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「……ぷはっ!……顔に、いっぱい」『だくだくのコーヒーカップ』

 【○トーヨーカドー屋上】


「見つけたぞ!ゼウス先生!」


 屋上へのエスカレーターを走らずに昇った女神フレイヤ・ノート・ムーアの三大女神は屋上遊園地のコーヒーカップに乗り、くるくる回っているゼウスを発見する。


「ひひささししぶぶぶりだのぉぉ~!!?」


 コーヒーカップから降りたゼウスは地面に降りてからも足元がふらつき、その場でくるくる回っている。


 久しぶりに会う教え子達への照れ隠しであろう。


 威厳も何もない再会だったが、女神ノートは一歩前へ進み、その場で跪く。


「ご迷惑をおかけしました。ゼウス先生……お久しぶりです」


 女神ノートは一度『堕天』になり、あろうことか『魔王』にまでなった自分を悔いた。その気になればゼウスの力で天界に戻すことは容易かったが、それをしないで戻ってくるのを信じて待っていたゼウスは人一倍生徒思いの先生だった。


「過去のことは良い。天使学校の三バカが今や世界を治める三大女神に成長したのじゃ。何も言うことはない。それより、ここへ来た理由は女神ノートの子の強すぎる魔力をどうにかしたいのじゃろ?」


「!!?……そうだっけ?」


 女神ムーアが驚く!すっかり忘れていた!


「あ、そうだ!何しに来たか忘れてた!」


 女神ノートも『ゼウスを探せ!』に夢中になり、当初の目的をすっかり忘れていた!


「相変わらずの三バカよ……。まぁ、よい。魔力はこの『コンドムの腕輪』をつければ抑えられる。ただし、試練はつきものじゃぞ……」


 絶対神ゼウスは指輪を女神達に見せながら、意地悪そうに自慢の長く伸びた髭をさすりながら「ふぉふぉふぉ~」とベタに笑った。


「さすがにタダではくれないか!」


 女神ノートは愛する我が子のため、戦闘ポーズをとり、ヤル気満々だ!


「はぁ~、やっぱりこうなったか。ゼウス先生は昔から試験やら試練やら好きだからな……仕方ない」


 女神ムーアが手を広げると目の前にマジックブックが現れる。女神ムーアは、その膨大な知識をマジックブックを通して具現化できる!


「高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちいいって考え……古いわよ?」


 女神フレイヤも仕方なく重い腰を上げる。

 

「試練は至極簡単じゃ。ここにある屋上遊園地の五つの乗り物『コーヒーカップ』『観覧車』『メリーゴーランド』『ゼウス鉄道』『ゴーカート』これに地上からきたマーサと、そのフィアンセ五人に一つずつ乗ってもらう。マーサが一度も奴らの言う『バナンポジュース』を出さなければお前らの勝ちだ!」


 絶対神ゼウスの提案に三大女神フレイヤ・ノート・ムーアが驚愕する!


「な!な!マーサが……!!?」


「バナンポジュースを……!!?」


「一度も出さない……!!?」


『無理だ――――!!!!』


 三人の女神の叫びが空に響いているとき、マーサとそのフィアンセ達は遅れて屋上へ上がってきた!!


「……ん?……どうしたの?」


 とぼけた顔のマーサに三大女神の絶望の顔が向けられた!!


 【第一種目『コーヒーカッブ』】


「いや……簡単だろ……。出さなければいいんでしょ?さすがにこんな大勢の前では出さないよ……」


 マーサが当たり前のことを当たり前に言った!


「そうよね!一緒に遊園地で遊ぶだけだし!さっさと遊んで女神ノート様の赤ちゃんの力を封印してもらいましょ!」


 拳聖レキも「さすがに出さないでしょ……」と嫌な前振りをする!


 絶対神ゼウスは持っていた杖をマーサに向けて、衝撃の運命を告げた。


「マーサとやら……お前には『小説の主人公』と『ピュッピュッ』の使命が宿っておるわい。そう簡単にはいかんじゃろ……」

 

「さすがご主人様!『小説の主人公』だったんですね!尊敬しまっす!」


 聖女トモミンがあらためてマーサを尊敬する!


「いや……『ピュッピュッ』の使命とは……」


 剣聖イクがマーサを真剣な顔で見つめ、哀れむ。


「『ピュッピュッ』する運命なんて……マーサ様が可哀想」


 鉄仮面サーフォンが胸の前で両手を握りながら悲しい顔をマーサに向ける。


「道理でところ構わず『ピュッピュッ』してると思った!はっはっは!」


 勇者ユキノがマーサの肩を叩きながら笑う。


「あんまりピュッピュッ、ピュッピュッ言わないで……恥ずかしい」


 さすがのマーサも恥ずかしかった!


「ピュッピュッって……あれがピュッ……ピュッ!?」


 幼なじみマーサの恥ずかしい使命に、レキはマーサ以上に恥ずかしがり、赤くなった顔を両手で覆った。


「で?最初は誰が行くの?私達女神の援助があるから楽勝でしょ!」


 女神フレイヤがロイヤルフィアンセーズを見渡す。


「では!先陣は私が切ろう!」


 剣聖イクが真っ直ぐ手を上げて名乗り出た!


 さすがロイヤルフィアンセーズの特攻隊長!


「では、マーサと剣聖イク、コーヒーカッブに乗るのじゃ」


「はいはい」


 マーサはコーヒーカッブに乗り込んだ!


「よし!いいぞ!」


 レキもコーヒーカッブに乗り込み、念のためマーサの真正面に座った。隣に座ると万が一ハプニングでマーサに触れてしまうかもしれないからだ!


「それでは、時間は5分じゃ!よ~い、スタート!!」


 ゼウスの合図でコーヒーカッブがゆっくりと回りはじめる。


「……ははは!楽勝だな!」

  

 最初は警戒していたイクだったが、ゆっくり回るコーヒーカップに緊張も解け、自然と笑みがこぼれる。


「ほんと!ほんと!これじゃ、ただのデートだよね!」


「ででで……デート!!?」


 マーサの言葉で急にイクの顔が赤くなる!


 よく考えたらコーヒーカッブに向かい合って座って、見つめ合いながら回ってる……かなりのラブラブデートだ!


「お?おおお?お!?い、イク!!?」


 コーヒーカッブの回転がどんどん早くなる!

 イクが照れて真ん中にある回転スピードを上げる円盤上のハンドルをどんどんどん回しているからだ!


「そ、そんな!?で、デートなんて!!ふふふ……」


 イクは自分がスピードを速めていることに気づいていない!


 「ねぇ、あれ……回転、速すぎない?」


 レキが腕を組みながら徐々に回転が速くなるコーヒーカップを見ながら言った。


 ゴゴゴ――!!


 やがて、すごいスピードで回るコーヒーカッブ!!


「きゃ――!!」


 ようやく回転の速さに気づいたイクが叫び声を上げる!!


 あまりの回転で吹き飛ばされそうだ!


「イク!!大丈夫か!?俺に掴まれ!!」


 マーサがイクに手を伸ばす!


「マーサ殿!?すまない!」


 イクもマーサに手を伸ばす!!


 ガシッ!!


 イクが掴んだのは……マーサのバナンポだ!


「はぅ!!な、なんで!?」


「ああ!?きゃ――!!飛ばされる」


 イクは両手でマーサのバナンポを掴んだ!


「ヤバいです!ご主人様のバナンポ、30%……40%……50%……発射率どんどん上昇してます!!」


 トモミンの支援魔法『トモミンアナライズ』により、メガネにバナンポの温度・膨張率・発射確率(発射までのカウントダウン)が表示される!

 

「コーヒーカッブの回転による遠心力がイク様の手からマーサ様のバナンポに強い刺激となって押し寄せてます!」


 真面目なサーフォンが真面目に解説した。


「マーサ――!!がんばれ――!!我慢しろ――!!」


 ユキノの応援!レキもマーサに激を飛ばす!


「あんた!出したら承知しないわよ――!!」


 コーヒーカップに近づきマーサを応援するロイヤルフィアンセーズに対し、後方で見守る女神フレイヤ・ノート・ムーアは冷静に状況を分析する。


「……私達は何を見ているのだろう」


「すごいなあいつ……振り回されながらバナンポがどんどん大きくなっていくぞ……」


「あいつはいつもああなの?」


 呆れる女神達だったが、マーサの限界が近づく!


「ヤバい!!出そう!!」


「発射率!80%を超えています!」


 心配するトモミンにレキが問いかける。


「……さっきから『発射率』ってなに?」


「はっはっは!……『暴走』しないかな?」


 手を頭の後ろで組んで呑気なことを言う勇者ユキノ!


「ま……マーサ殿!て……手を離します!!」


 イクがバナンポを持つ手を緩める!


「ダメだ!このスピードで手を離したらイクが怪我をしてしまう!絶対に離すんじゃね――ぞ!!」


「マーサ殿……」


 イクの掴む両手が汗ばむ。イクはもう一度強くバナンポを握り直した!


「すごいな!バナンポ握ってるのに感動的なシーンにしようとしている!って、なるか~い!」


 女神ノートの冷静なツッコミ!


「あの男はフレイヤが転生させた奴じゃろ?すごいの持ってきたな……」


 絶対神ゼウスが女神フレイヤに気軽に話しかける。


「私もあんな風になるとは思いませんでした……」


 女神ムーアがフレイヤの肩に手を置く。


「フレイヤ……ドンマイ」


 なにやら神様達で反省会が始まっていた!


「きゃ!顔に何かついた!ちょ、ちょっと!マーサ出してない!?」


 レキが口元に飛んできた液体を舐める。


 回転するマーサのバナンポから液体が飛び散っている!


 ピュッ……ピュッ!


「まだ大丈夫です!甘い方は我慢した時に出るフライングバナンポジュースです!セーフです!」


 トモミンに続き、サーフォンとユキノも飛んできたフライングバナンポジュースを舐めて確かめる。


 ピュッ……ピュッ!


「ペロッ……本当だ!甘い!」


「ペロペロ……うん!まだ苦くない!」


「あと十秒じゃ」


 ゼウスが時計を確認する。


「あう~もうダメかも~」


 イクの両手に握られたバナンポは爆発寸前だ!


「マーサ殿ぉ――!頑張ってくださいぃ――!」


 イクは振り落とされないようバナンポをしっかり握る!


「よし!あと五秒!」


 レキが手を広げてマーサに見せる!


「あと四秒――!」


 サーフォンも手を広げ、親指を折りながら叫ぶ!


 カウントダウンが始まった!!


「さ~ん!!」


 トモミンが人差し指、中指、薬指を立てる!


「あ――!!出る――!!」


 フライングバナンポジュースがいっそう吹き出る!


「二――!!」


 ユキノがマーサにピースする!!


「マーサ殿のバナンポ熱い!!爆発しそう!!」


 イクのマーサのバナンポを握る手が汗ばむ!


『いち――!!』


 全員で人差し指をマーサに掲げる!!


「うわぁ――!!我慢んんん――!!」


 耐える!必死で耐える!!


「ゼロ!!!!よくやったわ!マーサ!!」


 女神フレイヤがマーサを讃えた!!


「うむ!ひとつクリアじゃ!」


 ゼウスが杖を掲げるとコーヒーカッブはピタッと止まった!!


「きゃ――!!」


 急に止まって服が乱れ、イクのおっぷにがあらわになる!


「わわわわ、わ――!!」


 イクの上に落っこちたマーサは、奇跡的におっぷにの間にバナンポが挟まり、我慢していたバナンポジュースが勢いよくイクの顔に目掛けて吹き出した!!


「あうっ!!出る――!!」


 ビュルル――!!ドォプ……!ドロォ……!


「きゃぁ――!!ウブブ……!?……ぷはっ!……顔に、いっぱい」


 イクの顔はマーサのバナンポジュースで真っ白だ!


「い、イク!まだ出る!飲んで!」


 マーサは我慢していたバナンポジュースをイクの口にすべて出した!


 ビュ――――!!


「んっ!!んぐっ!んヴっ!!……ゴクゴク」


 真っ先にイクへ駆け寄るレキ。


「終わってから出たから、セーフよね!……イク様、大丈夫ですか?」


 マーサのバナンポを押し込まれ、どんどん飲まされるイクをさすがに心配する。


「セーフだ!!」


「セーフでっす!!」


「一回戦は我々の勝利ですね!!」


 ユキノ、トモミン、サーフォンも続き、顔中ベタベタのイクの元へかけより、みんなで喜ぶ!


「マーサ殿……出しすぎ……ゴプッ……ケプッ……」


 仲間達に囲まれたイクだが、バナンポジュースまみれで放心状態だった!


「よし!勝ち!!」


 女神フレイヤのガッツポーズ!


「なんとか勝てたな!」


 女神ノートは「ふぅ~」と安堵の溜め息をつく。


「どうだ!ゼウス先生!思い知ったか!!」


 女神ムーアはゼウスにピースして勝利宣言をする。


「勝ちでいいけど、結局最後に出しまくってるぞ……あいつ。次はあの『観覧車』だけど大丈夫?」


 呆れ顔を見せながら巨大な観覧車の方を杖で指す。


「『観覧車』か!!確かに難しい……!密室&高所……絶対にマーサは入れる!」


 ユキノが断言する!


「うん……100%入れられるわね」


 レキも目をつむり「うんうん」と頷く。


「ご主人様は入れるでっす!」


 トモミンは嬉しそうに飛び跳ねる。


「わ、私は……い、い、入れられても大丈夫です!!」


 サーフォンは真っ赤になった顔を鉄仮面で隠す。


「あんたら、自分で言ってて恥ずかしくないの?」


 呆れる女神フレイヤ。


「まさかの信用ゼロ!!」


 マーサは人知れず傷ついた!


「私に秘策がありまっす!」


 トモミンが手を大きく上げた!


 ユキノは「よし!次の挑戦者はトモミンだ!」とトモミンを勢いよく指差す。


 レキは「そうね!入れられても出さなければ大丈夫だし!なんとかなるんじゃない?」とトモミンの頭を撫でる。


 イクは「がんばれトモミン!出さないように入れられるのですよ!」とアドバイスする。


 サーフォンは「ファイト!ゆっくり入れられれば出ないかもですよ!!」と助言する。


 ロイヤルフィアンセーズのあたたかい応援が飛び交う!


「……俺の評価って、いったい……」


 一人たたずむマーサ。


 日頃の行い……自業自得だった!!


 【次話!入れるのかい!?入れられるのかい!?どっちなんだい!!】


 <つづく!>


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