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0−3.王道を行く者

 光喜がUFOに連れ去られる2ヶ月前


 俺等の生活はあの人権無しがいなくなったことでより楽しく、豊かな物になった。家を出て行って当然の人間、いや、クズだったのだ。

 時々思い出すと思い出したくもない程腹が立つ。何故なら母さんを壊したからだ。

 母さんがアイツを好いているのは気に食わないが毎日光喜、光喜と呟き、泣きながらごめんなさい、ごめんなさいと何度も言っている所を見ると母さんに対してただ見守る事しか出来ない自分が情け無く思えた。

 母さんをこんな風に滅茶苦茶にされたんだ。謝れよ。なぁ。

 もし目の前にアイツが居たら死ぬまで、いや、死んでも殴り続けてやりたい。

 俺は悪くない。俺は悪くない。全てアイツのせいだ。何もかも。アイツさえ産まれて来なければ。もっと、楽しく生きて行けたのに。


 拳に力が入る。


 アイツは今何処で何をしているのだろう。このまま死んでしまっていれば良いのに。だがきっとアイツは何処かで生きている。

 そういう奴だと俺は昔から知っている。クソっ! クソっ! こんな事を考えたって何も変わらない。

 心の中で怒りが沸々と煮えたぎっている。此処にあるのは怒りと憎しみだけ。それもどこにもぶつける事の出来無い負の感情。

 自分の事が嫌になりそうだ。もう、こんな感情になるのもアイツのせいだ。捜し出す。

 必ず。どんな事があろうとも。


◇◇◇◇


 やっぱり今日も思い出してしまう。嫌いなのに。そう机にうずくまりながら思った。

 顔を上げて時計を見ると6時30分を指している。唯一あの人権無しがくれたお洒落な掛け時計。アイツが嫌いと言いつつも捨てるのは勿体ない。

 良く頭を撫でてもらった。今そうされたら余りいい気分では無い。殴ってしまうかもしれない。仕方無い。

 人を殴ったりするのは好きじゃ無いけどアイツは例外。

 だって私の大好きなお母さんを壊したんだもの。お母さんが毎日光喜、光喜と呟き、泣きながらごめんなさい、ごめんなさいと何度も言っている所を見るととても悔しくなって、怒りが込み上げてくる。

 お母さんがアイツを好いているのは何でか知らないけどそれだけが何かと気に食わなかった。それを取り除いたら完璧なお母さん。

 とても苦しそうでも笑顔で「ご飯作るから待っててね」と言ってくれる。私にはそんな凄い事出来る気がしなかった。アイツがあんな事をしたせいで。

 もう、お母さんの苦しそうな所を見たくない。どうしてこうなったんだろう。アイツなんか産まれて来なければ良かったのに。

 そうしたら、もっと楽しく暮らせたかもしれないのに。もし生きていたのなら捜し出してやって殴りたい。思いっきり。

 捜し出す。絶対に。


 その瞬間、体が消えた。周りが白い霧で覆われている。


 ここは……どこ?


 謎の空間に居たようだった。


 意識が、消えていく……


◇◇◇◇


 目を覚ますと隣にお兄ちゃんが居た。それと間髪入れずこんな言葉が入ってきた。


『勇者と聖女の転移に成功したぞ!』


 二人は同時にこう思った。


「は?」


 〜勇者と聖女について〜


スキル:勇者


 全ての属性の魔法を得意とし、魔法を撃つ際に神石を必要としない。

魔物特攻を持っており、大抵の魔物は一撃で倒せるようになるまたスキル『鑑定』を持ち、相手のスキルが可視化される。

 また、スキル勇者は神石で創る事は出来無い。


スキル:聖女


 バフ魔法や防御魔法を得意とし、どんな症状も魔法作製コストを使用せず完治可能。

 防御魔法は初期の状態でもとんでもない威力を発揮する。バフ、防御魔法を発動する際に神石を必要としない。


『勇者様と聖女様の転移に成功したぞ!』


「は?」


 こいつらは一体誰だ?『勇者様と聖女様の転移に成功した』だと? 何を言っているんだ? そしてここは何処だ?


 隣には結衣がいるみたいだ。服は……何か結構豪華だな。


 下を見ると魔法陣らしき物が描かれており、ここにいる人達や室内の感じを見た限り、ここはどうやら宗教の組織的な場所なのだろう、ということは何となく察せた。


 そんなことより何で俺はこんな所に居るのかをだな……


『勇者様! 聖女様!!!』


 ん? 何だ? この俺に向けて発せられたような声と視線は。

 もしかして勇者とやらは俺の事なのか? そして聖女は結衣の事か?


 そうだとしたら……なんてこった。絶対面倒事を押し付けて来るじゃねぇか……


 取り敢えずそれらしい返事を返してみるか。


「何だ」


「早速ですが勇者様、聖女様。お一つお願いが御座います。我等は闇からこの惑星を狙う秘密組織。その為詳しいことはお話できません。なので今教えられる事は全てお話致しましょう。我等が今ここに居るのは惑星アインザムカイト。アインザムカイトというのは私達が今ここに居る星の事でございます。そして今居るこの場所は何処にでもあるような民家、の地下深くにある秘密の教会でございます。ここに居るのは紛れもなく地球人であり、皆同じ気持ちを抱いております。それは何故か? それは……それは……」


 隣の人が話し始める。


「代わりに私が話しましょう。それはですね…理不尽な事にこの星の住民はある目的があり、それが何よりも第一に重要な事らしく、それを達成するために今まで沢山の地球人がこの星の人々によって連れて来られ、要らないと判断された者は即座に捨てられ、苦しい日々を送る羽目になったのです。そしてその者達が集まった物こそが、この秘密組織、『奴隷の目』なのです。」


 上を見ると大きく『奴隷の目万歳!』と、書いてあった。


「どうか、あの憎たらしい忌まわしきアインザムカイトの人々を殲滅して欲しいのです!」


「いや、急に何だよ!」


 と、口に出しかけたが何とか堪えた。


 はぁ? 殲滅? アインザムカイト? 奴隷の目? 何だそりゃ! まぁまぁ奴隷の目さんよ、言いたい事は何と無く判ったがちょっと話のスピードが早すぎやしませんか?

 それにそんな沢山の人が居なくなってるのに世界が放っていくわけ……

 いや、確か日本の年間行方不明者は85000人に昇るらしいから公にならなくて当然か。

 まぁ苦しい思いをしてきたんだろう。でもよー。何か色々言ってるけどホントはここ地球なんじゃないの?


 チラッと結衣の方を見てみた。結衣も不思議そうな顔している。


 もし、こいつらの言っていることが本当で、俺は地球に居ないとしたなら、だ。

 その場合、何かあんまり殺すとかそういうのは良くないんじゃ無いか? アイツの場合は別だが。

 取り敢えず断っておくか。物騒な話題は好きでは無い。アイツの話は除いてな。


「断る」


 周りに居た人間全員が驚いた顔をした。そのうちの一人が怒り気味で口を開いた。


「何故なのですか! 勇者様!!!」


 俺は即答した。


「人殺しは好きじゃないんでね」


 更に人々が驚いた顔をした。そして小声でこんな声が聞こえた。


「おい、これって失敗って奴じゃないのか?」


 その声を筆頭に話し声で少しざわつく。


 ていうか、何で俺が勇者なんだ?

 絶対地球で暮らしてた時から勇者には絶対結び付かないだろ!

 いや、俺だからこその意味は何だ? 何か俺に特別な物があったんじゃないか? そうだ。絶対そうだ。

 逆にそうでなきゃ俺がこんなところに居る意味なんてねぇ。よく考えるんだ……特別なもの……


 何故か光喜の顔が脳裏に浮かぶ。


 光喜!?


 なるほど、そういうことか。アイツは、この星にいる!

絶対に、だ。特別な存在って言ったらそうなるからな。

 いや、結衣も勿論特別だが今回はアイツが先に出てきたんだ。何か意味でもあるのかな。


 う~ん。


 胡散臭いが神とやらがここに導いた。良く分からん変な話だが妙に納得感がある。

 きっとそれだけアイツがこのアインザムカイトとか言う星に居そうな雰囲気がある、ということで良いのかな?


 ……兎に角! とっととここを出て、アイツを捜し出してこの手で殺す! 幸い俺は勇者になった。きっと強いのだろう。ん?


 目の前に剣が見えた。これは使える! 重そうだが仕方無い。

 そう思って剣を立ち上がると同時に持った。

 あれ? 軽い? ……あぁ、なるほど。きっと勇者補正が掛かってるんだろうな。まぁ軽いに越したことは無い。


「さあ、結衣、立ち上がれ! ここから出よう」


 結衣は多少戸惑いながらもこう答えた。


「え? あ、うん………」


 結衣がそっと立ち上がる。


「何をするおつもりですか。勇者様、聖女様」

「何って、ただこっから出てくだけだよ」


 急に顔が明るくなる。


「アイツらを殲滅に向かって下さるんですね!」


「はぁ。だから人は殺したくないんだ」

「では何故……」


「それは教える事は出来無い」

「まさか逃げるおつもりではないですよね?ですが仮に逃げたとしてもここは地下深く。到底逃げられるような作りにはなっておりませんよ。最も、ここからですら逃げられるとは思いませんけどね」


 俺の周りを人々が囲む。


 ここの人ヤバいって……

 絶対どうかしてる。早く逃げよう。って言ったってどう逃げようか……う~ん。


 右手にドアがあるな。あそこから逃げれそうだ。だがもし行き止まりだったら?

 いや、そんな事を考えている余裕はない。多少人は殺してしまうかもしれないが強行突破させてもらおう。だけども、俺に人なんて殺せるのか……

 こいつらは俺が歯向かった瞬間殺しにかかってくる。駄目だ。多分躊躇ってる内は生きてここを出られない。

やるしかないのか……


 俺は覚悟を決めて結衣の手を掴んで一気に走り出した。

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