第一話 第二次戦国時代
2025年5月29日。その日は、第三次世界大戦が始まった日。日本に近い某国から始まった戦争が戦火を広げ、この日本にも大きな打撃を与えた。高齢化社会の日本は老人と男を中心に戦地へ赴き、多くの命が落とされた。
2030年10月3日。からくも同盟国の勝利に乗っかった日本は敗戦国の賠償金を元手に復興を始めた。しかしこの大戦をきっかけに日本では自衛隊と内閣が解体され、2052年6月14日に『各県将軍制度』を始めた。
日本という枠組みの47都道府県が個別に政治をし、武力の1番高い者がその都道府県を治める。まさに 戦国時代の将軍のような制度をとった。
旧政府の策略としては、各都道府県が個々の強みを持つことで、日本という国が無くなっても他国で生き延びるための長期的安全策を考慮したとのこと。
北は北海道、南は沖縄まで、突然始まった各県将軍制度に民衆は大反対。男は少なく女も足りていない。老人の母数も減り、日本の人口は大戦前の70%にまで減ってしまった現状を鑑みると、民衆の反対理由もうなずける。
しかし東京都は早かった。2069年には武器製作工場や科学研究所を増やし、都民のレベルを上げるため実力主義都市へと変貌した。有無を言わさない武力が東京に集まり始め、他県も武力拡大を目指した。
何度も頭がすげ変わり、何度も技術改革が起こる。そうして異質な国となったニッポンは、世界よりも自国へと意識の目が向いていった。食べ物も資材も大きな発展を遂げ、輸入に頼らなくても自給自足が出来てしまうほどに。
いつしかニッポンは第二次戦国時代へと突入していき、独自の文化をより強めていった。
――西暦2121年2月5日――
俺には夢がある。全国で強いと言われる将軍の首を俺にすげ替え、ニッポンの全国統一を果たし、天皇から征夷大将軍に任命されたい。
この国で一番偉くなり、死ぬまで贅沢したい。
戦うことは好きだし、好きな事で生きていけるのならそれに越したことはない。だから俺は征夷大将軍になる。
「ほら、『颯太』また上着忘れてる!」
「忘れてた、ありがと」
俺が住んでいる神奈川県では若年層の武器携帯が義務化されている。19歳になる年の人の大部分は『御家人試験』を受け、武家からスカウトを受けて御家人になる。
俺の夢の一歩は、ある程度名のある武家の御家人になる事。戦いに自信はあるが、いきなり将軍にカチ込んでも負けるに決まっている。面倒でも、まずは御家人として心技体を向上させる。
しかし神奈川県の武家の多くは『サイボーグ』や『半サイボーグ』などを好んでスカウトをする傾向があり、俺は完全生身。身体能力は彼らに劣る。
今日、俺が受ける試験はゴリゴリの戦闘試験。会場は横浜スタジアム。生身の俺やサイボーグなど様々な18歳の人間が集う。
「んじゃ行ってくる」
俺は鎧と外骨格の機能を併せ持つ『鎧殻』を起動させる。
鎧殻は生体電気を用いて起動する事ができ、身体機能を増幅させて戦闘をサポートする。さらに自身の武器と接続することで、磁力で武器を浮かし、戦闘時の動きを邪魔すること無く武器を携帯させることが出来る。
長く使ってきた白柄黒鞘のからくり刀を携帯し、鎧殻の上に紺のパーカーを羽織って玄関のドアを開けた。
「行ってらっしゃい」
母は俺のケツを叩いて俺を見送る。
母の期待に答えられるよう、夢の一歩を踏めるよう、俺は気張って玄関から出た。
俺の家から横浜スタジアムまでは電車で1本で行ける。時間も30分程度で着いてしまうため、開会式のギリギリの時間に着くよう家を出た。
軽く小走りをして体を温めながら駅へ向かっていると、小、中学校と同じだった『池田 岳陽』が前で歩いているのが見えた。
「よっ」
「おう」
岳陽はスーツを着て、短髪の髪もしっかり整えている。彼の腰には木製の鞘と柄の刀が下がっていて、俺のからくり刀とは違い、昔ながらのシンプルな刀だ。
「お前これから御家人試験なのになんでそんなラフな格好なんだよ」
俺はジーパンにパーカーを着ている。髪型も特に整えず自然なまま。いかにも私服と言った感じの格好。
「俺は実力で戦う。しかもどうせ脱ぐんだし、あんま服装なんて関係ないだろうよ」
俺は彼と仲がいい。神奈川県は、小、中学校の義務教育を終えたあと、進学か就職か修行が選べる。進学は言わずもがな高校に進む。就職は様々な企業へ就職。修行は武士になるための戦闘訓練などを積む。
俺と岳陽は修行を選んだが、お互い違う道場へ行った。それでも毎日のようにゲームやバカ話をしていて、今では親友と呼べる仲になっている。
駅まで歩いている道中、それぞれの道場での話や御家人試験について話した。
そうしているうちに駅に着き、同じ電車に乗り周りの人間を見た。岳陽と同じくスーツの人が多く、それぞれ多種多様な武器を携帯している。
「周りもみんな御家人試験に行くんかな」
俺のような生身がいるのはもちろん、サイボーグ、半サイボーグ、男、女、様々いる。
「さすがにこの時間で知り合いはいねぇな」
電車の中では知り合いに会わず、俺と岳陽は横浜スタジアムの最寄り駅に着いた。駅のホームから人でごった返していて、試験会場にたどり着くのも一苦労なほどだった。
色んな人にぶつかりながら横浜スタジアムまでたどり着くと、スタッフに案内され客席に着いた。
――横浜スタジアム――
戦前の横浜スタジアムとは違い、屋根のあるバカでかい空間をぐるっと客席が囲んでいる。そしてかつて野球場があったその場所は今、大きな円で仕切られた4つの試合場がある。
開会式直前で入ったため、開会式のアナウンスが直ぐに行われた。
ザワついていた周囲が静まり、スタジアム中央からクソデカホログラムが現れた。
「ただ今より御家人試験を始める。司会進行はこの私、『源 義経』が執り行う」
現神奈川県将軍の源 義経。生身で垂直に5メートル飛んだ、とんでもない美少年、など様々な逸話がある彼がスタジアムのど真ん中に映っている。たしかに美しい顔立ちをしていて、女性人気が高そうだ。
「ここに揃った総勢2024名にはこれから第一試験を行ってもらう。一区画に506名入り、そこで改めて試験内容を発表する」
スタジアムを4分割するようホログラムが現れ、それぞれ番号が振られる。振られた番号に対応した試合場へ向かうよう指示された。
俺と岳陽は案内された道に従い共に試合場へ向かった。