表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

リンドヴルムは少女の追い風となって

その魔神はあまりにも大きい。

体はニドはおろか、ラフの体躯でさえもゆうに超えている。



全てを受け入れるように、大きな手を広げて魔神はもう一度言う。



「アガメヨ、スクワレヨ、ミスエヨ、カミヲ」



「っ!!」



途端に大きく開いた魔神とニドとの距離は一瞬にして縮まる。



大きなものが素早く動くという事象が、反射と思考を鈍らせる。

風圧が顔を叩きながら、悍ましい程の瘴気が迫り来る感覚。

魔神は願う、痛みすらも追いつかない、甘き死をこの少女へと



「ソシテ、シヲ、ウケイレロ」





瞳を、瞬く事は、許 さ れ な い。







拳が、ニドの頭上に降り注ぐ。







『“ルオ”、“ミグニト”、“ディノア”、“リリガロ”、来い!!精霊シルフィード!!!』



魔剣の詠唱と共に、一陣の風がニドを纏う。

そして、風に攫われるようにニドは紙一重でその位置がずらされ



すぐ側、横切る拳を横目に彼女は大きく目を見開く。全身で一刻一刻を感じ取り、

全てがスローモーションになるような感覚


…拳圧が頬を掠め小さな傷をつくり、躱した魔神の拳は地を穿つ。



『牢獄の果てに100年前夜の鉛筆削り、イリオルグの鷲、空腹の桜写し』



魔剣が叛逆詩を唱える最中

ニドは間髪入れずに、そのまま踵を返しながら魔剣を大きく回転させて振り切る。

その振り下ろされた腕を斬る、断つ、斬る、断つ、斬る、斬る!斬る!!心にそう強く念じながら



「オソイッ!!!」



しかし、刀身が相手の腕に届く直前、魔神のけだぐりがニドを襲う。



『ニド!!“空”を蹴るんだ!!』



「っ」



ニドは唐突な魔剣のその意味を理解出来ていない、しかしその耳で小さく囁く声が聞こえる。



―大丈夫、そのまま脚を出して何も無い“そこ”を蹴るんだ



その声の主が誰か等とは考える暇が無い。ニドは言われるがまま脚を出し、空を蹴った。



―今回は特別初回特典だ。“ディノア”“リリガロ”…



『え?』



―“ウィガロ”“ゲレルグァロ”“ヴェンペスティア”



『いや、待て!ちょっと待て!!待てってえええええ!!』



―シンの息吹



ニドと魔神の繰り出し合う脚の間で緑色の光が煌き、耳を劈く高音を響かせて大きな突風が爆ぜる。



「ナッ!?」



「ぶっふぉ―!?」



魔神はその大きな風魔法の爆発によってその巨躯をグルグルと回転させて瓦礫の山と化した教会まで吹き飛ばされる。

その反動はもの凄く、その魔術を放ったニドでさえも大きく後ろに吹き飛ばされる。それを再び風が受け止めてニドの体勢を元に戻す。



『ばっか!?シルフィ!!ニドまで怪我したらどうするんだ!!』



―…クック…小娘が「ぶっふぉ」って…クソワロ




『あ!てめぇ!やっぱ気まぐれに悪戯こいたな!!』



―面白いものを見せてもらった。これは返礼としよう。クック…



ゴウッ、と少女に纏う風が先ほどよりもより鮮明な碧色を彩らせる。



『なっ、お前、契約を…ニドに精霊を分け与えるのか!?』



―左様。小娘。それはお前の風だ。イメージしろ、



―振り払う者も、歌う者も、攫う者も、皆が心躍らせる疾風の踊り子。



―空に戦ぐは遠きに羽ばたく蝶の戯れ。さぁ、もう十分だ、それに名を齎せ、それはお前の心のモノだ。




ニドは風の声を瞑目し聞き、その意思を受け取る。


少女と共に在りし風は、雛を遠き願いの彼方に運ぶ追い風、その名は―



「リンドヴルム!!!」



その風は、名を与えられたその瞬間に刹那にだけ竜の姿を模した。



『っ!?』


(どうして…お前がその竜の名をっ)



―ほう、面白い。本当に面白い子を見つけたな、まけ…




『ぐるぁっ!?』



シルフィードの声がそこで途絶え、視界が大きくブレる。

どうしてかは直ぐにわかった、ニドと契約した風の精霊リンドヴルムが、走り出した彼女の動きに合わせて風を乗せているのだ。


その駆け抜ける疾風は、容易く目で追う事はかなわない。

風の如く走り抜ける彼女が向かう先は、精霊が吹き飛ばした魔神。



一方、魔神はグルグルと身を回転させながらも、器用な事に教会の女神像へと手を伸ばし、

獣のような爪を女神像の顔に喰い込ませてしがみつくと体勢を立て直して身構える。



「コムスメッ!!!」



魔神は掴んだ女神像の首をもぎ取り、神速でこちらに近づくニドへ目掛けて投げつける。

それだけでは飽き足らず、どんどんと女神像を更に砕き、砕き、砕くと

その瓦礫と果てたそれを何度もなんども投げつけた。


その凶弾の如く飛んでくる瓦礫をニドは一度は横に躱し

二度目は魔剣を振って打ち砕く。


そして三度目にそれを踏み台にして飛ぶと


次々と迫りくる瓦礫を魔剣で斬り払いながら魔神の方へと勢いに任せて近づいた。



「コシャク、ナ!!」



魔神はこちらに近づくタイミングを見計らい、

女神像の持っていた槍を思い切り投げた。



『機関車の俯き、琥珀令嬢は地で血を洗い、王の口づけに荊棘を飲ませる』



ニドは吶喊する凶槍に対して真っ直ぐと見据え、そのまま魔剣を正面に出し、祈るような構えをした。

そして、寸で目前へと迫ってきた槍を刀身と交えさせ


火花を散らしながらその軌道を反らさせる。

…常人には不可能に近い芸当である。



「ナッ グガガ!?」



そのままニドは落下の勢いに乗せながら、魔剣の柄で魔神の顔面を殴り打った。


(名無しの呪いの反応は無しか、やはりこんなんじゃあ厄災は殺せねえようだな)




「グッ、キサマァッ!!」



魔神はその一撃に堪えながらも頭を上げて

その獣のような爪であわよくば貫かんとしてニドを振り払おうとする。



「させない」



ニドの手には再び、魔剣の呪いによる殺意の銃が顕現し握られている。

銃口は魔神へと向けられ、彼女は呟くように「リンドヴルム、力を貸して」と引き金を引く。



しかし撃鉄が火花を散らしながら、銃口より解き放たれたのは鉛玉ではなく、

その粛々とした経口を持て余す程に大きな突風を兼ね備えた碧色の閃光。



それを今度は胸元に打ち抜かれ、魔神はその風圧に瓦礫の山の奥へ奥へと押し込まれる。

「コムスメフゼイガッ」と憤りを言葉にしながら、押し込まれた先


教会のステンドグラスをその身で打ち破りながら 礼拝堂のある方へと落ちてゆく。





―ズン、という音を響かせてその巨躯は舞い上がる煙の中へと消えていく。




ニドは後を追うように魔神の落ちた礼拝堂の方へと降り、周囲を見渡す。



『天蓋の矛、修復を望まぬ菓子の刃、鋭利な鶫の翼』


(どこだ…、何処にいやがる)





刹那、ボッ―という粉塵が大きく払われる音と共にニドの背後から禍々しい両の腕が突き出される。



『零時の空蝉、架空の評論家、仮称の牛頭、呪いを舐める薊』



その急襲に反応するように、リンドヴルムの風がニドを押し上げ紙一重で躱す。

空中でニドは翻りながら、魔剣を両手で握り締めて回転斬りを放つ


このまま魔神の両腕の肘から上を目掛けて刀身が差し込まれる…と思われた瞬間



『しまったっ…ニド!!!』



ニドの顔面をその両腕ではない“別の腕”が掴みとり

大きく振り回した後に、地面へと叩きつける。



「か、はっ…」



ニドはその瞬間耐え難い痛みを全身に受けて、大きく嗚咽を吐き出す彼女が仰向けになって見上げる先、魔神はそのままニドの腕に握り締めていた剣、エスカロッソを容赦も無く突き刺す。




「うっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」




少女の叫び声が崩れた聖堂の内側で響き渡る。




「ヤレヤレ、ようヤク、おトナシクナッタヨウダナ…」



月によって光を当てられた魔神の姿は先ほどと違って、更に禍々しい腕を両肩に並べていた。


(してやられたか、もう二本の腕…そんな隠し玉を持っていたとはな)




「あ、ああああああああああっ!あああああああああ!!!うあああああああああああああああ!!」




「イタイカ?イタイダロ?否、痛イだけデハ済まないハズダ。人々の恐怖、苦悶、絶望ヲ吸イ込ンダ、エスカロッソの刃は

貴様のタマシイノ奥底マデ響き渡ル」




ニドの腕を刺すエスカロッソの刃が禍々しい瘴気を放っている。

彼女の腕が刺し傷から徐々に黒く染まっていく。




「神ハ慈悲ヲアタエスクウモノ、貴様ノヨウナコムスメデモ、ソレは変ワラナイ。ダガ、神ニ刃ヲ向ケル以上…その罪に、罰ヲ与えねばナラナイ」



苦悶の表情を浮かべるニドに魔神は顔を近づける。そして、髑髏の頭が、徐々に司教の顔を戻していく。



「お前の魔剣による呪い。“死の肩代わり”が何処まで通用するのか是非試してみようかね?」




「あう…あ…――――」




グリュ、ズグッ




「が…かはっ…ぁぎ…」




ニドの胸元を魔神の凶爪が貫く。

その爪は確かに感じた。脈打つ感触、至った少女の心臓の躍動を。




「ここかね?」



「あ…かっ、は…」



奥へ、奥へ、魔神の腕は彼女の胸の奥へと沈んでいき、心臓を掴み取る。

ニドは荒々しい呼吸をしながら口から血を溢し始める。

殺意の銃がその手に握られているが、それを相手に向ける程の力も、思考すらもままならない。





そして―





ズリュリ。




魔神は立ち上がり、引き抜いたニドの心臓をその手に握り締める。





「…なんとも小さい」




その小さな鼓動をその手に堪能しながら、司教の顔で憐憫の表情を見せる魔神。

そして、それを魔神は





グシャ

   リ





無慈悲に握りつぶした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ