53.トルミエ・ゴッダランという男
ポリ ヴァ ┌─────┐
┌─────────┐ │ │
ティ│ 飯 飯 飯 飯 │雨 │ 受 │
│飯 飯 飯│ │ │
トル│ 飯 飯 飯 飯 │夏 │ 付 │
└─────────┘ │ │
カセ グリ └─────┘
トルミエは面倒臭そうに立ち上がる。お酒も入っているのだろう。ダルさが伺える。
「自己紹介すればいいんすよね。じゃあ、さっきとおんなじ要領でやるわー」
さっき話し始めてから少ししか経っていないけど、もう分かる事がある。凄くタメ口だ。筋肉ムキムキでこの口調は、何というか、凄いギャップを感じる。大体こういう感じの人は敬語で話すのだと決めつけていたけど、その常識が今覆された。
やはり、この星では地球で当然だと思っていた事の何もかもが違う。
「僕の名前はトルミエ・ゴッダラン。二つ名は超癒のトルミエ。語尾がぱっとしないのが特徴だな。トルミエかゴッダで呼ぶと僕は馴れ馴れしくなるんだな」
「おい俺の語尾真似すんな」とポリテルが速攻でツッコミ。
「えーっと、職業は冒険者と動物愛護団体に所属していて、冒険者の役割はヒーラーっすわ。なんか絶対タンクとか向いてるとか言われるんすけど、痛いの基本的に嫌なんで、遠距離でサポートしながら回復に回ってる」
駄目だ。脳への糖分が足りそうにない。この見た目でヒーラーとは!? 語尾以外に絶対もっと凄い特徴あるでしょ!? しかも動物愛護団体だって!?
……やっと気付いたかもしれない。どうやら、このパーティは見た目だけで判断してはいけないようだ。何もかもが可笑しすぎる。今持ち合わせている常識がマトモに通用しない。
半ば呆れ気味に、溜め息を吐いて横目に雨音の方をチラリと見ると、頭を抱えて『ドユコト!?』の顔をしていた。
うん、分かるよ。理解しようと必死なんだよね。Sランクはそういう者の集まりだと、ちゃんと脳に教え込まないとね。
「お前の筋肉は戦闘に役立たずして何に使えるんだかな……」
「ポリテル、君には何度も話したが、これは動物を護る為にある物。決してこの体を血で染めるような真似はしたくない。痛いのもあるけど、動物に血の付いた手で触れたくないんだ。だから、僕はヒーラーをしている。てか、そもそもヒーラーこのパーティーに僕しかいないじゃん。役割分担は大切でしょうがぁ」
え、何か動物愛護の説明だけめっちゃ真面目に話すじゃんこの人!!! そういうある一定の事だけに特化してる人なのかな。
だとしても話し終わったタイミングから切り替え早すぎて多重人格者だと疑っちゃうよ。完全に話し方が別人だもん!
……あー、なんだか流石に疲れて私も眠くなってきた。今の時間はっと……8時? 全然まだ早い。絶対早起きしちゃう。5時とか。そうすると昼にはまた眠くなりそうだし、せめて9時半までは起きたい……!
私が絶えず襲ってくる眠気と大奮闘していると、トルミエはこんな話題を持ちかけてきた。
「そう言えば、まだ僕等のパーティー名を言ってなかったんじゃないんすかね?」「確かに、言ってないな」
目が冴えた。
パーティー名。そんなのがあるんだ。私と雨音もいつかパーティー名考えなきゃなのかな。でも、私そういうの考えるの苦手なんだよなあ……雨音に頼もうっと。役割分担は大切なんだもんね!
「んじゃ、僕等のパーティー名紹介するぞー」「ドキドキ……」
どんな個性的なネーミングなんだろう。多分、想像もつかないような凄いダイナミックな名前なんだろう。ちょっと期待。
「僕等ね、グリフ以外みーんな本名に「ル」が入ってるんすわ」
「確かに、ヴァヴェル、ポリテル、トルミエ……皆「ル」が入ってる」
「これから紹介するティリア・ルマドって奴とカセ・ユリェr、ユリリェr、……ユリェルレもそうっすね。……ったく、何でこんな噛みやしぃ名字しやがるんだカセの野郎!!!」
「噛みやすい名字で悪かったな、脳筋」「んだと毒舌男」
カセの野郎、と挑発を受けて立ち上がり、口論に発展させたその男はまたしても、『筋肉ムキムキ』だった。しかも背丈はほぼ、いや、同じだ。しかも色違いで蛍光色の緑だがニッコリマークの被り物も被っている。え、双子?
でも、二人の姓名どっちも全然統一性がない。どうなってるの?
「毒舌男? おお、そりゃあ僕にとって褒め言葉だな。それに比べて脳筋と来たら脳筋なのにヒーラーの仕事立派にこなしちゃって? 全く、脳筋の恥晒しじゃねえのか?」
「黙れや。僕は脳筋じゃねえしそもそもヒーラーの仕事も立派に味方を護る為に力使う脳筋の仕事……あ、違う人の仕事なんじゃい!」
「え、今脳筋って自分で言った。言ったよー! 自分は脳筋だと認めましたはいー!」
……見苦しい。今私は何を見せられてるんだろう。ムキムキマッソー二人が口論してるとこなんて誰得だろう。
しかも多分仲裁役のお二人が眠ってしまっているからどうにもならないぞこの状況……!!! 配席も近いし喧嘩になりかねそうな雰囲気が漂うなあ……
「うるさいうるさい! そういうとこが僕は気に入らないんだ! 揚げ足取るような事言って、屁理屈ばっかりで、もう少し真面目に口論する気はねえのかよ!」
「口論してる時点で真面目じゃねえよ。もう少し頑張って頭使えって、それだから闘い方もマトモに分からずヒーラーに成り下がったんじゃね?」
うわあ、痛い所グサグサ刺すじゃん。酷いって。何でこんな人とパーティー組んでるんだろう。何か理由あるのかな。
「あーもう怒ってい゛い゛か゛な゛あ゛!?」
そろそろトルミエの限界が近そうだ。ていうか、もう限界突破してそうだ。温厚そうなトルミエを台詞三つで激昂させるとは、カセが毒舌過ぎるのか、ただトルミエが短気なのか、うーん、どっちなんだろう。
考えても答えは出ない。なら、そんな下らない事考えなくたって良さそうだ。現状、悪いのはカセの方だ。自業自得だろう。
「あ、やべ、やりすぎた」
「ぬおあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
トルミエが謎の雄叫びを上げると、なぜかニッコリマークの色がみるみる変わり、赤色になってしまった。え? トルミエってそういう変身する系の人なの?
「もう我慢できねえ、叩きのめしてやらぁ!!!」
す、凄く嫌な予感がする。確か、優しい人は怒らせるととんでもない事が起こるってきいた。もしかすると、トルミエは怒らせるとヤバい性格なのかもしれない!!! 手に負えなくなるとか、そういうレベルで……
「コロス、コロス、コロス!!!」
トルミエの拳がカセに降りかかる。不味い、こんなムキムキマッソーのパンチなんて食らったら耐えられる訳が……
「トルミエ Dだ。OのMでSはDDRう。Yろ。ISG」謎の声が掛かる。
すると、トルミエの動きが機械のようにピタッと止まり、すぅーっと赤色から黄色へニッコリマークの色が変わった。そして、元いた席に静かに腰掛けた。
今の声は、残っている仲間から察して、ティリア・ルマド、という男が発した物だろう。OのMでSって何なんだろう……
「お、おお、サンキューティリア。ハハ、もうわざとトルミエをズリータモードにさせるのはもうよして置くか……」
「あなたも見た目は脳筋と変わらねぇじゃないですか。何を他人事のようにほざきやがって……」
ティリア・ルマド。また変な人だ。西部劇のガンマンが被っていそうな帽子を深く被っていて、目元は良く見えない。でも、ガタイからして何かダンディーな雰囲気を感じる。
そして、服装もまたガンマン風である。銃は……立って確認したけどどうやら持っていないみたいだ。もしかしたら、魔法を銃として使っているのかも。
そして、なぜか椅子の上で正座をしている。辛くないのかな。
後、ガンマン風のかっちょいい服がボロボロだ。まるでさっきまで闘っていたような。でも、周りの人達は傷一つない。この人本当にSランクなんだよね? 金欠な訳、ないよね。
「悪ぃ悪ぃ。ちょっと調子乗った。次はあんな真似しねぇよ」
「一生やるんじゃねぇよ、カセさん」
それと喋り方が凄い気になる!!! タメ口なのか敬語なのか訳分かんないって! 外国人の方ですか? まあ、この言語理解の翻訳が問題の可能性あるけど……
《補足。スキル 言語理解は完璧な翻訳を提供します。その為実際にこういう喋り方だと推測します》
あ、久しぶりにアナウンス聞いた。なるほど、じゃあ、本当に癖みたいな物って事ね……
「はいはい、分かってるって。はあ……まあいい。おい、トルミエ、さっきの続きだ。話してやれ」
何とも無責任な……でも、これでパーティーが成立してるって言うんだから、まあ悪くないメンバーなのかなあ……
「続き? ああ、あれか。だが、その前にズリータモードについて多少話した方がいいんじゃないのか?」
「じゃ、そうしろ」
「分かった分かった」
ズリータモード。さっきのニッコリマークが赤色になって暴走する奴の事だろう。自我が保てていないようだったから、ちゃんと自覚はある事に少し驚いた。
「ズリータモードは、僕の怒りパラメータが100%に達すると発動するんだ。その時の僕は自分でいうのも何だけど、手を付けられない程に凶暴化する。その時、意識はあるけど、体が操られたかのように言うことを聞かなくなるんだよ」
つまり化け物になる、と。さっきのが暴れられたら、一溜まりもない。正面から闘えば、間違いなく即死だ。
「じゃあ、敵と対峙した時にそのズリータモードになると?」
「そりゃあ、お察しの通りだね。気が付いた頃には、全て終わってる。僕がズリータモードになっていた所を見た人の話に依れば、グリフよりも強いんじゃないかと言っていたよ」
「そ、そんなに……」
やっぱり、Sランクは誰も侮れない。強さで言えば全員トップクラスだろう。それは忘れてはいけない情報だ。うっかり性格で判断しては命が幾つあっても足りなさそうだ。
「それで、ズリータモードになった僕を元に戻す方法だけど、これは一つしか方法がないんだ」
「もしかして、ティリアの謎の声の事ですか?」
さっき聞いた限り、アルファベットと日本語が混ざったように聞こえた。暗号のような物だろうか。
「そう、その声の話だけど、どうやらティリアのBT文には僕の精神へ直接働きかける効果があるらしいんだ。そうティリアが話していた」
すると、ティリアが私の目で認識できるかどうかレベルの小ささで頷く。絶対自己完結しちゃってんじゃん。話関わる気0なの……?
まあ、話を戻そう。
「ズリータモードについては良く分かりました。では、パーティー名の話の続きをお願いします」
「……えっと、どこまで話したっけか。ああ、思い出した。それで、グリフを覗いた僕等の本名全部に『ル』が入ってんすよ。だから、五個の『ル』と、一個の『グ』で、僕等のパーティー名は」
「パーティー名は……?」
「fillgって言うんすわ。fiはfiveから取ってる。意味は、特にないっす。思い付きでグリフが付けたんで、そのまま使ってるんだな」
「俺の語尾ぃぃぃ!!!」
とまあ、fillgの皆が皆騒がしい騒がしい。これでも、二人ダウンしているというんだから、全員同時に喋ったらとんでもない事になりそうね……




