44.魔法付与
ふと、昼過ぎにこんな事を思った。
「魔法付与」とは、自身が放つ魔法を物体、或いは人などに付与し、その効果を移動させる物だ。
具体的に言えば、「魔法付与 炎濔」は自身の拳に魔法を付与する。その時、拳は炎濔の熱と殴る力が加算され、より大きな力となる。
後は殴るだけだ。でも一回待って欲しい。
そもそも、魔法付与とは何なんだろう? 魔法は自身の酸素を神石が魔力に置き換え、魔方陣を展開して放つ。
なぜ自身の酸素じゃなければいけないのかをアナウンスさんに訊いた所、酸素にも思考や感情が溶け込むそうで、それを元に魔法を放つ為、主に脳の酸素を魔力に置き換えているらしい。
つまり自身の酸素じゃないと意味がないって言ってた事だ。
話を戻して、魔法がこんな感じで放たれているとしたら、魔法付与はどのようになっているのだろう。
疑問に思わず使っていればいいのに、いちいち説明が欲しくなるのは私の性格上の問題だ。雨音だってきっと気になってしょうがない筈だ。
魔法付与の原理について考えられる事は二つ。
一つ目は、魔法を放つ情報を持った酸素が一旦魔力に置き換えられ、その後魔法付与する場所に流し込まれる、という原理。
これはかなり確証がついていて、この前実験してみた所、5m離れてしまうと魔法付与が出来なくなっていた。
魔力を操作する精密性は5mが限界。そういう考え方が出来る。
二つ目は小さい魔方陣を展開して付与しているように見せかけているのではないか、という原理。
自分で考えたが、流石にこれは却下だ。アナウンスさんに訊いて、答え合わせと行こう。
《魔法付与の原理は前者が正しいです。推察通りの原理ですので、私からは何も言う事はありません》
まさかの全問正解だ。何一つ間違ってないとは、私の勘も鋭くなってきたのかな?
この四週間、毎日新しい階層に挑戦しては苦戦を強いられ、今まで生きてきた。明日は第三十階層。大体節目の階層は強い敵が出てくる事は経験上分かっている。だが、その敵がどんな攻撃をしてくるか、とかは全く知らずに初見で対応しなければならない。気を引き締めるのには変わりない。本気で闘いに臨む、それだけだ。
◇◇◇◇
「もうそろそろいい頃合いなんじゃないか? ビガイ。熱いバトルも見ものだが、それよりも重要な事があるだろう?」
これまで四週間にも渡る長期の観察を経て、やっとその言葉をタカユキから聞けた。この日を待っていた。
「マサカアヤツラニ29階層マデ制覇サレルトハ思ッテモイナカッタ。コレ以上放ッテオクトタカユキデモ勝テルカ怪シイ。ショウガナイ、決行ダ」
そう言うと若干早歩きでタカユキはドアを開けてアヤツラのいる方へ向かって行った。
計画はまだ順調に進んでいる。焦る必要はない。後はタカユキに任せ、俺はクローン制作に戻るとしよう。もう十分アヤツラは強くなった。その分クローンが強くなる。これこそ俺の望む最高点だ!
これを街に解き放った時、アヤツラとの地獄の戦争が始まり、その間にこの星をブチ壊してやる。その時まで俺はここで稼働し続ける……!
◇◇◇◇
相変わらずビガイは執念深い。一度された事は二度と忘れないんだろう。
さてと、あの二人の牢屋はここか? 牢屋の癖にダブルベッドがあるのが少々謎だが……そんな事は気にしなくていい。お前達はもう用済み。ここからは立ち去ってもらうからな。
「おい、お前等。久しぶりだな」
余っ程暇なんだろう。二人共即座に気付いてこっちを見るなり、近付いて来る。危害を加えて来る様子はなさそうだ。良かった。
「あ、アンタ!!! よくもまあ私達をこんなとこに連れて来たわね! どれだけ私達が苦労しているか知ってるの!?」
「ああ知っているさ。あんたらの行動は監視していたし、どれだけ苦労しているかも知っている。だが安心するといい。懲役64年と聞いて何か勘違いしていたようだが、あれは嘘だ。あんたらはもう釈放する」
突然の言葉に脳がバグった。釈放!? 何を考えているんだこの人は! しかも懲役64年が嘘だと言っているが、そもそも私達は何の罪も犯してないのよ!!! 光喜は終身刑だなんて言われてたし……
失礼極まりないでしょ! 本当にコイツには色々と人生を狂わされた。今ここで殴ってやりたいけど、殴る資格があるのは光喜、ただ一人だ。
「霧谷光喜という奴が仲間にいたようだが、アイツとはお別れしてもらう。利用価値が無かったんだ。労働者として雇った方がいいと思ってね。もういいか。俺には時間がない。早くここから立ち去って後はその実力を活かしてこの星を生き抜くといいさ」
牢屋の鍵を開けて立ち去ろうとする隆幸を放っておく訳には行かない。
「ちょっと待ちなさい。光喜の利用価値がなんですって。私達はアンタに利用されてるって言いたい訳?」
「そう言えばそうなるな。それで質問は終わりか? なら、もう自由にするといい。この星での行き場は俺のせいで無くなっているだろう。副騎士団長のエーリアが学校を開いているそうだから、そこで勉強でもして寮生活を満喫してもいい。その実力なら優遇される事は保証してやる」
その事を最後に、隆幸は暗闇へと消えて行った。何かモヤモヤする。こんなあっさりはい釈放って、余りにも可笑しい。それに、光喜は絶対に生きて帰って来る。大丈夫。絶対にこんな所で死ぬ人じゃない。
それに、ここで釈放したのには何か裏がある筈だ。それを知らなければ終われない。強くなって、隆幸から全てを聞き出してやる。
牢屋の外のすぐそこにはエレベーターがある。今までは牢屋を壊してはスモーアに襲われて死んでしまうのは分かっていたし、不意を付いたとしてもエレベーターが来るまで時間がかかってどっちみち駄目だった。
やっと乗りたかったエレベーターに乗って外に出る。着いた場所は良くある民家の裏側だった。誰も気付かないような場所だな、と染み染み感じる。
外の空気はやはり美味しい。雨音もそれを実感しており、ずっと太陽光を浴びてこなかった白い肌に思いっきり焼き付ける。
人の声がする。賑わっている楽しそうな声。これが聞けただけで凄く生きていると実感出来る。
出店の並ぶ道に出て、人に見られたりもしたが、何も言われなかった。もう私達の事なんて忘れ去られたんだろう。
何が行き場なんて無い、よ。全然あるじゃない。騎士団長様が脅しなんて、今時流行らないのよ。
「雨音、行こうか」
「うん!」
私達の最初の目標は、お金を稼いで学校に入学する事だ!
だって、今の私達にはそれ位しか光喜の為になる事ができない。無闇矢鱈に動けば入れ違いも起きる。光喜と会うまでは、居場所を見つける事が最優先だ!




