51.災害クラス
口に運びかけていた箸がピタッと止まる。災害クラス? じゃあ、あのロブスターは、ビッグ・バンっていう名前で、災害クラスの魔物……!? 光喜ってもしかして凄いの!?
「あー。さっきの話から推察して、もしかして知らないのか? 災害クラス」
「あ、何かすいません……」
ここに来てから一ヶ月とちょっと。光喜に会ったのがアインザムカイトに来てから2日位だから、つまりは地上にいたのはたった6日か7日と言った感じ。そりゃあ何も知らなくて当然だろう。
と、真っ当に見せかけた言い訳をしてみる。7日もあれば図書館とかに行くなり調べ物位できた筈。全く、優先順位は付けてから行動するんだった……
「まあ気にすんなって。で、災害クラスの話の前にまずはビッグ・バンについて説明した方が良さそうだな」
「はい、そもそもあれがヤバい奴なんて気付きもしませんでした。この星ではこういうのが当たり前なんだろうな、って」
異世界小説や、アニメ、そういう類の物は大体強敵がわんさか出てきて、主人公が颯爽と片付けていく__みたいなのが多い。だからこの星でもその常識が適応されている、と勝手に思ってしまったんだろう。
一応見知らぬ土地なんだし、そもそも小説とかアニメは創作物だ。元いた場所の知識になんて当てにせず、新しい物として捉えなければ。
「もしそれが本当だったら俺等冒険者やってらんねーって。ただでさえ災害クラスはクラスBから図体デカくて街への被害とか考えてダルいってのによ、それがあっちこっち現れようもんなら誰でも剣投げ出して手上げて降参するわ!」
グリフがそう言うと、5人が一斉に「それな!」と言う。ある種、仲間の証的な物だろう。確かに、これは仲間じゃないと実現できない業だ。誰かが仲間に紛れていてもこれであぶり出せる訳ね。
「そうなんですね……じゃあ、ビッグ・バンってのは強さで言うとどの位なんですか?」
「そうだな……最近、クラスAが12体に増えて12強って言われてんだよな。それで、勿論クラスAの奴はA1からA12までいるんだが、その中だと一番弱い方だな。まあ、かと言ってビッグ・バンが弱い訳じゃないんだけどな。俺等も最初遭遇した時は苦戦したよ」
「闘った事があるんですか!?」と、間髪入れず質問をする。やはり経験者は格が違う。できるだけ質問をしないときっと後悔する。
後悔は嫌なので忘れかけていた食事も進める。見た事のない野菜だけど、どれも美味しいや。
「おう、今から大体3年前位だ。その時はSランクになりたてだったから、かなり苦戦したな。透明になるっていう情報は元から知っていたが、初見じゃ対応するのはかなり難しかったのを覚えてる。攻撃力も本当にエグくてな、危うく吹っ飛ばされる所だった。あんた達もそうだったろ?」
……実際私はただ光喜を見守っていただけで、何もしちゃいなかった。何もできなかった。光喜が颯爽とソイツの腕を切り落として、最後に倒して__あれ? 光喜って、何だか主人公みたいだな。
まあ、あの人が主人公じゃないなら、誰に主人公が務まるんだ、ってね。
「いや、ビッグ・バンに遭遇したのは事実なんですけど、その……私じゃなくてもう一人の仲間が倒してくれたんですよ」
「あーお仲間さんが。あのビッグ・バンを倒しんたんだったら、そりゃあ心強い味方を持ったもんだな。で、その仲間はどこに?」
……予想していた通りのその質問にはもう私は「分からない」しか答えられなかった。
どことなく悔しい思いが込み上がって全身にまんべんなく巡る。質問に答えた今の私は、輪ゴムを千切れる寸前まで引っ張ったかのように他方からの力が掛かればすぐにでもはち切れて脱力してしまいそうな、そんな心情だった。
「分からないって、もしかして、ビッグ・バンを倒した時にどっか行っちまったのか?」
私は、その質問に答えるまで時間がかかった。もしかしたら今の質問で何か途切れてしまったのかもしれない。
でも答えない訳にも行かないから、ズシリと重力が何倍もかかっているような気がする頭を上手く上げれないまま答える。
「いえ、その後です。王都に戻った時に、冤罪でその人は地下で奴隷として終身刑になりました。どこにいるかなんて、さっぱりで……」
私がそれを言った途端、このギルド内が水を打ったように、はたまたその場にいた全員が私の話を聞き、息を呑んだかのように静かになった。
雨音の方にそっと目をやると、俯いて暗い表情をしていた。そして、傍観者みたいな雰囲気の私もそんな顔をしているんだろう。
会いたい。それだけでいい。一度でも会えたら、多分私は嬉しくて泣いてしまう。それだけ、私にとって光喜は大きな存在になっているのだ。
静まり返ったギルドで最初に声帯を震わせたのはグリフだった。
「お、おう……そりゃあ悪い話を聞いちまったな……」
この謝罪で、何故か私の心が少し軽くなった気がした。
白米を口に運び、お茶を1杯飲み干す。頬を軽く叩いて気分を紛らわし、次の質問に続ける。
「いえ、気分を害させてしまったのはこちらの責任です。どうぞ、話を続けて下さい。そうですね、グリフ達6人の事が知りたいです」




