5.目的への一歩
◇◇◇◇
部屋の中で温かいカーペットの上に二人きりで座る。夏目には毛布にくるまってもらった。うーん、ここは天国か。
「大丈夫?」
実際大丈夫ではなさそうだが。
「ちょっとまだ寒いかも……じゅるっ」
「そ、そう……」
何か、いけないとは思うんだけど、ずっとこうしていたい……気が、する。
「それで、これからどうするの?」
「う~ん。何か忘れてる気がするんだよな~」
「あっ! そういえば四日前に陛下が明日から神石の調達を始めるって」
よ、四日前? おいおい俺いつまでベッドで寝てたんだよ。そんなにあの魔法を撃つのは危険だったのか……?
「あぁ!そうそう神石の調達だ!すっかり忘れてたかも」
「そのために私達ここに連れてこられたんだけどなぁ……」
……それもそうだな。
◇◇◇◇
「よう!二人共!」
「こんばんは。フーカさん」
「今日の晩飯は何食ってくか?」
う~ん……
「ではこのヴィゾンダヴァーという食べ物をください」
と、メニューに描かれている物を指差す。
カレーか? これはカレーなのか? 見た目はごく一般的なカレー。味はどうなんだ? それは食べてからのお楽しみか。
それより、何でこんなに地球にあるメジャーな食べ物が勢揃いしてるんだ? メニューの中をみれば、唐揚げ、炒飯、ラーメン、ましてや焼肉定食なんてのもある。これは完全に地球の食文化を盗んでいるに違いない。
「私もおんなじので!」
私も初めて食べるけどカレーって認識でいいのかな?
「OK!ちょっと待ってろよ!」
〜十分後〜
「おまたせ!ヴィゾンダヴァー出来あがり!」
「うわぁ~美味しそうだ!」
匂いもカレーだ!
「いっただっきまーす!」「いただきまーす!」
味はカレーなのか?
ルーと米を合わせてスプーンにすくって口に放り込む。そして、何とも懐かしい味が口いっぱいに広がる。
「美味しい!」「美味っ!」
味もカレーだ! これは当たり料理だ! 辛さも丁度いい!
「いっぱいあるからどんどん食えよー!」
「はーい!」
〜食後〜
「ごちそうさまでした!」「ごちそうさまです!」
「また食いに来いよ!」
「はい!」
そう言ってドアを開け、廊下に出る。
「いやー美味しかったな!」
「そうだね!」
真っすぐ行って突き当りを右に行くと階段がある。この階段は、王城だから広いのかは知らないが兎に角長い。
しかもお洒落な事に螺旋階段なのである。この長さで螺旋階段は欠陥だろ。
「この階段結構長いよな」
「確かに……三十段以上あるもんね〜」
◇◇◇◇
「おし、登りきったぞー!」
つ、疲れた〜。どうしてこうも部屋と食堂の位置が離れているのやら……もうちょっと食後に優しくしてくりゃあいいのに……
「個室まであともうちょっとだね!」
「良し!あとはここを右に曲がって直進して左に曲がると……ってあれ?」
無い。部屋が無い。
「光喜!こっちだよー!」
「あっ。あっちか……」
自分でも思うけど今のはダサいな。自信満々にこっちだ! ってなってたもんな。でも、失敗は人に付き物。受け入れよう。
「到着ー!」
「やっぱり食堂まで長いよな」
「そうだね……」
それ関しては夏目も同感らしい
「何かもう疲れたな……」
「光喜、そういえばまだお風呂入ってないよね?」
「そう言えばそうだったな」
久しぶりの風呂か。そういや俺三ヶ月は風呂入ってないけど一緒に居て大丈夫なのか?
「入ってきたら?」
「う、うんそうするよ……」
また階段降りるとかないよな。流石にな
「どうしたの? 何か入りたくなさそうだけど」
いや、また階段降りるのかと……」
「あ、あぁ、降りるかも……」
やっぱりこの城欠陥王城じゃねえか! ……欠陥王城って何だ? 自分で言ってて良く分からん。
「そうか。それで、場所は?」
「階段降りてすぐ右だよ」
「そっか。じゃあ……入ってこようかな。流石に男女別……だよね?」
エイリアンに男女とかあるのかな
「うん、そこは安心しといて!」
「ふぅ~。良かった。じゃ、行って来る」
男女、あるみたいだな。
俺はその辺にあった新品のタオルを持って部屋を出た
「良し! 降りるのめんどくさいけど私もお風呂、入ろうかな!」
◇◇◇◇
王城の浴場。思ってた通り、とんでもなく広い。お湯が出て来るとこにマーライオンの像なんか作っちゃってさ。ホントに、裕福な人って憧れるな。
でもやっぱり……
「気持ち〜!」
それにしても誰もいないな。こんな場所貸し切りでいいのか? 念の為巻いておいたタオル、取っちゃってもいいかな……
そう思った時、ガラガラガラ、と引き戸が開いた音がした。この星の人かと思ったが、どう言う訳か、夏目がそこにはいた。
「ん?」
何でいるんだ……?
「ん?」
何でいるんだろう……?
「え?」「え?」
「な、何でここにいるの……?こ、ここ男湯だよ!?」
頼む!!時よ止まってくれ!切実な願いだけれども。
「え?ここ、男湯……?」
「そう、男湯」
くっ……俺よ……理性を、感情を抑えろ!!! 駄目だ夏目の方を見てはならない……!!!!!
「あ、あああぁあぁ!」
顔が急に真っ赤に染まり、急いでドアの元へ戻り、ドア開けて思いっきり閉める
「はあ、はあ、はあ……」
心臓がビートを奏でるように高鳴る。今まででもこんなに心拍数が上がった事はない。
「あぁ……やっちゃった……」
タオル巻いてたから良かった……
神石について③
魔法を作るコストを使用する魔法
防御魔法
対魔物魔法
一種類の魔法でニ種類の魔物に効果はない)
回復魔法(致命傷まで)
バフ魔法(攻撃力、防御力上昇は除く)
デバフ魔法(効果は五分)
空間魔法(コストを二つ使用)
その他(上記に当てはまらないもの)
作ることのできない物、魔法
神石
概念
不老不死
物理、魔法攻撃無効
透明化
飛行
時を操る
魔法製作コストの無効化、または減少
〜お風呂上がり 個室(光喜の部屋)〜
「あ~いい湯だったな〜」
夏目がまさかの男湯に入ってくるとは……
「zzz……」
おっと……夏目がまさかの俺の部屋に入ってぐっすり寝ているとは……
「はぁ……よいしょ!」
夏目を背負う。体重の事は……言わないで置こう。こういうのはトップシークレット、と言うらしい。
「う~ん。光喜〜……zzz」
え!? 今俺の名前を……!?
「あ、寝言か……でも名前言ってくれたのは嬉しいな。何でだろうな……」
夏目の部屋に到着し、夏目を降ろす。
「ふぅ……きっと夏目も疲れてるんだな……」
『おやすみ』
〜翌朝〜
あ~光が眩しい……何でよりによってカーテンがこの星には無いんだ! ったく……
そういや、夏目はもう起きたかな。
起きているかどうか確認しに夏目の部屋に向かう
「夏目、そろそろ起きたら……っていない!?」
・ ・ ・
思考が停止しているといきなり爆発音が耳に飛び込んできた。朝からどうしてこうも非日常的なのだろう。地球とはもうかけ離れた生活習慣だ。
「ん!?何だ何だ!?」
窓を開けて外を見る
「夏目だったか……」
頼むから驚かすのだけはちょっと勘弁してくれ……
「あっ!光喜!おはよう!」
「おはよう。朝から騒がしいな」
「ねぇ光喜見て!私結構魔法練習したの!」
「お、おう………」
俺はなぜか無意識の内に引き気味になっていた。なぜか……って、理由は分かりきっているか。
「いっくよー!ファイアー!」
そういえば何かファイアーとかウォーターとか魔法の名前ダサいな……かと言っていいネーミングセンスが私にある訳でもないし……暇な時間にでも考えておこーっと!
窓の外から夏目が魔法を撃つ様子を見ようとすると、予想外の威力で本能的に少し後退りする。
威力がヤバいのである。ここは地上三階。10mは火柱が燃え上がっているだろう。
しかも、熱放射と風が殺人的に熱い。
「ちょっ!風あっつ!あぁ目に砂が入った!痛い痛い!それに何か炎と言うより爆発に近い!」
炎と言うより爆発に近いものが収まる。こんなの地球に帰って見せでもしたら速攻友達0人孤独に人間兵器として生きる事になるな。
そうはさせないよう、俺も精進しなきゃだな。
「対魔法防御バリア張るの忘れちゃった……」
「やりすぎだって! 城壊したら弁償じゃないのか!?」
うぅ目が痛い……? 対魔法防御バリア? 何だそれ?
「すいません……」
「全く、反省したならもう怒りはしない。いい?」
「はい……」
まるで俺が夏目のお母さんじゃないか。母さんも俺を育てるのにはさぞ苦労したんだろうな……
「そういや、対魔法防御バリアって何だ?」
「それは、スライム事件で私達を助けてくれた兵士さんに習って私も魔法作ってみたの!」と即答。
「そうだったんだな。次からは気をつけろよ、庭が大変なことになったからな。直す人大変だろうな……あ、もう朝ごはん食べた?」
「まだ食べてない!」
「じゃあ朝ごはん食べに行くか」
「はーい!」
ホントに俺が夏目のお母さんみたいじゃないか。
小川夏目について
小川夏目はヘル第一高等学校に通う高校二年生。
とても活発で何かと落ち着かない。
好きな食べ物はシチュー。嫌いな食べ物はピーマン。
得意なことは釣り。
〜食堂 食事中〜
今日はトーストにバター、はちみつを掛けたちょっと優雅な朝食にした。なんとおまけで紅茶も付けてくれた。フーカさんはなんと気前がいいのだろう。
「そういえば光喜」
「ん?」
「今日の神石の調達についてなんだけどね」
「はいはい」
そういや昨日そんな事言ってたな。
「何か、聞いた限りだと私達が向かう場所はここから結構離れてて、それにとっても暑くて夜になると寒くなる砂漠みたいな場所らしいよ。確か、ここから東に十五キロ位のところにあるんだって」
「あー、それなら暑さとか寒さとかに対応できる魔法を作っておいた方がいいかもしれないな」
「後ね、夜には魔物も出るんだって!」
「お、おう……」
スライム事件みたいな強いのは流石にいないよな……
「どうしたの?」
「え、いや、何でもないよ……うん」
スライムに怖気づいたなんて夏目に知られたら失望されるか爆笑されるかのどちらかだな。
「ふ〜ん」
「な、何だよ」
何だこの目は。俺をまじまじと見つめている。しかも結構な至近距離(30cm位)で。どういう目なんだこれは?
「何でもな〜い」
「……」「……」
「はぁ、食べ終わったしもう行こうか」
「それもそうだね!」
全く、今の時間は何だったんだ?
◇◇◇◇
廊下を歩いて部屋に戻ろうとした時、夏目が話しかけてきた。
「ねえ光喜!」
「今度は何だ?」
何かさっきので警戒心が増したようなそんな気が。
「宝物庫行こうよ!」
「え? いや、どう考えても駄目だろ」
宝物庫って言うと、宝剣とかあんのかな。エクスカリバー的なのが。
確か神石を探してた時にそんなのを見たような……いやいや、そもそも無断で宝物庫に行くだなんて犯罪犯したら最後、斬首の刑が待っている。
「でも陛下がスライム事件のご褒美で好きなもの持って行っていいって」
「あー、それ先に言うやつじゃないか?」
え? 今好きな物持ってっていいって言った?
じゃあホントに宝物庫入っちゃっていいのか!? マジか。この星に来て早々こんなに恵まれているとは、まだまだ人生捨てたもんじゃないな。
「そうだね……まあ気を取り直して宝物庫行こうか!」
「宝物庫ってどこだろう……」
一回行ったが、神石探すので道なんて忘れた。ただでさえこの王城敵に攻められないように迷路みたいにしてるのに、宝物庫なんてどこにあるか分かる訳……
「まぁついてくれば分かるって!」
「そ、そうか」
ここは、夏目を信じよう。信じる心は大事だ。
〜宝物庫〜
本当に辿り着いた……。夏目、頑張って地図覚えたのかな。それにしても良くあの道を間違えずにここまで来れたな。俺なら確実に迷って野垂れ死ぬね!
「うわぁ~!宝石とかいっぱいある!」
「凄い量だな、これ」
これは陛下の凄さが分かる。もう金持ちを通り越してるな。
「何持って行こうかなー?」
お?如何にもな剣があるじゃないか。魔王を倒した伝説の剣『エクスカリバー』とかなんだろう。
この星を救う俺にぴったりな剣だな。
「これとか良さそうだな。って重っ!」
五キロあるだろこれ!? 片手剣ってこんなに重いもんか!? それともこの星の重力が地球より少しだけ高いとか……
「剣なんだからそりゃあ重いよね……」
ド正論だ。鉄の塊が軽い訳もない。
「でも使いこなせたら強そうだし、これにしようかな」
使いこなせたらの話だ。使いこなせなければ死ぬと考えておこう。そうしなきゃもっと早く死ぬ。
「そっか! あっ、私はこれにしようかな!」
そう言って夏目が掴んだのは神石だった。何で神石? まあ別に夏目がそれでいいと言うなら否定はしないが。
「神石にするのか?」
「そう!何か二つ持っていた方が強くなる気がするから!」
「魔法は吹きかけなくていいのか?」
「後でやっとく!」
忘れそうだな。何か。
「良し、それならこれで準備万端だな!」
「うん!」
「外、出ようか」
◇◇◇◇
宝物庫近くには裏口があるようで、そこから外に出た
「こんなところに外に出る扉があるんだな……」
「そりゃあお城だもん。それくらいあると思うよ?」
「そっか。そんでもってとりあえずどこに向かえば……!?」
「どうしたの光喜……!?」
そこにはワープホールらしき物と……
光喜&夏目『地球人!?』