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エースの証

作者: 鏑木 誠

 「今日は負けたけど、この負けはどこかで必ず糧になるから!!

絶対に人生で役に立つ時が来るから!みんなこの悔しさを噛みしめて前に進もう」

汗で冷えた体に伝わって来くる顔を流れる水滴の感覚。

中学ハンドボールの県大会が終わり、泣きながら先生が放った言葉だった。

俺たちが積み重ねた三年間は終わり、もう二度とこのチームで戦うことはない。

辛くて悔しくて悲しくて、みんなで一緒に泣いていた。

「なあ、直樹。俺、ハンドボール続けるよ」

「いいね」

「負けてわかった。俺、ハンドボールのこと好きだ。

今更って思っただろ?俺もそう思う。

前までは、今のチームじゃないならやらないでいいなと思ってた。だけどいざ引退となると、ハンドボールができなくてなるのが嫌なんだ。もっとボールに触れてたい」

「そっか。俺は今更なんて思わないよ。

隼人が前にさ、俺が部活やめそうだった時止めにきたことあったでしょ?

あの時隼人は、今のチームが好きだから変わってほしくなって言いにきたけど、俺はあの言葉、チーム自体が好きというだけじゃなくてチームで一緒にするハンドボールが好きだから出てきた言葉なんだと思ってたんだ。

隼人は気づいてなかったみたいだけど、だいぶ前から好きだったんだと思う」

「俺のことそんな風に思ってたのか」

「そりゃあそうだよ。

じゃなきゃ、あの時俺はやめていたからね」

涙を拭って顔を見た。さっきの悔し涙じゃなくて、熱い感動の涙。

「頑張れよ!エース」

拭いてもまたあふれてくる涙が、瞳を光らせている。

最後に親友がくれたのは、雑だった俺への激励。

今まで過ごしてきた部活の日々が走馬灯のように頭に流れてくる。

尊敬、喜び、後悔、感動、色んな感情が出てくる中、俺から溢れだしたのは感謝だった。

これが今一番直樹に伝えたい。

「…………ありがとう」

装飾なんていらない。ただありのままの気持ちを伝えたかった。

またどこかで、道が交わりますように。


そうして時が経ち、俺は高校生になった。

進学した高校は神戸明海大学付属高校。毎年全国大会に出ていて、去年は全国3位に輝いた強豪校だ。

そんな地元の関東を離れ、強豪地域の関西に来た。

理由は簡単で、この学校が毎年全国大会に出ている強豪校だったからだ。なんなら去年は全国3位で、今波に乗っている高校でもある。

「これで俺も晴れて神明大の生徒か」

気持ちを高ぶらせながら、俺は体育館へと向かった。

扉の前に立つと、緊張とワクワクが混ざったようなグラグラした気持ちになってきた。

去年のスタメンの中には2年生も多く入っていた。全国3位の高校生が今この中にいる。

固唾をのむと、手にはうっすらと汗が流れた。

よし…気持ちを固め、勢い良く扉を開けた。

「よろしくお願いします!!」

先輩方に印象付けられる一発目の挨拶。気合いを入れ、大声でやってみた。

だが俺の期待も虚しく、先輩方は返事をしてくれることはなく、なんなら俺のことを見もしなかった。

無視をしているというより、聞こえてないという様子。多分単純に俺の存在に気づいていないのだ。

まだ練習開始時間前、だからこれは練習前の自主練習。自主練なのに、凄まじい集中力だ。

「新入生の子やんな?もう届け出は出してきた?」

そんな状況のせいで困っていると、女子マネージャーの先輩が俺のところにやってきてくれた。

「入部届けのことですよね?出してきました」

「おっけー。じゃあこれに記入よろしく」

そう言って渡してきたのは各ポジション名がマステで貼られているクリップボードとペン。

そこには名前と身長体重だけが書かれたリストが挟まれている。

ポジションごとの名簿みたいなものなんだろうか。すでにこの紙には名前が書かれている。

「書けました」

「ふんふん。左45度の石井隼人くんね。

今週は一年だけ外練になる予定だから、着替えたらグラウンドに集合してね」

「わかりました」

一年だけ外練ってことは先輩たちとは一緒に練習できないのか。残念だな。

 「よし、それでは一年の練習を始める。一週間お前たちを担当するキャプテンの西だ。よろしく頼む」

「「よろしくお願いします!!」」

流石強豪校の一年生だな。人数が多いのにも加えて、一人一人の持つ声量のせいで音圧が凄まじい。

「まずは入部を希望してくれてありがとう。だがお前たちはまだ完全に入部をしたわけじゃない。

正確にいえば、入部をまだ認めていない状態だ」

「すんません。なんで入部できてないんですか?」

後ろの方に立つ身長が高い生徒が質問した。

「全部説明するから最後まで聞け」

「すんません。焦ってもうて」

「では気を取り直して、説明を再開する。

俺たち明海大付属はみんな知っての通り、創部以来、毎年全国大会に出場している由緒正しい名門校だ。この伝統だけは何があっても途切れさせるわけにはいけない」

「さっきのお前。どうやって俺たちが伝統を守っているんだと思う?」

「田近です。

うーん、そうですね。一番ありえそうなんは、『人を選んでる』とかですかね」

田近の考えを聞き、キャプテンはニヤッと笑った。

「ほう。なぜそう思ったんだ?」

「あれ、もしかして合ってる感じですか?

体育館行ったときに気づいたって感じなんですけど、明らかに先輩方の人数が少ないんですよね。

俺らは50人ちょっといるのに対して、先輩らは全員合わせて四十人くらい。

最初はそんぐらいキツイ部活なんかなって思ってましたけど、違うっぽかったんでそう思いました」

確かにポジションのリストを書いたときに、人が多いなとは思ったけど、そこまで気づけてなかったな。

当たっていたことが嬉しかったのか流暢に話す田近。田近は結構感情を表に出すタイプらしい。

「今田近が言ったように、うちの部では選民をしている。

理由は簡単で、入部希望者が多すぎるからだ。

しかも最近、信念もなければ、努力もたいしてしてなくて環境に甘えて結果を得ようとするやつが多い。

そんな奴に入部されると、時間も志気も奪われて伝統が傷つきかねないからな。当然の措置だ」

まあ確かにハンドボールは、一対一やシュート練だったりで一人一人にかかる時間と場所が大きい。

部員数に上限はないが、練習場所と大会までの時間は限られてる。

こうやって初めから望み薄の生徒は見切って、残った生徒に託すというのは強ち間違いじゃないのかもしれないな。

「それでは肝心の選民方法を説明する。

お前たちには後で発表するチームに分かれて25分の試合をしてもらう。

試合日は今週の金曜日に体育館で行う。自主練は自由だが、グラウンド以外でボールを使うのは禁止だ。

ルール説明は以上だが他に聞いておきたいことはあるか?」

他に何かあるかと言われても……色々衝撃すぎて何からいえばいいのかわからない。

周りを見てもみんな困った表情を浮かべてる。余裕な顔をしてるのはさっきの田近くらいだ。

「質問はないみたいだな。ではチームを発表する」

 チームが発表され、各チームに半面のコートが練習用として渡された。

「よっしゃー!俺らは運命共同体や。頑張るでー!」

俺は田近と同じチームになった。

「なんや、みんな緊張してるんか?同じ学年なんやし気つかわんでええんやで?」

田近はこの雰囲気は緊張のせいだと思っているみたいだが、実際は違う。

実際は恐怖だ。自分が入学前に思い描いていた明るい未来のイメージが、入学早々その危機にあると今さっき知ったばかりの状況。気持の整理がつく生徒の方が少ない。

「あんなあ。将来の不安とかで色々気持ちの整理がついてないんやろうけど、気にせん方がええぞ。

気にしてもどうせ勝つしかないんやし、整理つけようとしても、どうせ一週間やったら足らん。

それに、負けることを考える奴が勝てるほど、今回の試合は甘くない。ここは日本中からえりすぐりのエリートみたいな奴が入ってくる場所なんやから、即席チームでも勝ってくるぞ」

俺は田近に対して、元気でお調子者というイメージを持っていたが、本当は賢くて、結構リーダーシップがある男だったみたいだ。

「とりあえず、自己紹介しようか。ポジション知らんと話にならへんし」

この提案からみんなが自己紹介を始めた。学校名を話すと知ってる知ってないの話で盛り上がったりして、さっきまでより空気が明る。

「にしても何となく思ってたが、全員ポジションバラバラなんだな」

ハンドボールというスポーツのポジションは大きく分けて、『真ん中』『右』『左』に分けられる。

それぞれ真ん中が、『センター』と『ポスト』。

右が、『右45度』と『右サイド』、左が『左45度』と『左サイド』と、キーパーを除くと6つのポジションに分けられる。

それぞれに役割が違うのは言うまでもないが、完全に違う点をいうなら、近距離でシュートを打つのか、遠距離でシュートを打つのかの違いだろう。

だからポジションが違えばかなり動きが変わってくる。

誰もポジションがかぶってなくて本当に良かった。

「せやな。もしキーパーおらんかったりしたら、キーパーの押し付け合いになってたやろし、全員バラバラでよかったわ。

ほな練習始めよか。時間はあんまないで」

まだ決めてないが、自然と田近がリーダーになっていた。これが陽キャか…

田近は元々近畿で上位の中学に所属していたらしく、田近が主導となって練習を行った。

 「石井おつかれー」

練習が終わり、着替えていると田近が声をかけてきた。

「ああ、おつかれ」

「今日の練習どうやった?うちの中学でやってた練習そのまま取り込んでみたんやけど」

「結構良かったぞ。特に目の前にディフェンスがいる前提でボール回しをする練習は良かった。最初はお互いパスがぎこちなくてボール回し遅かったのに、終わるころにはだいぶ早くなってきてた」

「そっかそっか。不満ないんやったらよかったわ」

なぜか安堵した表情を浮かべる田近。

「俺そんなに不満ありそうに見えてたのか?」

「そりゃそうやで。あんなにしかめっ面しよって。めっちゃダルそうにしてんな思ってたわ」

そんなつもりなかったんだけどな。別に練習自体は楽しかったし、不満なんてない。

まあ別にテンションが高くはないが、これは元々のせいでもあるし、まだチームのみんなと今日初めて会ったばかりでまだ距離感が掴めてないせいでもある。

時間が解決しそうな問題でもあるが、周りに申し訳ないし雰囲気には気を付けないとな。

「ごめんな。緊張してただけなんだ。気を付けるよ」

「そうか」

こんな真面目に返されると思ってなかったのか、キョトンとしてる。

「じゃあまた明日」

「えっ」

えっ?

明日会うだろ?

田近は驚いた表情を浮かべていた。

「そっか。じゃあまた明日な!」

田近はすぐにグラウンドへと返っていった。

 練習日三日目。俺たちは他グループたちに練習試合を申し込んだ。

「両チーム、礼」

「「よろしくお願いします」」

ホイッスルが鳴り、俺たちボールで試合が始まった。

。ミスなく冷静にいこう。

俺たちの基本の攻め方は、個人個人で攻めて、適切な人にセンターの田近がパスを出すというもの。

だったら、右45ろに回る。岸本にカバーを行っていた俺のディフェンスは岸本を二人で抑えてるせいでおれのところに来れない。理想的な1対2状況。

今の俺にディフェンスはいない。

サイドからのノーマークシュートを放った。

「ナイキーー!!」

自信満々の一撃。普通止まれることのない完璧な状況。

その大チャンスを俺は棒に振ってしまった。

なんで…?コースも高さも悪くなかったはずなのに…

このままずっと俺のシュートは入らず、前半を5対9で終えた。

「何やってんねん石井」

前半終わりのハーフタイム。俺に待っていたのは温かい慰めなんかじゃなく、怒号と冷ややかな視線だった。

「ごめん……」の濱田と連携するというより、左サイドの岸本と、ポストの大西を使って攻めていこう。

センターによりながら移動して俺のディフェンスを引き付けた。

それに合わせて岸本は左サイドから駆け上がり左45で勝負を仕掛ける。

左側にスペースの空いた1対1。一番左サイドに近い俺のディフェンスがカバーに戻らないと完全には守れない。

だったら……

「へい!!」

抜きに行った岸本の後

「お前なぁ。

お前のせいで俺らの人生がめちゃくちゃになるのがわからんのか!!!」

本当に申し訳ない。謝っても謝り切れない。

これで負ければ俺たちの人生が終わる試合でのミス。人のせいで人生が狂いかけているなんて悔やんでも悔み切れない。

ここでのミスをは人の人生を奪う人殺しと同じだ。

謝るなんかで済まされるものじゃないのはわかってる。

「ごめん。後半はちゃんと決める」

「いや、いい。お前にはパス出さん」

「なんで!?」

俺にパスを出さないって左半分を捨てるってことだぞ!?どうして!?

「お前から愛が感じられへんからや」

「愛……?」

「せや。プレーにはな、愛が出んねん。

点数をもっと稼ぎたいから、フェイントのバリエーションを増やそうとして、自作のフェイントを作っとったり、好きなプレーのためにサイドから真ん中まで飛べるようになった奴やっておる。

なにもこれは一例にすぎひん。独自じゃなくても、上手くなくても、その努力の過程でなにかしら力つけとんねん。

結果に繋がってないけど形にはなってるやつとかまさにそうや。そいつは力が足りてないけど、何回も繰り返してるからフォームだけは体に染みついとんねん。

そんな愛がお前からは感じられへん」

愛がない……?そんなことない!!

じゃああの時感じた感情はなんなんだよ。

確かに俺はこれといった特技もないし、強みもない。ただ偶然みんなより少しのみ込みが早かったからエースになっただけ。

だけどそれだけじゃない!!

俺はずっと、エースであり続けられるように!!

ワンマンチームだって馬鹿にされないように努力してきたんだよ!!

「俺はちゃんとハンドのことが好きだ!!!」

「なら証明してみい。生きるか死ぬかのこのコートでな」

やってやろうじゃねえか……!

俺がエースってことを見せつけてやる。

 ホイッスルが鳴り響き、証明の後半が始まった。

後半は相手の攻撃から始まった。

相手はずっと俺たちと方針は同じで、連携を使ってディフェンスを抜きに来るタイプ。

ずっと近距離で撃たれてるせいで、キーパーを活躍させれない。

集中しよう。内側の守りを固めにいこう。

ボールが回り、俺の前からオフェンスが始まった。

内側にステップで入り込んで、ロールを使って俺と田近の間を抜きに来た。

この攻撃一回見たことがある。前半で一点取られた攻め方だ。

確かロールで俺が抜かれたせいで、ポストの大西がカバーに来て敵ポストにパスが通ってしまったやつ。

なら俺と田近で挟み込めば問題ない。田近もわかってるのか俺のところに寄ってきてる。

でもなんだか……この敵、変だ。

なぜか俺の方しか見てないし、体勢が低い。まだドリブルが残ってるのに……。ハッ。

「下だ!!!!」

俺は全力で知らせた。

敵は力を抜いてボールを離し低空バウンド。するとすぐに体を傾けながらボールを取り、そのままシュートを打ってきた。

俺と田近の足の間を通す足抜きシュート。だけどそれは読めている!!

体が傾くのと同時に、俺は手を下に下げた。シュートは俺の手にあたり、後ろに弾き飛ばされた。

くっ……さすがの威力だ。完全には止められなかった。でも減速してる。

「キーパー!」

振り返るとキーパーは不意打ちのシュートに合わせ、下に飛んでいた。

不幸にも下に飛んでしまったせいで、弾かれた上空のボールに伸ばした手は空を切った。

「くそっっ……」

止めれそうだったのに、不運がかみ合ってしまった。

本来のシュートコースの通りに飛んでいたキーパーには非がない。

俺が変に触らなければ……

シュートに触れた左手が憎たらしい。

「ないディ。エース」

田近?止めれてないのにどうして?

「なんや。そんな面食らった顔して」

「……なんで褒められるんだ?

……俺は止められなかったのに」

「そんなん褒められるべきやからに決まってるやろ。

お前は怖がらず、体を使って止めに行った。ガッツを出したら称賛や。当たり前やぞ」

そうか…戦略とか展開とか色んな事を考えて簡単なことを忘れてた。

その場で全力を尽くす。

やるべきことはこれだけだ。もう、なにも考えなくていい。

「理解できたみたいやな。

そうやって堂々としとけばいいねん。

ここにいる全員が格下。自分を止めれる人なんておらんってな。

それでこそエースや」

田近からの激励。叩く強さで押してくれた背中に俺はこの言葉しか出てこなかった。

「パスをくれ。決めてやる」

「任せとけ。エースをたてるんが俺の仕事やからな」

センターラインをふみ、ホイッスルがなった。

自信と期待が混ざった始めの一歩はあまりにも軽かった。

思考も判断もそぎ落として、音も鳴らない。いや、おそらく俺が聞こえていない。

思考を無に、ただ前に進むだけ。

ディフェンスを抜いてライン内に飛び込んだ。

そしたら…

「かんっっっペき!!」

直線の早いライナーパスが俺の手にめがけて飛んできた。

パスは手のひらドンピシャ。

後は力一杯腕を振り下ろすだけ。

力いっぱい…このシュートで自分の腕を壊すつもりで振り下ろす。

「ナイッッッッシューーーー!!」

人生の彩りを決定する一手がゴールに叩きつけられた。

そして審判は終了のホイッスルを鳴らす。

10対9の大接戦。

制したのは俺率いるDチーム。

負けたCチームは挨拶もままならないほど泣き崩れている。

「ナイスやでーー」

田近は俺をたたえるかのように首に腕を回した。

「この光景をちゃんと覚えときやいい子ちゃん。

気持ちいいやろぉ?

人生が狂った人たちが前にいるのに、罪悪館なんて湧いてこうへん。

湧いてくるのは薬物なんかじゃ比じゃない気持ちい成分だけ。

やばいやろ?病みつきになるやろ?

これが勝利や」

田近は俺の肩を強くたたき熱く語った。

………これが勝利…!!

顔を地面の敵選手は外し、正面へとまっすぐ視線を上げた。

「……眩しい」

周りをぐるりと見渡してみる。

正面を見渡すとそこにはカンカンの日光に照らされた光の光景が広がっていた。

負の感情が見えるのは負けて膝を折った敵だけで、ちゃんと前を見ればうれしい以外の感情は出ない。

そう、このチームが勝利したのだ。

それを喜ばずして、何がエースというのだろうか。犠牲とか、ーーとかそんな雑念は無視して、ただ勝利を嚙み締めるべきである。

「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

俺は爪が食い込む程にこぶしを握り、空に向かって咆哮を放った。

なのに今までの中で一番勝ちを味わっている。

頭がすっきりしてるんだ。

相手とか今後とかなんのしがらみも頭の中にない。ただ勝利の喜びだけが頭の中を埋め尽くしている。

気持ちいい。

やはりこの戦い方が間違っていなかった。

チームを踏み台に使って、俺が点数をもぎ取る。

チーム全体で戦うんじゃなくて、使える

皆が求めているのは心優しいリーダーじゃない。一心不乱に突き進むエースなのだ。

自分の指針が固まったのがわかる。

これから歩む犠牲の伴った三年間、何を得て、何を学ぶのか、鮮明に道筋が見えた。

この部活が、こんな試練を用意したのも、新入生に三年間がもたらしてくれる意味を理解させる目的もあったのかもしれない。

「石井!!これからよろしくな」

「ああ」

交わした手に付いた松やには、俺たちを固く結びつけた。

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