させ、止まることなく30分ほど走った。
「ヒュー――。ヒュー――。さ、さすがにキチィな」
「でも、なんとか、逃げきれたな……」
「はぁ――。はぁ。ここどこだ?」
さすがにこの辺りには徳川軍の手は伸びていないようだ。彼らの目的はあくまでも若い芽を摘むことであり、今すぐに神奈川県をどうこうする気は無いらしい。
俺の地元は良くも悪くも普通の街だ。特徴があるとすれば老人が多いという点だろう。今日も今日とてほのぼのとしている。
……だと良かった。
緊急速報――
緊急速報――
横浜スタジアムにて敵軍襲来――
爆音で街中にアナウンスが入る。さすがに情報伝達は早かったようだ。
アナウンスが入ると周りの人達が一変した。武器を携帯していた人は鎧殻を起動させ臨戦態勢になり、開いていたお店は秒で閉じた。
横浜スタジアムという限定された場所とは言え、徳川軍の侵入を許してしまった神奈川県武家には疑問が湧く。
県毎の武将が政治を行い始めて以来、県境は特に厳重な見張りが多くなったニッポンで、こんな不思議な事態があるのは正直おかしい。
「ワンチャン神奈川県武家にスパイがいるのかもな」
俺は頭で考えていたことをポロッとこぼす。
「俺もその可能性はあると思ってた」
岳陽は続ける。
「このまま、徳川軍から生きのびた受験生として御家人になるのも悪くない。けど、俺はスタジアムでの戦闘を経て思った事がある」
「あぁ、多分オレも同じこと思ってた」
2人は俺の顔を見るなり指をさしてきてこう言った。
「「お前が戦国大名になれよ」」




