だめ――!広がっちゃう――!!『異世界温泉物語<前編>』
【王都『ミスジ広場』】
「ままま……マーサ殿!きょ!きょきょ!今日は!……よろしく……お願いします!」
待ち合わせ場所の女神フレイヤ像の前で緊張した面持ちのイクが、遅れてやってきたマーサに深々と頭を下げる。
「お待たせ!お?今日は聖剣は置いてきたんだ」
腰にいつもの大剣がない。
「あ、ああ!……でででで、デートだからな!」
いつもと違った白のワンピース姿で、もじもじする……かわいい。
「ちょっと!デレデレしすぎ!」
隣のかわいい子がイクとマーサの間に入る。
ツインテールでイクと同じ白のワンピースを着ている。
「こ、こら!アヤカ!マーサ殿に失礼だろ!申し訳ない……!妹がどうしても着いてくるって聞かなくて……!」
「お姉ぇと結婚なんて、私が許さないんだからね!」
イクに抱きつきながらマーサを『シャァ――!』と猫の真似をしながら威嚇する。
「かわいい妹さんだね」
威嚇するアヤカに戸惑いながらも素直に褒めてみる。
「アヤカは私の一つ下で、今年『祝福』を授かってな!なんと『剣豪』だ!」
イクが自慢気に話す。まさか同い年だとは思わなかった!てっきり中学生くらいかと……。
「なによ……。お姉ぇに変なことしたら切るからね!」
こっちはしっかり帯刀している。細長い、剣というより刀だ。長すぎて刀の先が地面についてしまうためか、アヤカが歩いてきたであろう道には、引きずられた刀の鞘の跡が地面にくっきりついていた。
「スラッとした綺麗な剣だね」
何気に褒めてみる。
「そ、そうなの!ちょっと長いけど『名刀モノホシザオ』っていうの!えへへ!マーサ!意外にいい奴ね!」
ものすごい喜んだ……。素直なところはイクに似ている……。
「それじゃ、行こうか!温泉!」
昨日、イクから『温泉でいいですか?』と連絡があったのだ!温泉!浴衣!混浴!断る理由があったら教えてほしいぐらいだ!
「お姉ぇったら、せっかく奢りのデートで『道場行こうかな……』なんてアホなこと言って……もったいない!!」
アヤカはイクを見てため息をつく。
「アヤカちゃんの差し金だったんだね……おかしいと思ったよ」
マーサは真面目なイクが温泉旅行を提案するとは思ってもみなかった。
「すまない……。私はマーサ殿と道場で力の限り死力を尽くして鍛練を極めようと思ったのだが……」
イクは肩を落としてガッカリする。
「……そう」
……温泉でよかった。マーサは心の中で安堵のため息をついた。
「さ!行くわよ!馬車、待ってるわよ!」
アヤカの先導で三人は足早に馬車に乗り込んだ!
【温泉郷】
馬車に揺られて小一時間。訪れたのは王国随一の温泉郷『コンヨーク温泉郷』。貴族も足しげく通う人気の温泉郷だ。
「……それでね!お姉ったら壁に手をついて『ユキノ様とトモミンが見てるのに~』って独り言を言ってるの!何の事だかさっぱりわからないわよね~!?」
バスの中でマーサとすっかり打ち解けたアヤカがイクの秘密を暴露していた!
……あの時のだ。
マーサの額から一粒の汗が掛け降りる。
「ば、バカ――!なに言ってるの!ま、マーサ殿!あの……その……あれは!!その……グスン……ううぅ~ア~ヤ~カ~!!」
イクは涙ぐみながら妹に見たことないすごい形相を浮かべる!
「……あ!着いたわよ!ほら!お姉ぇ!着いた!温泉よ!」
身の危険を感じたアヤカは無理やり話を変えた!
「本当だ!湯気があちこちで立ってるぞ!」
マーサも協力してイクの気を反らす!
「ほ、本当だ……はじめてきた」
……ほっ。
窓の外に釘付けなイクを見ながらアヤカとマーサは、安心して胸を撫で下ろした。
「ん~!着いたぁ――!」
アヤカは馬車を降りて伸びをする。
「うん!空気がおいしい!来てよかったな!」
イクの機嫌も直ったようだ。
「でしょ!私に任せなさい!」
アヤカほ誇らしげに胸を張る。
「……おお、重い」
女性陣の荷物を全部持たされながらマーサが言う。
「すまないマーサ殿……少し持とうか?」
イクが手を差し伸べる。
「イク姉ぇ!こういうのは男が持つって決まってるの!!」
アヤカのスキル『剣豪』の特殊効果『シスコン(お姉ちゃん大好き!)』にはマーサのスキル『まるでカメラを向けられたセクシー女優』を打ち消す効果が付与されていた!
「あはは。大丈夫だよ」
この世界の女性は全員B型なので、こういう仕打ちには慣れている。もともとマーサはB型のわがままを聞くのが好きなAB型だったのだ!
※AB型=変態とは言っていません。要注意。
【旅館『コウノトリ』】
「おほほ!こちらが当店自慢の『子宝の間』です。ごゆっくり……ほら!あなた達!早く運びなさい!」
旅館に着くと女将と二人の従業員が迎えてくれた。
「は、はい~」
「わ、わかってるわよ~」
厳しそうな女将と従業員らしい二人が部屋まで案内してくれる。
「こ、子宝の間って……」
部屋の中には布団が並んで敷いてあった。イクはマーサと一緒に寝ることを想像して赤くなる。
「気にしないの!マーサには廊下で寝てもらうから!」
アヤカは廊下をビシッ!っと指差す。
「それは、ひどいぞ……」
イクがアヤカの頭をポンポンと叩く。
「私は、まだあいつを信用してないんだからね!」
お姉ちゃん大好きのアヤカだが、基本、男はみんなゴブリン(犯すことだけを考えている生き物)だと思っていた。
「アヤカ……」
心配そうな顔をする。
パタパタパタ……。
遠くの方から足音が近づく
「お――い!トイレ探してたら、先に行っちゃうんだもんなぁ~」
マーサが慌てて走ってきた。
「すまん、マーサ殿!従業員の方が荷物を運んでくれてな!」
「い~よ!い~よ!って、わっ!布団がくっついて並んでる!一緒に寝るの!?」
部屋を覗き、素直に喜ぶマーサ。
「あんたは廊下で寝るのよ!」
アヤカは冷めた目でマーサを突き放す。
「アヤカ!それはダメだ!マーサ殿も一緒の布団で寝てもらう!一緒の……ポッ……」
自分で言って、また赤くなる。
「もう!お姉ぇったらマーサに甘いんだから!ま、いいわ!マーサ、お姉ぇに手を出したら私の名刀『モノホシザオ』が首とあなたのその『情けなくぶら下がってる物』をハネるからね!」
「……せめて首だけにして」
すでに何度か手を出してるなんて、死んでも言えない……。
【女将の部屋】
女将の部屋から怒鳴り声が聞こえる。
「ちょっとあんたたち二人!風呂場の掃除、やり直しよ!」
「くっ!なんで私がこんなことを……」
「仕方ないですアマルル……魔王城を追い出されてお金もないし……」
「これも憎っくき勇者パーティーのせい!コスプレイーヤ!風呂場洗い直しに行くわよ!」
「あう~もう全身、筋肉痛だよ~」
なんと、従業員は魔王城を追われた魔王軍元四天王『秘穴の魔女アマルル』と『七変化の妖精コスプレイーヤ』の二人だった!
【子宝の間】
「お姉ぇ!温泉行こ!温泉!」
イクの腕を引っ張る!
「わかったから!引っ張らないで!もう……マーサ殿とデートなのに……」
「はははっ、行っておいでよ。俺もすぐ『男湯』に行ってくるから」
「混浴なくて、残念だったね~。ベ――!」
無邪気にあっかんべーをする。
まさかの『コンヨーク温泉郷』随一の宿『旅館 コウノトリ』には『混浴』がなかった!
【女湯『大浴場』】
「はぁ~気持ちいい……。来てよかったな~」
イクは湯船に浸かり、日頃の疲れを癒す。
「こんなすごい温泉を貸し切るなんて、マーサって何者なの?」
「マーサ殿か?マーサ殿はなんというか……大きくて……全てを包み込んでくれるような……共に上り詰めたい相手だな……」
「なにそれ?エッチな意味?」
「そんなわけなかろ――が!!」
バシャ――!っと立ち上がる!
「イク姉ぇの胸も、けっこう大きいと思うわよ」
アヤカは目の前の大きなおっぷにをツンツンする。
「バッ……」
バッシャ――ン!
バカモ~ン!と言いそびれて、慌てて湯船に入りおっぷにを隠す。
【男湯『小浴場』】
「はぁ~女将は嫌な奴だが、温泉は最高だなぁ~」
アマルルは掃除をサボって温泉に浸かっていた。
「ちょっとぉ!遊んでていいの?また怒鳴られるわよ~」
そう、いいながらコスプレイーヤも湯船に浸かる。
「真面目に働いてどうするの!我ら魔王軍元四天王だぞ!それに今日はあの女二人組の貸し切りらしいからなぁ~」
アマルルの大きなおっぷにが湯船に浮かぶ。
アヤカは宿帳にマーサの名前を書き忘れていた!
「こんないい宿を貸し切るなんて、よっぽどの貴族だね~。はぁ~、いいお湯……」
大の字になって温泉に浮かぶコスプレイーヤ。
二人とも私服のイクが剣聖イクと気づいていないそうだ。
ガラガラガラ!
突然、男湯のドアが開いた!
「ヤバい!女将か!?潜れ!」
ズブブブ~。
「へ、変化!!」
ドロンッ!
コスプレイーヤは女神フレイヤ像に変化した!
「はぁ~広いなぁ~貸し切りだぁ~」
入ってきたのは、もちろんマーサだ!
あ、あやつ!勇者パーティーの男!?ブクブクブク……。
潜ったアマルルがそっと顔を出す。
な、なんで、あいつがいるのよ~!
女神フレイヤ像に変化したコスプレイーヤが心の中で叫ぶ。
「お、温泉の真ん中に裸の女神フレイヤ像とは!さすが名湯!」
マーサはジャブジャブとお湯を掻き分けながら(コスプレイーヤが変化した)女神フレイヤ像へ一直線に進む!
きゃ――!!来ないで~!
「う~ん、実に見事な像だ!ぺたぺた……」
マーサはフレイヤ像をぺたぺた触りはじめた!
「あれ?柔らかいな?おっぷにも……もみもみ……やわらかい!さすが!名湯!」
バカ丸出しである。
絶対にバレるんじゃないわよ~!
頭を少し出したアマルルがコスプレイーヤを睨みつける。
わかってるわよ~!ん!こいつ、触りすぎ!んぁ!あ!あ!ああ――!!
「おや?湿気で女神フレイヤ像の太ももから水が垂れてきちゃった……舐めるか」
なんで、そうなるのよ――!!
「ペロペロ……ペロペロペロペロ!うまい!さすが!名湯!」
やはり本物のバカは違う!
あん!そこは!ダメ!!あん!あん!ああ――!!
微妙にクネクネする女神フレイヤ像!!
「あっ……おっきくなっちゃった……」
マーサのバナンポはビッグバナンポに成長した!
「ん?……なんだ、あの柔らかそうな岩は……」
アマルルは急いで湯船に隠れたが、お尻だけポカンと浮いていた!
「ペタペタ……柔らかいな!この岩!妙に触り心地がいいぞ!」
や、やめてぇ~!
アマルルの大きなお尻が災いした!
「おや?ここに小さな穴も開いてるぞ!?どれ……ほじほじ」
ぎゃ――!!どこに指入れてるのよ――!!変態にもほどがあるわ――!!
「……入るかな?」
マーサは『柔らかい岩』の『小さな穴』にバナンポを押し付けた!『穴があったら入れてみたい』マーサ、座右の銘である。
バカなの!?こいつバカなの!?バ……カハッ――!!
入れるのは得意だか、入れられるのは初めて!未知の衝撃がアマルルを襲う!
いっ!!いっ、あっ!そんな!!あん!私の……初めてのあ……あっ、ああ――!
スキル『年齢制限』発動中!岩に向かって腰を振るマーサをご覧ください。(それは、見たくない!)
「あ!気持ちいい!これは止まらない!」
激しく腰を動かすマーサ!同時に女神フレイヤ像も揉みし抱く!
んあっ!やめっ!あ――!んあ――!!だめ――!広がっちゃう――!!
ちょっ!んん!!やめて!!だめ!だめ――!!先っぽ舐めないで――!!
「で、出る――!!」
マーサはバナンポジュースを『大きな柔らかそうな岩』と『女神フレイヤ像』にぶちまけた!
ああ――――ん!!!!
いやぁ――――!!!!
声にならない声が温泉の湯気にまぎれてこだました。
【子宝の間】
「はぁ~さっぱりしたぁ~」
「マーサ殿!遅かったな!」
「わっ!二人とも浴衣姿!かわいい!」
「あ、当たり前でしょ!温泉なんだから!褒めたって嬉しくないんだからね!」
温泉上がりの棒アイスを食べながら嬉しそうに言うアヤカ。
「男湯はどうだった?女湯は広くてよかったぞ!」
少しはだけた浴衣が色っぽいイクが尋ねる。
「めちゃめちゃよかったよ~」
スッキリした顔のマーサに、負けず嫌いのアヤカが睨む!
「ふん!女湯のほうが大浴場でおっきくて、気持ちよかったんだから!」
手を大きく開いて大浴場を表す。
「あっ!こぼれる!」
アヤカの手に持ったアイスが垂れそうになり、イクが急いで口に咥える!
「お姉ぇ……いやらしいよ……」
「ちゅぱちゅぱ……お前が垂らすからだろ~が――!!」
「姉妹っていいなぁ……。あっ、そういえば柔らかい岩よかったよね~。女神フレイヤ像も堪能したし……」
「ほう?女湯にはそんなのなかったぞ」
イクは腕を組み興味津々だ。
「柔らかい岩ってなによ!女神像もなかったわよ!!」
アヤカは悔しそうにする。
「あれ?なかったの?男湯だけかな?まっ、いいか!また、あとで入ろうかなぁ~」
「私も男湯に入る!」
アヤカが立ち上がる。
「こら!アヤカ!男湯に入っちゃダメだぞ!」
イクがアヤカの腕を取る。
「貸し切りだから、いいんじゃない?」
マーサはアヤカの腕を取るイクの浴衣がさらにはだけたのを見逃さない!
何気ない会話をしながら、浴衣からこぼれそうなイクのおっぷにを堪能した。
「お姉ぇも一緒に入って!」
「はぁ~アヤカは言い出したら聞かないからな……夕飯食べたら入るか……」
「や、やったね!」
混浴と思って喜ぶマーサ。
「スケベ!ちゃんとタオル巻くからね!」
アヤカがマーサにビシッ!っと指差す。
「え?マーサ殿も一緒に入るの?」
イクはアヤカから手を離し、乱れた浴衣に気付き、そそくさと浴衣を直す。
「当たり前でしょ。バレて怒られたら嫌だもん!」
何かあったらマーサのせいにしようと企むアヤカであった。
「マーサ殿と一緒に……温泉……」
整った浴衣姿のイクが頬を染める。
【同時刻 男湯】
バシャ!!バシャバシャ!!
やっとの思いで温泉から這い上がる元四天王達!
「わ、わたしの初めてを……あの男……許さんぞ!!」
アマルルがお尻を押さえながら立ち上がる。
「私にあんなもの飲ませて……この恨み晴らさでおくべきか!」
変態マーサはバナンポジュースが温泉に入ると怒られると思い、出したバナンポジュースをかき集めて、女神フレイヤ像(変身したコスプレイーヤ)の口に全部流し込んで証拠隠滅を謀っていた!
ガラガラガラ!
「あんた達!こんなとこにいたのかい!夕飯の支度するよ!来な!!」
女将が男湯に乗り込む。
『は、はい……』
アマルルとコスプレイーヤはトボトボと女将の後についていった。
<後半へ続く!>
【おまけ小説】
「なによ!フレイヤ像も柔らかい岩なんてのも見当たらないじゃない!」
バスタオルを巻いたアヤカが男湯を見渡す。
「あれ?おかしいなぁ~」
マーサがキョロキョロする。
「……うぅ~恥ずかしい~」
バスタオルを全力で握りしめるイク。
「ま、温泉は気持ちいいわね……。イク姉!お湯に浸かる時はタオル取る!!」
アヤカがイクのタオルを無理やり剥ぎ取る!
「いやぁ――!!!!」
イクのおっぷにが温泉のお湯を弾きながらマーサの目の前でまるでバスケットボールのボールのように激しく弾んだ!
「……温泉……最高!」
温泉は……最高だった!
<後編へつづく!>




