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「知らんのか?逆バニーだ!」『魔王のゆりかご』

 【王都ハラミサガリ マルチョウ不動産】


「そろそろひとり暮らしを始めたいから不動産屋に来ちゃったぁ~」


 誰かに説明するかのような独り言を言いながら、イクの妹アヤカは不動産屋を訪れた。


「ご希望の条件はございますか?」


 感じのよい男の店員は愛想よく質問する。


「えっとね――!新築で、部屋がたくさんあって、イケメンの執事がいて――!庭に噴水ほしいな――!彼氏が出来たらダンスパーティーとかしたいわ!」


 夢を語る場所を間違えた!


「……お城をご希望ですか?」


 丁寧に接客する店員の額に汗が滲む。


「あう……」


 現実に引き戻される。


「え~、このお城、お風呂小さくない~?ゲーテの書斎もこんなにいる?」


 隣のカップルの声が徐々に大きくなる。正直、うるさい。


「ワシはその……毎日の配信を見……いや、本を読むのが好きなのだ!ノートこそ10部屋もいるのか?」


「使用人の部屋が四つでしょ、トラップとかも仕掛けたいし……」


 なにやら物騒な事を言い出した。


「店員さん!ほら!隣のカップルだって城に住むみたいじゃない!!」


 ほら!と、こっそり隣のカップルを指差す。


「あのお客様は特別なんです……。ここだけの話、……隣の女性の方、新しい魔王なんですよ!」


 店員はアヤカに耳打ちする。


「……!!?ま、魔王!?」


 大きくなりそうな声を両手でふさぐ。


「私どもはお客様に差別しませんので……内緒ですよ!内緒!」


「……魔王が……新しい城を探してる!?」


 【翌日 王都ハラミサガリ 第一王子マーサの部屋】


「……と、いうことなのよ!」


 かわいいワンピース姿のアヤカが昨日の不動産屋の出来事を話した。

 

 アヤカが知った情報を知らせるために、ロイヤルフィアンセーズの面々は急遽、マーサの部屋に集まっていた。


「すごい情報だ!でかしたぞ!アヤカ!」


 騎士団長の格好をしたイクは公務の途中で抜けてきた。


「えへへ!」


 仕事中のカッコいい姉に頭をナデナデされて喜ぶ!


「まさか二代目魔王ノートが魔王城を借りようとしているとはね……」


 マーサのベッドの横に腰掛け、(昨日、使った)枕をかかえながら、ベビードール姿のレキが話す。


「ふぁ~、賃貸だよね?家賃が気になるね」


 まだ布団を被っている寝不足のマーサが欠伸をしながら、家賃を気にする。


「王都の近くの貴族の空き城か?そんなのあったっけ?」


 なぜかバニーガール姿の勇者ユキノがベッドに乗り、ハイハイをしながらベッドの真ん中に移動し、マーサの布団の膨らみの上で寝転ぶ。


「おふっ、ユキノ、苦しいよ~」


 決して「重い」と女の子には言わない!マーサは気づかいのできる男であった。


「ご主人様が第一王子になって、かなりの数の貴族が没落して、空き城は増えてます」


 メイド長姿のトモミンが代えたばかりのシーツを手にしながら話す。


「マーサ様が、王子になってから?」


 愛魚女魔法女学園の可愛い制服がまぶしいサーフォンが、トモミンに聞き返す。


「口だけで偉そうな奴、嫌いなんだよね!収支報告出させて利益率10%未満の貴族は対策書の提出を義務付けしたけど、ほとんど改善できなかったね!情けない!」


 布団で寝ながらマーサが答える。


「……あんた時々、すごいわね……。普段は『ぼ~っ』としてるのに……」


 レキは少し頬を赤らめながら、振り返ってベットに横になるマーサを見る。


 転生前の癖で『不振の原因』『具体的対策』『実行からの検証』が出来ない奴らを許さなかった!マーサはサラリーマン時代は超実力主義者だった!


「それで立派なのに空いてる城が多いのですか……」


 サーフォンが話していると、突如――。


「マーサ、ちゃんと仕事してたのね。エッチしかしてないかと思ったわ」


 いきなり女神フレイヤが現れてレキの隣に座り、チラッとレキを見る。


「きゃぁ――!?」


 突然の登場にビックリする!


「相変わらず、急に現れるね……」


 慣れっこのマーサ。


「ウソ……女神……様!?」


 この中では女神に初めて会うアヤカは目をキラキラさせている。


「話しは聞かせてもらったわ!二代目魔王ノートと一緒にいたゲーテって男……初代魔王よ!」


『え――――!!!!』


「初代魔王と二代目魔王が一緒に住むのか!?」


 さすがのユキノも驚きを隠せない!


「それはまずいのでは!?」


 戸惑うイクに妹のアヤカが腕を組みながら話す。


「でも、ラブラブに見えたよ!腕なんか組んじゃって!」


「最強カップルでっす!ピンチでっす!」


 飛び跳ねて慌てるトモミンに少し考える仕草をしていた女神フレイヤが口を開く。


「いや……チャンスよ!王都ハラミサガリの南東の空き城『キョウハスシノキブン城』に住めば、あそこは魔力の磁場が悪く弱体化させるかとができるわ!あなた達!不動産屋店員に変装して、なんとしてでも『キョウハスシノキブン城』に入居させるのよ!!」


「……不動産店員に」


「……変装!?」


 戸惑うマーサ、イクとは裏腹に、ユキノは乗り気だった!


「面白そう!!では、結論が出たところでマーサ……」


 ユキノは我慢できないといった表情をマーサに向け、自分でバニーガールの胸の部分の尖った布を両方ずり下げて、おっぷにを見せた。


「もう!しかたないわね!全員、一回ずつよ!」


「許すんかぁ~い!」


 アヤカはこの世のことわり、女神フレイヤに「許すんかぁ~い!」とツッコミを入れた。


 女神への信仰心が少し減った!


「……」


「……はぁ。お姉ちゃん、先に帰ってるわね……」


 仕事中のカッコいい騎士団長の鎧を無言で外し、頬を赤らめる姉イクの顔に溜め息をつきながら部屋を出た。


「接客業……か。得意だな」


 ベッドの上で仁王立ちになり、群がる女性達にもてあそばれながら、マーサは呟いた。


 【後日、キョウハスシノキブン城 城門前】


 一台の馬車がキョウハスシノキブン城に止まる。


「お客様着きました~!ここです~!いいとこですよ~!!」


 不動産店員に変装したマーサが馬車から降りてきた。


「この前の店員のおすすめと違ったが、なかなかお洒落な城ね!気に入ったわ」


 次にセクシーな赤いドレスに身を包んだ二代目魔王ノート・ノーエッチが馬車を降りる。


「では、ここに契約のサインを……」


 すぐさま契約書を取り出すザ・商売人マーサ!


「早いわ!中も見たいぞ!それにしても、お前どっかで会ってないか?」


 最後に馬車から降りてきた初代魔王ゲーテがマーサの顔を覗き込む。


「いえいえ、こんなイケメン、一度あったら忘れませんよ!お客様が美少女でしたら、もしかしたら夢の中でお会いしたかもしれませんが……」


「お前、アイドルなの!?」


 失礼な態度の店員にイライラする初代魔王ゲーテだったが、バレてはいないようだ……。


「各部屋毎に専門の説明係がいますので、きっと気に入ると思いますよ!!」


「各部屋毎に説明する奴がいるのか!?すごいわね!!ね!ゲーテ!」


 二代目魔王ノートが感心する。ゲーテと腕を組んで仲が良さそうだ。


「そうなんですよ~!では、こちらの契約書に印鑑を『ポチっと』っとお願いします!」


 すぐさま契約書を取り出す!


「だから、中を見たいって!……話、聞いてる?」


 不動産屋に変装したマーサは二代目魔王ノートと初代魔王ゲーテを言葉巧み(?)に城に招き入れる!なんとしても魔力磁場の弱いこの城に決めてもらうため念入りな打ち合わせをしてきたのだ!


名付けて!作戦名『魔王のゆりかご』!


 作戦、スタートです!


「あ――あ――、ターゲット只今玄関ホールを通過!各自準備はできているか!?」


 マーサは手の甲に浮かぶ無線のようなものに話しかける。


「今、『ターゲット』って言わなかった?」


 初代魔王の不信感をよそに無線魔法で『ロイヤルフィアンセーズ』に指示が飛ぶ!


「担当『ダンスホール』いつでもOKよ!」


「担当『お手洗い』なんで私はトイレ担当なのよ!」


「担当『トレーニングルーム』任せて!」


「担当『大浴場』お湯加減ばっちりでっす!」


「担当『寝室』わわわ、私が……寝室!?ががががんばります!」


「まずはダンスホールでダンスを披露!どうせ奴は踊れないだろうから適当でいいぞ!」


「全部聞こえてるんだけど、逆にいいの!?聞こえないフリした方がいいの!?」


 ゲーテは変に気を遣う!


「さぁ~こちらは『ダンスホール』ですよ~踊り放題ですよ~」


 マーサは100点満点の営業スマイルで案内する。


「急に態度が変わりすぎで怖いよ……」


「見て!誰かいるわよ!」


 二代目魔王ノートがダンスホール中央を指差す!


「ようこそ!仮面舞踏会へ!!」


 そこには仮面をつけて肩や腕、足は黒い布で覆われている一方、股間から胸までが丸出しというとんでもない格好のユキノが立っていた!


「ゲーテ!見ちゃダメよ!その変態な衣装は何よ!!?」


 ゲーテの目を両手で押さる!


「知らんのか?逆バニーだ!」


 逆バニーだった!


「よーし!第一印象はバッチリだ!」


 マーサは渾身のガッツポーズを決める!


「第一印象は最悪よ!最悪!大事なとこ隠しなさいよ!」


「そうか?かわいいのに……」


 大事なとこに『ハートのシール』をしぶしぶ貼る。


「……まぁ、いいわ」


 ……それでいいの?


「では、手品をします。ちゃらららららら~ん」


 ユキノが両手を広げる。


「では、縛ります」


 マーサはシルクハットからロープを取り出すとユキノに巻いていく。


「なんで、手品見ないといけないの?」


「サービスじゃない?面白そうだからいいわ」


 呆れるゲーテとは対照的にノートはユキノを食い入るようにみる。


「はい。これで私は身動きが取れません」


 見事な逆バニー亀甲縛りでユキノは身動きが取れない!


「これでは何も出来ぬぞ!!」


 ノートが興奮する。


「では、見ていてくたさい。スリーツーワン……」


(ゴクリ……)


 ゲーテとノートがユキノを見つめる!


「んっ!んぁ!んぁぁ――――!!イクッ!!イクぅ――!!」


 なんと!身動きが取れないユキノは、そのまま絶頂して!!ロープからイヤらしい液体が垂れる!


「え!!なんで!?縛られて身動きが取れないのに!?」


 ノートは大興奮だ!!


「……ただの性癖じゃない?」


 ゲーテの冷静なツッコミ!!


「さぁ!お客様!次は踊りますから見ててくださいね!」


 そういうと、マーサはダンスホールの中央まで走り、ユキノのロープを外して手を取る。

 

「今度はダンス!?」


 ノートは心なしかワクワクしている!


「ミュージックスタート!」


 ユキノの合図とともに音楽が流れ出す!


 ユキノとマーサは華麗なステップを披露する!


 この日のためにマーサとユキノは元勇者パーティー『踊り子のパラッパ』にダンスを習っていた!


「ワルツ!タンゴ!スローフォックストロット!」


 マーサの華麗なステップ!


「クイックステップ!ヴェニーズワルツ!ブルース!」


 ユキノの華麗なステップ!


「衣装はともかく……上手い!」


 ゲーテを、魅了する!


「悔しいけどキレイだわ!」


 ノートも魅了する!


「あっ!」


 ユキノの足がもつれ後ろに倒れそうになる!


「ユキノ!ガシッ!」


 すかさずユキノの後ろに回り込み、腰を落としてユキノを支える!


「んあっ!」


 見事にカバー!


「ねぇ……入ってない?」


 マーサとユキノを指差しながら、ノートの方を見る初代魔王ゲーテ。


「すごいキレイ!踊りもいいわね!」


 二代目魔王はユキノとマーサの踊りに釘付けだ!


「ユキノ!フィナーレだ!」


「んっ!んあっ!あぃ!」


 超密着した二人が回りだす!


「んぁ!ん!んぁ!んん――!」


「……ねぇ、やっぱり入ってない?」


 もう一度、ノートの方を向く。


「なんて美しい回転!ビューティフォー!」


 ノートは感動して拍手を送る!


「フィナーレ!!うっ!!」

 

 マーサは「フィナーレ!!うっ!!」と言いながら、ユキノの腰に手をまわし、自分の腰を打ち付ける!


 大量の汗(?)がユキノの周りに降り注ぐ!


「んぁ――――!!!!」


 回転が止まり、両手を上げ、ポーズを決める!!


「下、ビショビショだよ……やっぱり入ってない!?」


 床を指差しながらノートの方を見る。


「ブラボー!ブラボー!素晴らしいダンスを見せてもらった!この城も気に入ったよ!」


 ノートの拍手が止まない!


「よし!」


「や……やった!」


 二人でハイタッチをする!


「あの女の子、ブリッジの体制で足をカニばさみにして男の腰をはさみ、ピチャピチャなにか垂らしながらグッタリとしてるけど、あれ……入ってないの!?」

 

「もう!さっきから「入ってる」「入ってない」って、うるさいわね!踊りに感動しなかったの!?」


「い、いや踊りはすごかったけど……いろんな意味で……」


 なぜか怒られる初代魔王ゲーテ!


「他の部屋も見てみたいわ!」


 この城に興味を持ったノートはマーサを促す。


「では、とっておきの場所にご案内いたしましょう……『お手洗い』にね!!」

 

 【トイレ】


「く、来る……!?」


 レキはゆっくりと履いていた下着を足首まで下ろし、便座に腰かけた……。


 <つづく!!>

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