ハートレス
heartless
「じゃあエニグマ、もし目の前に血を流している人を見かけたらどうする?」
「…………」
「姉さん、当たってるよ」
「あ? あぁ、私なら――」
「私あの時変なこと言ったか?」
「授業のこと?」
「『これ以上苦しまないようにトドメを刺す』って答えはそんなに変なことか? おかげで周りから心が無いって責め立てられたわ」
「まぁ、『道徳に正解はない』もんね。姉さんの言うこともきっと一つの答えだよ」
「はっ、それに『救急車を呼んで助ける』だなんて、実際に目の前に血まみれの人が居たとしてもみんな見て見ぬふりしてるじゃないか。所詮上辺だけの偽善理論なんだよ」
「姉さんのその性格が友達できない原因なんじゃん?」
私は笑ってそう返す。
「姉さんってサイコパスなんじゃないの?」
「いやそれはないね」
「まぁ、それでも私は――――」
「……! ……ム!」
……暗い世界で、声が聞こえる。
「………ここは?」
「ファントムッ! 良かった目が覚めたんだね!」
「ライト姉さん? てか何ここ、病院?」
「落ち着いて聞いてください」
真っ白な服を着た人間が真剣な顔で喋り始める。
「貴方はお姉さんと下校している最中に事故に巻き込まれたんです、二人とも死の寸前、貴方は心臓を強く打ちつけ、お姉さんは頭を強く打ちました。だから―――」
―――お姉さんの心臓を、移植しました。
きゅううううっ
「………何言ってんの?」
「だから、姉さんの心臓を貴方に移したんだよ。心臓が使い物にならなくなっていたから……それに、姉さんは………ファントム?」
「……ッ、ッ」
「どうしたの? 胸、苦しいの?」
私はぎゅうっと胸を掴んで
「嘘つくなよ……あいつは狂ってるんだ。死にかけの人間にトドメを刺すだとか、動物の死骸を平気で持ってくる奴だ。心無しな奴だ。なのに……どうして私の胸が……こんなに痛くて熱いんだ……どうして痛みがあるんだよ!! おかしいよ、おかしいよ……こんなの姉さんの心臓じゃないよ……」
hurtless