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8.見知らぬうちに、強くなる

「こ、これは………」

「ロ、ロブスター?」


 見た目はまさにロブスターだ。赤と黒が混じったような外骨格に覆われ、とても大きなハサミを持っている。

 疑問点とすれば、砂漠になんでロブスターがいるんだ?正確にいえばこの魔物はロブスターではないんだけど……

 それに何で今こうして俺は冷静になって考えているんだ?今はそんなこと考えている時間じゃない! なぜなら……


「このロブスター、十メートルは当たり前のようにあるよ……」


「とんでもないビッグサイズね。でもこれは本物のロブスターじゃない。『魔物』。こんなに大きなロブスターがいてたまりますか」とアリスが訂正を挟むと、「ギィァァァァ!!!」と何かコイツが叫びだした。


 鼓膜が破れそうなくらい五月蝿(うるさ)いの威嚇の仕方だ。


「耳の中がが痛いよ……」

「闘うことは避けられないのか?」


「そうなんじゃない? とりあえずこの合体した石の力も知りたいし、悪いけど魔物さんにはちょっとしたサンドバッグになってもらいますか!」


 サンドバッグって……


「そうだな。そろそろ魔物も攻撃してきそうだ」

「私から行く」


「おぉ、そうか。夏目、良いのか?」「まぁ、良いよ。アリスの力も知りたいしね」


 上から目線だなぁ……


「すぅぅ、はぁぁぁ」


 神石に意識を集中させる。今回は相手が相手、最大火力で水爆を放つ。魔物もこちらに歩をよせていっている。


 攻撃される前に間に合うか


「間に合う?」「大丈夫。安心して」


 魔物がこちらに飛びかかってきた。だが、こちらの方が僅かに早い


 魔法陣展開。極炎。


 強烈な爆発音が耳から全身へと伝わっていく。見事魔物の顔面に直撃し、腕が一本吹っ飛ぶのが見える。だがあまり手応あえがないようにも感じた。なぜ……?


「ゲホッゲホッ! ど、どうなったんだ?」


 流石にアリスやりすぎだよ……俺等まで死ぬとこだった……

 まぁ魔物を倒してくれたことには感謝だな。


 爆発が収まり、辺りを見渡してみる。


「あ、あんなとこまで吹っ飛んでる!」


 ロブスターは100メートル近く飛んでいた。あんな図体のを相手に良くあそこまで出来るな……


「ホントだ! 凄いじゃん! あんなのをアリスがやっつけちゃったんだよ!」


「いや、でも手応えはあったんだけどまだ倒せていないような気もする……」

「別にそんなことないって!だってあんな攻撃をまともに食らって生きてるわけないでしょ?」


 「夏目……流石にフラグ立てすぎだって……」


 フラグというのは、ツッコむとまた更にフラグ回収の確率が上がると言う。つまり俺は、フラグに拍車を掛けたのだ。


「でもあれで生きてたらもう化け物でしょ」

「魔物も化け物の類じゃない?」


「あっ、そっか」と言い、夏目が魔物に目を向ける


「動いて……ない……よね?」


 なぜか不穏な空気が漂う。


「流石に、な?」

「うん。でも嫌な予感がする。自分でも分かっているんだけどあの巨体なら何か呆気ないような気がして……」


 こんな空気になったらとりあえずこの場を去るのが一番良いと俺の直感は言っている。

 それは正解かもしれないな。だってきっと二人とも疲れているはずだし何より自分だってそうなんだよー!!!

 あぁ、早く帰ってベッドに横たわりたい……


「とりあえず帰って陛下に報告するのはどうだ?実際俺等はここに来ていることを陛下に伝えていない訳だし」

「陛下?」


「あ、そういえばまだアリスには言ってなかったな。実は、俺と夏目は王城に住んでいるんだ」

「なるほど。把握」


 夏目が不思議そうな顔をして後ろの方を見ている。


「? ? ?」

「どうした?」


「いや、私達がここに来たときに使ったらあのワープホール兼タイムマシンの機械あるでしょ?あれからさっきから煙が上がっているんだけど……」「え!?」


 アリスが思いっきり後ろに振り返る。


「あのな、夏目……そういうことはもうちょっと早く教えてくれた方が良いと思うよ……」


 恐らく、この一瞬で人生が大きく左右された。それだけ、人生というのは簡単に崩れる物だ。


「え、あ、いや……その……すいません……」

「だ、大丈夫だろう……きっとアリスがこれを作れるぐらいならちゃんと直してくれ」


 アリスの顔を見た瞬間、すべてを察した。


「あ、あ……あぁ……」


 あ、あの顔はもうどうしようも無いほどに絶望している時の顔だ……

 仕方ないか。いや、仕方ないで済ませられるような事ではないだろ! ワープホール兼タイムマシンだぞ!

 アリスが作らなかったらどれだけ時間を掛ければ出来上がる代物なんだ? 100年か? それとも1000年か? いやそれ以上か? 何しろここでは資源も少ない砂漠だ……

 ドンマイと言うべきなのか? いや、逆に傷つきそうで怖い。女の子を怒らせたら酷い目にあってしまいそうだ……

 ここはそっと見守るのが正解なのか……


 結局俺は何も言う事が出来無いままアリスが口を開いた。


「はぁ……一体どうやって壊れたっていうの……私の、超大作のこの機械が……」


 そういえばアリスは『機械』というだけでこの機械の名前を言わないな。どうしてなんだろう?

 一般的な科学者ならこう言うのには名前を付けるのが定石という所だと思うけど。いや、まさかこの『機械』の名前を口にしたくないのか? でも、そんな誰かに言いたくもないような名前を付けるものか?

 ま、まぁいいや。これはとりあえず後の話! まず、何故この『機械』が壊れたのかを……


 妙な追い風を感じ、俺は咄嗟に宝物庫から持ってきた剣を引き抜いた。

 そして振り返り、すぐさま剣を振り下ろした。手応えがある。

 透明の何かが攻撃を仕掛けている、だがその正体は攻撃したことにより見えるようになった。すぐに正体を理解した。

 ロブスターの魔物、だった。


 〜魔物について〜


 魔物は生まれつき一つだけ魔法を使うことが出来る。

 魔法の種類は様々で、中には神石では作れない魔法を与えられることもある。

 突然変異を起こすと、急激に知能が発達し、色々な基礎ステータスが強化される。

 また、神石を使わずに様々な魔法が使えるようになる。


「!?」「えっ何!?」


 アリスの目が少し潤んでいる


「さっきの魔物!? 何で生きているんだ!? アリスが倒したはずじゃないのか!?」


 剣に更に力を込める


「クソっ! こいつどんだけパワーあるんだよ! 俺の力が無いだけかも知れないが……!」


 夏目が慌てた口調で俺に向かって話し掛ける。


「こ、光喜!? 大丈夫!?」

「な、何とか……」


 ん? いや、待て。この魔物は一体どこから湧いて出てきたんだ? さっきまで何もいなかったはず……

 待て、冗談みたいな話だが、透明になれたりするのか? いや、流石にそれは無いか。でもこの世界には魔法という物があったからな……

 ならもし透明になることが出来たとすれば、さっきまでここにずっといた事になる。つまり俺等が気を抜くのを待っていたということだ……


 『知性』


 こいつには知性があるのか……


 アリスが倒した魔物の方を見てみる。

 やっぱり死骸がある。もしやこいつは別の魔物?なら他にもいる筈……

 辺りを見渡す。

 駄目だ。見えない。いつ攻撃されるかもわからないのは危険すぎる……


 もう一度死骸の方を見てみる。


 中身が、無い?えっとそれはつまり……脱皮したということなのか?

 脱皮……ロブスターと酷似しているならありえる。違いといえば脱皮のスピードが異常ということか。

 それなら『魔物』という言葉だけで説明がつく。


 あれ? そういえば……何で俺はこんなでかい魔物の攻撃をしっかり受け止められているんだ? 柔道とか剣道やってたけどもここまでの力はないだろ!

 もしかして合体したあの石が原因なのか? それだとしたらマジで有難(ありがた)すぎる!

 それにしてもこいつのパワーエグい……一旦後にジャンプして引こう。


 その瞬間、魔物がとても小さくなったように見えた。後ろに下がるのにも限度っていう物があるだろ……

 相手が小さくなったのではない。俺がめちゃめちゃ後に下がったのである。

 もしかして力だけじゃなくて脚力とか体力とかそういう基礎ステータス的なものが全部大幅増加したとかそういう感じなのか!? まぁ良い事に越したことはないけれども!


 とりあえずもう一度近づいて確実に攻撃されないようハサミを切り落とす!

 戻ろうと走ると、六歩走っただけでもう帰ってきた。これが本当の俊足か。


「ギィィァァァ!!!」


 ハサミで殴りかかってくるが、攻撃が遅く見えた。

 それなら後ろに回り込んでハサミを切り落とす!


 ハサミはこの剣の前では容易に体から断ち切られ、すかさず魔物が声を荒らげた。


「ギィィァアァァア!!!」


 こりゃ断末魔だな。もう一息だ。なら、間髪入れずもう一つのハサミも切り落とす!

 ジャンプして結構な高さまで飛び上がって驚いたが、そのまま間接を上手く狙ってハサミを切り落とした。

 二つのハサミを切られてしまった魔物はもう声の一つも出せないほどに痛み苦しんでいる


『流石に楽にしてあげよう』


 そう言って俺は魔物の首を切り落とした。

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