11.地下神石採掘所
「ねぇ光喜。さっきはいきなりで良く分かんなかったからもう一回瞬間移動してくれる?」
「私も見たい」
好奇心があるのはいい事だ。心が元気な証拠だからな。
「お、おお。分かった。やってみるよ」と、丁度見えた岩を指差して言う。
「じゃああそこに瞬間移動してみる。ホントに一瞬だから、よーく見てろよ!」
「はい! 私、よーく見てます!」
「早く見せて」
意外にもアリスが急かしている。そんなに気になるのか。でも、一回落ち着かないと、な。
「まあそんな急かさない! 今からやるって!」
夏目とアリスが小さく頷く
「それじゃあ行くぞ! スキル瞬間移動!」
さて、今度はちゃんと移動してくれるよな……
「うわ! 光喜が消えた!」
そんな事は無い。俺はしっかりこの岩に移動している! 良かった。また変な所に行ったら面倒だからな。
それにしても便利だなこのスキル。遠い距離だと体力消費が激しいがこの位なら疲れずに移動出来る。
「夏目ー! こっちだー!」と、言って、手を振る。
俺何年ぶりに手振ったかな。もしかしたら小学生以来かもしれない。
「あ! ホントにあんなとこまで移動してる!」
「本当に瞬間移動出来てしまうなんて……」
「アリスも頭が切れるよな。凄いよ、すぐにこんな事を思いいちゃうんだからな」と、言いながらアリスの目の前に移動する
「うわぁ! ちょ、もう、驚かさないでくれる!?」
女の子というのは、どんな顔をしても可愛い物だ。
「いやぁ……済まない。悪ふざけが過ぎたな」
「全く……次は承知しないから」
「はい、申し訳ありませんでした」
と、言った所で、何だか凄く睨まれている気がするんだが、気のせいだよな?
ゆっくり後ろを向こう。そう、ゆっくりだ。ゆっく〜り……
! ! ! ! !
「良いなぁ………私もあんな風に光喜と遊びたいのになぁ……」
殺気!?
ヤバイヤバイヤバイ!!! このままだと殺されてしまう! 話を変えて怒りを鎮めなければ! てか何で怒ってんだ!?
と、兎に角ど、どうする!?
そ、そうだ!瞬間移動だ!きっと夏目なら食い付く筈………!
「なあ、夏目も俺みたいに瞬間移動してみたくないか?」
どうだ!?
「瞬間移動……やってみたい!」
良し、食い付いた。セーフ、セーフ……
「だろ? じゃ、早速やるか!」
「うん!」
機嫌治してくれて良かった……
「私も創る」
「お、そうか。じゃあ早速創る訳だが、魔法陣は出せるな?」
「当たり前よ! 馬鹿にされちゃ困る!」
夏目は魔法陣を出して自慢げである。
「それで、今魔法陣には4つの選択肢が表示されているよな。魔法構築、スキル構築、魔法強化、スキル強化だ」
「知ってる知ってる! 魔法防御バリアを創るときにしっかり理解しておいたからね!」
「理解するも何も無いと思うけど……」
「そういうんじゃなくて、私はしっかり理解しているという事を光喜に証明しただけなの!」
「はいはい、あんま怒らない」
「は……はい……」
何で夏目は俺が注意するとこんなにも大人しくなるんだろう。
「それで、今回瞬間移動で使うのはスキル構築だ」
「魔法構築じゃないの?」
「それは俺にも良く分からないんだが創る時にヒントでスキル構築だと表示されたからな」
「ふーん。そうなんだ」
この世の中には、余り深掘りしない方がいい物がある。そういうのは、そのまま受け入れるのが一番幸せなのだ。
「それで? タップしたら後は魔法を創る時と同じで良いの?」
「ああ、OKだ!」
〜スキル作製直後〜
《新たにスキル瞬間移動を獲得しました》
所持スキル
防御力強化 Ⅲ
攻撃力強化 Ⅲ
体力強化 Ⅱ
俊敏
言語理解
装備強化 貫通
《所持スキルに獲得スキルを追加します》
アナウンス? 友達がこんなのあったら良いなって言ってた奴かな?
異世界でこういうのがあるって言ってたけど………
まさかここってホントに異世界!? いやいや、流石にそんな事無いか。
そう言えば前に対魔法防御バリアを創った時はこんなの無かったけど……まぁいいや!
《新たにスキル瞬間移動を獲得しました》
所持スキル
電気魔法 Ⅱ
毒耐性 Ⅱ
熱変動耐性 Ⅱ
防御力強化 Ⅲ
属性魔法強化
《所持スキルに獲得スキルを追加します》
アナウンス? 今まで聞いた事が無い物ね。
色々なスキルがある……これから使うの楽しそう。
それに、これってワープホールの代わりって事? はぁ、これがあるならもっと早く気付きたかった……
「さ、スキルは創れたか? じゃあ疲れるだろうけど、王都に帰るぞ!」
「え!? ここから15キロだよ!? 大丈夫なの?」
「疲れるだけで死にはしないだろう」
賭け事は余り好きじゃないが、こればっかりはどうしようもない。今すぐにでも帰りたいのだ。
「そうだといいんだけど……」
「じゃあ、行きましょうか」
乗り気で良かった。反対されて15キロ歩くってなったらその方が死にそうだ。
「おう。じゃあ息合わせるぞ! せーのっ」
『王都トアハイトに、瞬間移動!』
一瞬目の前が暗くなったが、目を開けるとすでに到着していた。
「うわあ!」「おっと!」「うわっ!?」
まだ慣れない。長距離移動だと三半規管みたいなのが狂って上手く立てない。デメリットはこれか。
「いてて……尻餅、付いちゃったよぉ……」
「はあはあ……本当に、移動出来たみたいね」
息切れが激しい。かなり疲れた。休憩、しなければ……
ここは広場か。なら………
「あ、あそこにベンチがある。あそこで座って休」
「凶悪殺人犯とその仲間が居たぞー!」
なんて声が聞こえたのでついつい話をぶった切ってそっちを見てしまう。凶悪犯罪者って、そんな物騒な奴がどこに……
なぜかその声を出していた奴が俺を指差していた
「は?」
ただその事だけが頭を巡り巡っている。
俺が凶悪殺人犯!? 嘘だろ、何かの間違いだ。きっとそうに違いない。いや、絶対にそうだ、そうじゃないといけないんだ。
俺はさっきまで巨大ロブスターと闘っていた。それは夏目とアリスが保証してくれる。
どういう経緯で俺が今この状況に立たされているんだ? ここは広場、人が集まっている。クソッ、どうして俺が人々に注目されているんだ!!!
この白い目を向けられる屈辱。まるで地球にいた頃俺がアイツ等から向けられていた視線と同じだ……!
ん? 誰かがこっちに馬みたいなのに乗って向かってくる……あれは……
一 瞬顔が見えた、その時誰が来るか分かった。
『地球人!』
その人ならこの意味不明な状況を変えてくれるという思いがなぜか俺にはあった。
その人がこちらに来て馬らしき動物を止めて降りる、そして俺は直ぐ様こう言った。
「すいません助けて下さい! 何か周りの人が」
「黙れ。薄汚い犯罪者がこの騎士団長である三木隆幸に容易く口を利くな!」
え?
今度はその言葉が頭の中を駆け巡った
「我が名は三木隆幸。この国の騎士団長である! そして、私が今直々にこの忌々しい犯罪者を逮捕し、お前に判決を言い渡す! 犯罪者である霧谷光喜! お前は奴隷として地下で一生を終える終身刑と処す! 次にその仲間である二人の女は連帯責任として懲役64年だ!」
もう、脳内がパニックになった。この人は俺を助けるのではなくて、俺を陥れるために来たのか……
「違う! 俺はそんな事やっていない!」
俺がここにいたのはせいぜい5日位だ。しかもその殆どが王城で過ごした。
そんな中どう犯罪を犯せと! そもそも冤罪の癖に何を根拠に……!!!
「とぼけるな! お前の罪はDNA検査によって全て証明されているのだ!」
DNA、嘘だろ!? どう証明したってそれは意味不明だろ!!!
「俺が何したって言うんだよ!!!」
「自分がした事も白を切るつもりなのか貴様は! お前はここの近くにある民家の中に居た大人二人と子供三人を抵抗させる余裕も与える事無くナイフで滅多刺しにしたのだ!!! それがどれだけの大罪か分かっているのか!?」
「はぁ!? 俺がそんな事する訳」
「もういい! 話が分からん奴には痛みで知ってもらうのが一番の近道だ! おい! 奴の持ち物を奪い、縛り上げて十字架に架けろ!!!」
「はっ!!!」
俺がされるがままになっている所で夏目が口を開いた。良く耐えた。もう好きにしていい。
「ちょっと待ちなさいよ! 光喜がそんな事する訳」
「何だ、私に歯向かうのか?」
な、何、これ……この目付き、この体格、そして威厳。こ、怖い。なぜかそう感じる。立ち向かうのが、怖い。この人には勝てない。この人に勝てなかったら光喜も助けれない。
それなら光喜を一番安心させれるのはもうあれをするしかない。
逃げる事。体力はもう回復しきった。本気を出せば逃げ切れる筈……!
「瞬間移動!」
「そんな物で私から逃げられると思っているのか」
目の前に騎士団長が現れた。
「え、何で……ここが分かったの……」
「違う、お前は何処にも移動していない」
「え?」
辺りを見渡すと何も景色が変わっていないことに気付いた。え? 何で? どうして? 訳が分からない。
「コイツを連れて行け!」
「はっ!」
どうして、私はしっかり瞬間移動を発動した筈……
もう、担がれようが何をされようが逃げる気にはなれなかった。
「夏目!!!」
アリスの目は、絶望に満ち溢れていた。そして、涙があった。アリスは舌打ちをするとこう言った。
「私も同じ所に連れて行きなさい!!!」
アリスが騎士団長を怒りを爆発させたような形相で睨みつける。
「フッ、ならお望み通りにしてやろう! コイツも同じ場所へ連れて行け!」
「はっ!」
今の私にはどうすることも出来ない。夏目を護るのも、光喜を護るのも。自分すら護れなかった。
いや、護ろうとしていなかった。完全に諦めていた。ならばいつか強くなってこの二人を護って地球に帰る。
そして、あの銅像の意味を知る。
◇◇◇◇
「さあ、後はお前だけだぞ犯罪者」
十字架に架けられるのは痛くは無いがかなりキツイ。イエス・キリストもこんな感じだったのか。と思いながら今ある全ての力を振り絞って声を出した。
「五月蝿い。俺は何度言われようと犯罪者ではないと言い続ける。だが……」
今は余り抵抗してはいけない。
この騎士団長とやらには全てを奪われた今の俺にはを勝てる検討も付かない。
でも、これだけは言わせて欲しい。
「お前等が地位と名誉を使い、俺を犯罪者と言えばそれは肯定され、俺が悪人になる。だがな、実際の所は力が全てだ。それを覚えておけ」
「フッ、罪人の戯言など聞くにも足らん。我が国の住民よ良く聞け!!!」
騎士団長が俺を指差して言う
「今から一時間この犯罪者を殺さない限り何をしても良い事をこの騎士団長が許可する!」
「おー!!!」と歓声が湧き上がる
ほらな、やっぱり力が正義だろ。いいさ、受けて立とうじゃないか。
石を投げつけられたり殴られたり蹴ったりされるだろうが、そんなのでへこたれてるようじゃ地球には帰れない。
さぁ、来いよ。人々が俺に向かって来る様子を見るのは、何とも馬鹿らしくて情けない。哀れなもんだ。
そして、時間に負けた俺はいつしか気絶してしまった
◇◇◇◇
目が覚めた
まずはどこかしらからカンカンと高い音が止めどなく聞こえてくる。
五月蝿い。こっちは傷だらけなんだよ。少しくらい休ませてくれ。
そんで、ここはどこだ?
今俺がいるのは汚いベッドで俺が着ているのは汚い服で、お気に入りだった剣や超石は勿論無い。
「本当にここはどこなんだよ………」
と言いながら体の節々の痛みを堪えて個室らしき部屋から外に出ると、真っ先に文字が見えた。
『地下神石発掘所』と言う文字が