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「はぁ……はぁ……うん」『勇気ある者』

 【世界一高い山 フジサンヨンゴ】


 フジサンヨンゴ山……5000メートルからなる異世界一高い山。


「あ!レキ~!レキも呼ばれたの?」 


 防寒着で真ん丸になったマーサがレキを見つけて駆け寄る。


「あんた、着すぎじゃない?しかし、いったい何だろうね?勇者ユキノ様からの招待状……」


 勇者ユキノはパーティーメンバー他、数人をここ『世界一高い山 フジサンヨンゴ』一合目に招待していた。


「ご主人様!トモミン、山登り初めてでっす!」


 トモミンはヘルメットにゴーグル。厚手のメイド服に大きなリュックを背負っている。


「やっぱり登るのかなぁ~。疲れるのやだなぁ~。ロープウェイで上がって、中継地点で水配る係とかやろうかなぁ~」


 マーサは『いかに楽をして人から褒められるか』を日夜真剣に考えている!


「マーサ殿!ご無沙汰ですね!」


 剣聖イクが声をかける。今度は聖剣ゼックスカリパを帯刀していた。


『今度、置いてったらブチ殺しますわよ……』


 聖剣はブチギレしていた。


 どうやら温泉旅行に置いていかれたのを根に持っているようだ……。


「すまなかったよ!ゼクス!ほら、あちらでフジサンヨンゴを眺めよう!マーサ殿、またあとで!」


 聖剣ゼックスカリパをなだめながらイクが去っていった。


「ちょっとあんた……イク様とは温泉旅行に行ったそうじゃない!……私とはどこにも行ってないのに!」


 隣で聞いていた幼なじみのレキがなんだかすねている。


「え?一緒にお風呂入ったじゃん!」


 基本、空気の読めないAB型のマーサは、(いろんな意味で)楽しかったレキとのお風呂の話を持ち出した!


「な!……バッカじゃないの!!あれは……」


 レキは顔を真っ赤にして、マーサに「べ~」と舌を出してから逃げるようにその場から離れた……。


「なんだよ……。お風呂では「私、今も体は柔らかいんだから」とか言ってY字バランスからI字バランスであんなことやこんなことまでさせてくれて、……最後に『拳聖奥義!極みバナンポ洗い!』とか、はしゃいでしてくれたのに……」


 マーサは一人で変なジェスチャーを繰り広げる。しかし、『拳聖奥義!極みバナンポ洗い!』とはいったい!?


 トモミンが「ご、ご主人様!あわわ!あわわ!」と奇妙な動きをするマーサを止めようとする。


「バカマーサが、またバカやってる……」


 見覚えのある顔が呆れ顔でやってきた。


「あ!イクの妹のアヤカ!っていうか、バカマーサとはなんだ!せめてマーサのバカだろ!」


「なにか違いはあるの?」


 バカ(AB型)の言ってることはAB型(バカ)にしかわからない!


 『ザワザワザワザワ……』


 周りがザワザワし始めた!勇者ユキノの登場だ! 


「みんな!よくぞ!集まってくれた!」


 壇上に登ったユキノは大声で挨拶をした。全員の視線がユキノに向けられる。


「今日、集まってくれたのは他でもない!ある発表をしようと思う!マーサ、こちらへ」


 ユキノは壇上の上からマーサに手招きをする。


「へ?あ、はい!」


 急に呼ばれてビックリしながら、恐る恐る壇上へ上る。


「皆も知っている通り、今日のライブ配信で『賢者』マーサの結婚相手が決まる!」


 ユキノは『大魔法使い』より『賢者』の方がカッコいいと思い、その場で思いついて言ってしまった!実はライブ配信は女神フレイヤの編集により極力女の子だけが映っている。マーサは見切れているか、バナンポ(修正済み)しか映らないので『謎の男』『影の大魔術師』『闇バナンポ魔人』と密かに騒がれていたのだ!もちろんスキル『AV男優』を持っていることは、女神フレイヤしか知らない事実でもある。


 ザワザワザワザワ……。


「ユキノ様……」

 

 トモミンがハラハラしながらユキノを見上げる。


「ユキノ様……」


 イクも心配そうな顔でユキノを見つめる。


「……ゴクッ」


 レキも固唾を飲んで見守る。


 ライブ配信は国民全員が知っている周知の事実だが、最近はすぐに有料チャンネルに切り替わり、ほとんどの国民が状況が分からず、噂が独り歩きしている状態だった。


「ユキノ……」


 ユキノの隣でマーサが心配そうにつぶやく。


 もちろん、有料チャンネルになるのは、この男のせいである。


「私は……候補者を辞退する!!」


 勇者ユキノは宣言した!


 ザワザワザワザワ――!


 周囲がざわつく!


「私は『勇者』だ!しかし、魔王亡き今(まだ死んでません……)『勇者』たる私に何ができるか、真剣に考えた!」


「ユキノ……」


 珍しく真剣な表情のマーサがつぶやく。


 ユキノの真剣な眼差しに全員が刮目する中、ユキノはゆっくりと、それでいて堂々と宣言をした。


「私は……ハーレムを作りたい!」


「ユキノ様……ゆ、ユキノ様!?」


 イクの二回目の「ユキノ様」が疑問系になった!


「――――!?」


 全員が言葉を失った!


 ユキノは演説を続ける!


「私は男も女も好きだ!無論、マーサのことも好きだが、もう、みんな好きだ!」


「『勇者』がすごいこと言い始めたぞ!」


 観客は騒然だ!


「だが、結婚を決める『ライブ配信』を辞退するというのは『勇者』が負けたことになる!『勇者』は負けてはならない!」


 ユキノは拳を握りしめる!


「さっきから……なにを言っているんだ!?」


 隣で聞いてるマーサは、理解を超える発言に戸惑いを隠せない!


「よって!ここに『マーサ争奪!フジサンヨンゴ登頂大会』の開催を宣言する!!」


 レキがつぶやく。


「……マーサ争奪」


 トモミンが続く。


「……フジサンヨンゴ」


 イクが締めくくる。


「……登頂大会!?ゆ、ユキノ様!なにを言って……!!?」


 イクの言葉を受け、勇者ユキノは両手を広げて高らかに言いきった!


「簡単だ!一番早く登った者が、マーサと結婚だ!」


 『おもしろい……』


 突如、天から声が響きわたる!


 次の瞬間、神々しい光と共に上空に女神フレイヤの巨大な半身が現れる!


「め、女神様!?」


 参加者がどよめく!


「女神様よ!」


 参加者達は次々に両手を合わせ天に祈った。


「ユキノよ……おもしろいぞ……その話、乗った!!」


 それだけ言うと、女神フレイヤは『スウゥゥ――』っと、消えていった……。


「よし!承諾も得たことだし、始めるか!」


 勇者ユキノは天高く頂上を指差す!


「おもしろいことになってきたね~!これで、魔王を倒した『賢者』と私も結婚できるってもんだ!山登りはお手のもんだ!」


 声を発した主に、すかさず剣聖イクが説明を加える!


「あ、あれは!女山賊団統領『モンキーディーミルキー』!!」


「よくみれば、有名な人たちだらけ……あっちにも!!」


 拳聖レキが指差す。


 馬車レースでは負け知らず!


 レディース黒薔薇総長!通称『ブレーキ壊れたノーブレーキ』!


「結婚して、ブレーキ直す……」


 天気を自在に操る『天候士』


 明るいお天気姉さん『晴れドキドキ日和びよりアイアイ』


「いつでも私は相合傘……うふ」


 正体不明の仮面の淑女!


 好きな食べ物『月見バーガー』


 『変態!全身タイツ仮面』


「月に一回……SMよ!」


 東の国からやってきた!


 パットリさんがやってきた!


 免許皆伝!くの一の里長『くの一!パットリさん』


「……ニンニンでござりんこ」



「……強者ぞろいだな」


 イクの頬を冷や汗が伝う。


「ハロウィンパーティーでもするの?」


 レキの頬にも冷や汗が伝う。


 全員、個性が強かった!


「それでは、位置について……よ~い、スタ――ト!!」


 ドォウン!


 スタートを任せられたマーサの指先から天高く炎が飛び、戦いの火蓋は切って落とされた!


【二合目 800メートル付近】


「……ふぅ」


 ため息をつくレキ!


 レキの調子が悪い!


「こちら水分補給所で~す」


 水分補給係の声。テーブルには紙コップに蓋がしてあり、真ん中からストローが出ている。


「ありがとう……もらうわ。……ふぅ」


 レキは一息ついて、また登りだす。


「お!水!ごくごくごく――!!うまい!」


 バカ丸出しのマーサも水分補給はかかさない!


「はっ~はっはっ!ひっかかったな!」


 高笑いと共に水分補給所の係員の姿がみるみる変形していく!


「七変化!妖精コスプレイーヤだ!!」


「あ、ユキノが好きな元四天王!ユキノに会いに来たの?」


 マーサは片手をあげ「久しぶり!」とフランクな挨拶を交わす。


「バカ!言うな!私は見守るだけで満足なタイプなんだ!」


 急にモジモジするコスプレイーヤ。


初心ウブなんだね」


「魔族にウブなんて、次言ったら問答無用で殺すから……。そんなことより、今飲んだのは水じゃないよ~ん!ざま~みろ!」


 マーサの手にもった紙コップを指差す。


「なに!うっ!お腹が……」


 急な腹痛にマーサがお腹を押さえる!


「利尿作用増進する『コーヒー』だ」


 紙コップの中身はコーヒーだった!


「なんだと……!コーヒーなんて……二十歳すぎないと飲んじゃダメなんだぞ!」


 この世界では『コーヒー』を飲んでいいのは二十歳過ぎと決まっていた!


 特にマーサはお腹が弱いから、コーヒーなんて刺激物はもってのほかだ!


「ひゃ~トイレ!トイレ!漏れる~」


 マーサは股間を押さえながら走り去った!


「やった!勝った!」


 コスプレイーヤは満足したのか、バイト先の旅館に帰っていった。


「ダメだ!間に合わない!あの木の影で!」


 マーサは急いで人気ひとけのいない大木の裏へバナンポを出しながら回る!


 チョロ……。


「あ、マーサ……ふぅ」


 レキが座って先に用をたしていた!


「あ!レキ!ごめん!」


 慌てて出したバナンポをしまう!今回は我慢できた!成長する男!マーサ!


 チョロチョロ……。


「……ふぅ」


 マーサに気づいても小をやめないレキ。よっぽど調子が悪いようだ。


「レキ、調子悪いのか?」


 心配で覗き込む(大事なとこは覗かない!相手が具合悪い時はふざけない!できる男!マーサ!)


「……うん。……ふぅ」


「これは……こ、高山病の症状だ!早く水分補給しなければ!水は、持ってない……くそっ!」


「はぁ……はぁ……」


 レキの顔色がどんどん悪くなる!


「仕方ない!レキ!飲むか!?」


 マーサは真剣にバナンポを出す!


 (決してふざけてはいない!真面目にバカな男!マーサ!)


「はぁ……はぁ……うん」 


 レキは一言だけ……「うん」と答え……口を開けた――。


 シ、シャァ――……コポ……。


 ※スキル『年齢制限』は、これは『医療行為』と判断しました。


 【五分後――】


「お!レキ殿!さっきは調子悪そうだったのに!?治ったのか?」


 イクが元気に山を登ってくるレキに声をかける。


「はい!元気バリバリです!しゃくだけど、一番に登ってマーサがこれ以上変なことしないよう見張らないと……です!」


「ははは!その通りだな!私も負けていられないな!」


 レキとイクは並んで登りはじめた!


「マーサ!あんたもがんばりなさ~い!」


 レキは後方でヘトヘトなマーサに手を振る。


「お、おう!あ……またトイレ!……俺にコーヒーは早すぎた……」


 白熱の戦いが加速する!


 <つづく!>

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